にじライブのチャンネルに新たな公式番組が誕生しようとしている。
「「「シュメル王国復興バラエティ?」」」
「はい、是非お三方にやっていただきたいと思いまして!」
企画部の一之江英子は、鼻息荒く五期生であるギルベルト、イシュリー、エマへ企画を説明していた。
「番組のコンセプトは、深夜のテレビ番組のような雰囲気の番組です」
一之江の持ってきた企画は、今やマネージャーとして活躍している元企画部の三人から引き継いだ企画だった。
「収録時間も短めですし、あまり気負わずに自由にしゃべっていただければ大丈夫です!」
一之江は鼻息荒く企画説明を行っていく。
導入としては、シュメル王国を治める王ギルベルトの散財と、シュメル王国が祭る女神イシュリーのポンコツさが原因で国が傾くところから始まる。
内容は、傾いたシュメル王国を復興するため、神々が土塊から生み出した人形エマが全国各地を巡って様々な情報を集めるというものだ。
その映像を王であるギルベルトと女神であるイシュリー、そしてゲストが見てコメントをする。
映像を作るのもスタッフであり、エマも映像内ではぬいぐるみに声を当てるというもので、ライバー達の負担は少ない。
だが、ギルベルトは企画内容に対して渋い表情を浮かべていた。
「なーんか嫌な予感するんだけど……」
「何言ってんのギルちゃん! やろうよ!」
「ね、面白そーだね」
ギルベルトはそこはかとなく嫌な予感がしていたが、イシュリーとエマは笑顔を浮かべて参加を了承した。
「もちろん、やるのは構わないんですが、本当に大丈夫ですかこれ? 他の公式番組と比べてかなり緩い気がするんですけど……」
ギルベルトは企画内容の緩さに疑問を覚えていたのだ。
本来ならば、公式番組はもっと豊富な企画を用意しているものだからだ。
「いえ、そこはあえての緩さです。他の公式番組がしっかりしているからこそ、こういう適当に流し見するのにちょうどいい番組の需要もあると思うんです」
「計算された雑さ、ってことですか」
「はい! もちろん、何か不満があればその都度改善していきますので、どうかお願いできませんでしょうか?」
「なるほど……」
一之江の言葉に、ギルベルトはどこか納得したような表情を浮かべた。
「また初回のゲストは安定性を意識して、白雪さんと白夜さんにお願いする予定です」
「あっ、それなら大丈夫そうですね」
「林檎さんとコラボできるかもしれないんですか!?」
「白夜さんにもお世話になったなー」
初回ゲストの予定である二人の名前を聞いた途端に、三人は目を輝かせる。
それだけ二人への信頼は厚かったのだ。
「もちろん確定ではありませんが、そこは私や亀戸さん、阿佐ヶ谷さんの腕の見せ所です!」
気合十分といった様子の一之江を見て、三人は公式番組のレギュラーになることを了承した。
以前いたところとは違い、この事務所のスタッフ達は信頼できる。
そんな風に思えたのだ。
それから三人が会議室を出ると、意外な人物と鉢合わせた。
「……君達か」
「「「黒岩社長!?」」」
事務所にいたのは、以前魔王軍をプロデュースしていたバーチャルリンクの元社長黒岩力だった。
黒岩は気まずそうな表情を浮かべると、楽しそうに三人で会話をしていたギルベルト達を見て一人で納得したような表情を浮かべた。
「元気そうだな……まあ、それもそうか」
二代目魔王軍であったギルベルト、イシュリー、エマは怪訝な表情を浮かべて黒岩を見ていた。二代目も初代魔王軍であった白夜達ほどではないが劣悪な環境にいた。
黒岩を警戒するのも無理のないことだった。
「安心してくれ、なんて言えた義理ではないがな。今日は仕事の話で来ただけだ……それと、すまなかった。君達にも随分と辛い思いをさせてしまった」
どこか憑き物の落ちた表情で謝罪をすると、黒岩は去っていった。
「何で黒岩社長が……」
「仕事の話って言ってたよね?」
「何の仕事だろうねー」
どうしてにじライブの事務所に黒岩がいるのか。
Vtuber業界から手を引いたはずの人間がVtuber事務所にいるという違和感。
「彼は今、イベント運営企業にいるからね。にじライブの大きなイベントについていろいろと相談していたんだ」
「「「かっちゃん社長!?」」」
三人の疑問に答えたのは、いつの間にか近くに立っていた勝輝だった。
「正直、この話を彼のところに持っていくのは悩んだけど、視野狭窄にさえなっていなければ彼の手腕はかなりのものだ」
「確かに、Vtuber業界でも〝魔王軍〟ていう一大コンテンツ作った人ではありますからね」
「運営はクソでしたけどね!」
「うんうん、クソだったねー」
運営こそお粗末だったが、Vtuber業界において彼は先見の明があった。
それが、演者や優秀なスタッフが偶然一気に集結したことで、想定以上の売れ方をしてしまい調子に乗って視界が曇った。
逆に言えば、一度どん底に落ちて再スタートを切った今なら失敗した経験から彼の才覚が花開く可能性もあった。
レオがアイドルから落ちこぼれて、トップクラスのライバーになったように。
カリューがいじめを乗り越えて、大人気アイドルになったように。
タマが社会的に死んだも同然の状態を経て、にじライブの専属のイラストレーターとなったように。
取り返しのつかない失敗をした人間でも、更生することは不可能ではないのだ。
「彼も少しずつだけど変わってきている。犯した過ちは消えないけど、それをきちんと受け止めて前に進んでほしいと僕は願っているよ」
勝輝はかつての同級生に願いを託した。
これからもにじライブが発展するために、ライバー達が自由に活動できる環境を提供するために。
自分の仲間達が幸せでいられるように、と。
黒岩社長の心情の変化については、先のお話でやりますのでお楽しみに!