Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【バラレオ夫婦】国内か海外か白黒つけるぞ!

「どうもみなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」

「はいはーい、こんゆみー。茨木夢美でーす」

 

[こんばん山月!]

[こんゆみー]

[すっかりカップルチャンネルみたいになってて笑う]

[カップルじゃなくて夫婦だぞ]

 

 レオと夢美は事前告知をした上で、配信を開始した。

 新婚旅行の行き先を決める配信というVtuberでは初の配信内容に、多くの視聴者達が駆けつけていた。

 

「さて、今回の配信では新婚旅行の行き先を決めていきたいと思います」

「絶対国内! 海外は面倒くさいからヤダ!」

「俺は海外に行きたいんですが、話し合っても決着がつかなかったのでこの配信で白黒つけます。つまり、皆さんが証人ということになります」

 

[新婚早々に夫婦喧嘩してて草]

[これぞバラレオ]

[新婚旅行すら配信のネタにするライバーの鑑]

 

 視聴者達は、結婚しても変わらぬ二人の空気感に安堵する。

 オープニングトークも終わったことで、レオは早速ルールの説明に入る。

 

「今回の対決では、ルーレットに行きたい旅行先をそれぞれ三つまで入力します。でも、ただルーレットを回すだけだとすぐに終わってしまうので、ルーレットの面積をかけて勝負したいと思います」

「どんな勝負だってあたしは負けない! パスポートとるの面倒くさいし、旅行先で言葉が通じないのもヤダ!」

 

[理由がしょうもなくて草]

[絶対に海外に行きたくないという意思を感じる]

[気持ちはわかる]

 

 夢美の言い分には一部の視聴者達も同意していた。

 海外に行くとなると、それなりに準備とリスクが付き纏う。

 面倒くさがり屋な人間は、余程の理由がない限り海外旅行には行きたがらないのだ。

 

「俺だって引くつもりはない。せっかくの新婚旅行だし、普段は行けない特別な場所に行きたいんだ!」

「はっ、海外に行きたきゃあたしを倒すことだね!」

「……何で立ちはだかる敵が俺の嫁なんだろうなぁ」

 

[草]

[敵は身近にいた]

[お前の嫁だろ、早くなんとかしろよ]

 

 本音を言えば、レオとしては国内でもいいのだが、この機を逃すと夢美とは二度と海外には行けないと確信していた。

 だからこそ、人生に一度のこの機会を逃したくなかったのだ。

 

「それじゃ、早速始めていくぞ。最初の対決内容はこれ!」

 

 レオはそう言うと、有名なカップ焼きそばメーカーが出している激辛焼きそばの写真を出した。

 

「一回戦、激辛焼きそば早食い対決じゃゴラァ!」

 

[初手からヤバいのきたwww]

[レオ君辛いのダメなのに大丈夫?]

[この夫婦エンタメ方向に全振りすぎる]

 

 この激辛焼きそば早食いは多くのユーチューバー達が行っており、レギュレーションも用意されていた。

 

「今回のレギュレーションでは、トッピングなしの同条件での勝負だ」

「絶対に負けねぇ!」

「それじゃ、湯切りが済んだこれを同時に食べ始めるぞ」

「おう!」

 

 レオと夢美はそれぞれの画面にタイマーを表示させ、同時にスタートをした。

 そして、激辛ソースが絡んだ麺を口に含んだ瞬間――

 

「げほっ、ごほっ!?」

「げぅ、おえっ!? おえぇぇぇ!?」

 

[こ れ は ひ ど い]

[※彼らは新婚夫婦です]

[バラギの圧倒的音の汚さwww]

 

 レオも夢美もあまりの辛さに派手に咽返る。

 特にレオは辛いものが大の苦手ということもあり、全身からはあっという間に汗が噴き出していた。

 

「けほっ、けほっ……まだまだァ!」

 

[無茶しないで……]

[喉は大事にしてもろて]

[何がレオ君をそこまで駆り立てるんだ]

 

 レオは辛さを堪えて麺を必死にかき込んでいた。

 ここにきて、レオは落ち目のアイドル時代にやらされた激辛料理早食い企画を思い出していたのだ。

 辛い思いをしてもお蔵入りになったあの頃に比べれば、今は辛い思いをするだけで撮れ高になる。ならば躊躇う理由はどこにもない。

 

「おろ――」

 

[バラギミュートにしてて草]

[こりゃいったな]

[旦那と早食い対決して嘔吐する嫁]

[何でミュートにするの!]

