レオと夢美の結婚が発表されてからにじライブは忙しさに拍車がかかっていた。
「まだ先とはいえ、他の企画と並行して進めるとなかなかキツイもんがあるなぁ」
「私達は業務のほとんど引き継げて身軽になったとはいえ、ノータッチってわけにはいかないものね」
かぐやと乙姫はライバー活動に専念するため、自分の持っている業務を大幅に部下へと引き継いだ。
相変わらず各部署のトップという立場ではあるが、社員達が確実に成長していることもあり、二人の配信頻度は以前よりも増えていた。
「やあ、二人共」
「おっ、かっちゃん。おかえり」
「今戻り? 相変わらず忙しそうねぇ」
出先から戻った勝輝を見て、かぐやと乙姫は心配そうな表情を浮かべた。
「まあ、社長の立場ともなるとなかなかね。一応、営業部の方でもフォローはしてもらってるんだけどね」
「体には気をつけてね」
乙姫は勝輝の体調を気遣った。
しかし、勝輝の肉体は以前のようなだらしない体ではなく、しっかりと引き締まった健康的な肉体へと変化していた。
これは前回の年明けライブでうまく体が動かせなかった反省から来るものだった。
「わかってるって。それより、バーチャル披露宴の件は順調かい?」
「ああ、けもみ先生があり得んほど早くイラスト案あげてくれとるから仕事が捗るって担当の子が言っとったで」
バーチャル披露宴の特別イラストやグッズ関連はレオの担当イラストレーターであるけもみが担当していた。
レオにとって第二の母とも言える彼女は、息子の披露宴の特別イラストということもあり、おびただしい量のラフ画を短期間で量産していた。
「どのラフも素敵すぎて逆に迷っちゃうって、困ってもいたけどね」
「あの人の熱意も凄まじいものがあるからなぁ」
クオリティが高すぎて逆に迷ってしまう担当者の様子を思い出した乙姫は、楽しそうに笑った。
そこでふと、かぐやはある疑問を抱いた。
「ところで二人は結婚とか考えたりせんの?」
「結婚ねぇ……」
「何かピンとこないなぁ」
二人共、かぐやの言葉に難色を示した。
「年齢的にはちょうどいいんだけど、相手がいないのよねぇ」
「そうだね、どうにも仕事一筋で生きてきたからなぁ」
二人共仕事が充実していることもあり、結婚を考えることすらしていなかったため、誰かと付き合うということもしていなかった。
そんな二人を揶揄うように、かぐやはニヤリと笑って告げる。
「何ならいっそ二人がくっつくってのはどうや?」
「おいおい、カチカチ山の再来は勘弁してほしいよ」
「条件は悪くないけど、結婚して起こるごたごたの方を考えちゃうのよねぇ」
「あんたらは仕事基準で考えすぎやろ」
「「あなた(君)だけには言われたくない」」
「む……」
二人にぐうの音も出ない正論を言われ、かぐやは押し黙る。
思えば、この数年間ずっと前だけを見て駆け抜けてきた。
Vtuber業界も段々と開拓されはじめ、そこからさらに道を切り開いて進む。
新しいことに挑戦し続けるということには常に挫折が付き纏う。
「まあ、仕事をしているときが一番楽しいからしゃーないわな」
Vtuber業界が配信メインへとシフトしてから、Vtuberという存在から目新しさというものが失われつつあった。
数多のVtuberが似たようなスタイルになり、汎用的なものへと移行していく。
安定こそするが、革新的なものは生まれない。
その状況を打ち破るきっかけをくれたのはレオ達三期生だった。
「Vtuberはこうあるべき、こういうものだ。そういう概念を打ち破り続けることがウチらの使命であり生きがいや。せやから、ウチは一生仕事が恋人やで」
かぐやにとって、それこそが人生における最大の喜びなのだ。
だからこそ、常にVtuber初の快挙を成し遂げ続けるレオ達を先輩としても裏方として全力で支えるつもりだったのだ。
「ま、ウチらも負けてられんけどな」
「そうね。挑戦する心を失ったらやってけないものね」
「ああ、社長としても全力で取り組まないとね」
三人は拳をぶつけ合って笑った。
伝説の始まりである一期生。
彼らは伝説を量産し続ける三期生に負けるつもりは毛頭なかった。
「にじライブレジェンドアニバーサリー、か」
「延期に延期を重ねちゃったけど、ついに開催できるのね」
「これも黒岩君――いや、いわっちの協力のおかげさ」
三人は感慨深そうに呟く。
にじライブレジェンドアニバーサリー。
それは以前から開催しようと思っていた、二日間にわたるにじライブ総出で行うイベントだ。
ライバー個人はもちろん、参加するグループには自由に企画を考えてもらい持ち時間の中で好きなことをしてもらう。
公式番組の特別ステージも挟んだり、空いた時間で海外組に作成してもらったミニ動画も流したり、かつてない最大規模のイベントを行う予定だったのだ。
この企画は何年も前から開催予定だったが、開催は困難を極めた。
そんなときに手を差し伸べてきたのは、かつて魔王軍の騒動でバーチャルリンクと共に大炎上して灰となった黒岩だった。
彼は〝いわっち〟という名義で新たな仲間と共にイベント運営企業を立ち上げていた。
一度名声を失った者が再び上り詰めるのは困難を極める。
彼の所属している会社は規模が小さく、彼自身も積極的に現場を駆け回ることも多い。
うまくいかなかったことなど、数えきれないほどあっただろう。
そうして荒波に揉まれた黒岩は別人のような顔つきとなって勝輝の前に現れたのだ。
「レオ君達を見ていると思うんだ。人を自分の思ったように変えることはできない。けれど、先陣を切って前へ進み続ける背中を見せることで、多くの人へ変化をもたらすことはできるってね」
「せやな。あいつほど、ライバーになってから、いや、アイドル時代から人に影響を与えた人間もなかなかおらんやろ」
「私も何だかんだでまた表舞台に立っているものね」
過去と未来へ思いを馳せると、三人は顔を見合わせて獰猛な笑みを浮かべた。
「それじゃあまず」
「未来ある二人の結婚を」
「盛大に祝ったろうやないか!」
にじライブは開拓された土地に居座るだけのことはしない。
まだ見ぬ荒野を切り開くため、三人は仲間を連れて前へ進み続けるのであった。