[ミュートたすからない]

 

 覚悟を決めたレオに対して、夢美はあまりの辛さに麺を吐いてしまったため、慌ててマイクをミュートにしていた。

 

「完食しました! 判定お願いします!」

 

 レオは完食するのと同時に、マネージャーである飯田に空になった容器を撮影して送る。

 写り込みなどがないことを確認した飯田は、レオに問題がないことを伝える。

 レオが写真を視聴者にも見えるように画面に映し出した。

 

「よっしゃー! 俺の勝ちだ!」

「ちくしょう……ちくしょう……!」

 

[レオ君、執念の勝利]

[どんだけ海外行きたいんだ]

[まあ、バラギはこれ逃したら海外行ってくれなそうだからな]

 

 第一回はレオの勝利。

 そして、それからも何度かゲームを繰り返した。

 その結果、レオの希望した場所の方が面積の多いルーレットが完成した。

 

「こんなことが許されていいの!?」

「いや、配信が盛り上がるように対決形式にしようって言ったの夢美だからな」

 

[自業自得で草]

[まあ、面積が広いだけでバラギの希望に当たる可能性もあるからな]

[どうせ希望の場所じゃなくても行ったら楽しいだろ]

 

 そして、ルーレットは周り始める。

 選択肢は、レオがイギリス、ハワイ、マレーシア、夢美が熱海、草津、金沢だった。

 

「よし、こい! 国内こい!」

「頼む、海外に止まってくれ!」

 

[何気にバラギの希望に止まりそう]

[バラギの希望、温泉地ばっかり]

[温泉入って旅館でダラダラしたい願望が透けて見えるな]

[レオ君は絶対海行きたそう]

[イギリス入ってるのは、ミコちゃんの故郷だからか]

[娘の故郷に行きたがる父親]

 

 二人の思惑を乗せたルーレットが段々と速度を落としていく。

 ルーレットの針は、夢美の希望である草津に止まりそうになる。

 

「草津こい! 温泉街でダラダラするんだぁぁぁぁ!」

「さてはお前観光する気ないな!」

「当たり前だろ!」

 

 二人が言い争っている内にルーレットが止まる。

 針が指していたのは、僅差でレオの希望したマレーシアだった。

 

「クソがァァァァァ!」

「というわけで、新婚旅行の行き先はマレーシアに決定しました!」

 

[おめでとう!]

[楽しんでこいよ!]

[バラギ、観念しろ]

[俺達が証人だ]

 

 こうしてレオの希望の行き先になったことで、新婚旅行の行き先決定配信は終了した。

 配信を終えたレオは、いつも以上に甘いミロを飲んで辛さを中和しながらも、夢美に嬉々として旅行のパンフレットを突き付けた。

 

「さあ、旅行プラン決めようぜ!」

「面倒くさいけど、まあ、たまにはこういうのもいっか……」

 

 決まってしまったものは仕方がない。

 夢美は割り切って、海外での新婚旅行をする方向に頭を切り替えた。

 

「アクティビティは抑えめにしてね? 動き回るのはキツイし」

「もちろんだ。ホテルのプールで酒を飲みながら寝そべったりする感じの方向性で考えようぜ」

「マジ!? それめっちゃやってみたい!」

 

 レオの提案に夢美は目を輝かせて飛びついてくる。

 何だかんだで、夢美も海外旅行は面倒くさいからしたくないだけで、やることが決まってしまえば楽しめる人間だった。

 

「そうだ、現地ガイドさんとかいた方がいいよな」

「日本語がわかる人がいた方がいいよねぇ」

「ん? 優菜だ……」

 

 二人共、言語に関しては日本語以外壊滅的だ。

 現地ガイドを雇おうか迷っていたとき、林檎から着信があった。

 

『もしもーし、二人共―? マレーシア行くんだよね?』

 

「優菜ちゃん、タイミング良すぎでしょ」

 

「配信見てたのか」

 

 レオは着信に出るのと同時に通話をスピーカーへと切り替えた。

 

『ちょうど、今カンナがうちに泊まりに来てるんだー。ちょっと変わるねー』

『あっ、もしもし?』

 

「カリューさん、お久しぶりです」

「カリュー! 久しぶりー!」

 

 林檎が電話を替わると、カリューが話し始める。

 海外ロケも終わって休暇が取れたため、カリューはちょうど林檎の家に泊まりに来ていたのだ。

 

『実はマレーシアならちょうどいいガイドさんを紹介できるんですよ』

 

「本当ですか!?」

 

『ジャラウー族っていう太古の海洋民族の末裔で、今は日本に住んでいる海原ラウタンさんっていう人なんですけど、この前の撮影で仲良くなって友達になったんですよ』

 

「待ってカリュー、情報量が多い」

 

 告げられたガイドの情報量の多さに夢美が混乱する。

 

『日本に住んでますけど、旦那さんと一緒にマレーシアのあちこち回ってるから、現地のことにも詳しいみたいなんです。今でも日本人向けの現地ガイドをすることもあるみたいだし』

 

「カリューさんの交友関係が謎過ぎる……」

 

『諦めなー、拓哉。掘り下げると、発音すら困難な民族の人とか出てくるからー……』

 

 カリューの友人シリーズには林檎も驚かされ続けていたため、すっかり慣れていた。

 とにもかくにも、レオと夢美は無事に新婚旅行先でのガイドを確保することに成功したのであった。

 


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