雲一つない青空が広がる。
穏やかな風が吹く中、祝福を告げる鐘が鳴り響く。
「新郎、司馬拓哉。あなたは中居由美子を妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
「新婦、中居由美子。あなたは司馬拓哉を夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
牧師が話す誓いの言葉に、二人は即答する。
二人は既に婚姻届を出しているため、現在の夢美の戸籍上の名前は司馬由美子だが、誓いの言葉では旧姓を使用していた。
「それでは、誓いのキスを……」
指輪を交換し、誓いのキスをする。
「かはっ……!」
「優菜さん、結婚式くらい耐えてください」
「ったく、しょうがないんだから……」
二人の誓いのキスを見守っていた林檎がいつもの発作を起こすが、両脇にいた白夜とカリューに支えられて何とか正気を保っていた。
ちなみに、結婚式の様子はレオや夢美が普段から世話になっている、にじライブの3Dカメラスタッフがカメラ係を買って出ている。
それから新郎新婦であるレオと夢美が一旦退場し、参加者達は披露宴会場へと移っていった。
会場には、レオ達と芸能人、テレビ関係者達がいた。
そのほとんどがレオの交友関係と言ってもいいだろう。
夢美に関しては、親族、真礼や和音、慈理などの友人、を呼んでいた。
あとは、二人の共通の関係者であるVtuber達が大勢いるという混沌とした状況だった。
「なあ、由美子」
「どしたん?」
「芸能人、テレビ関係者、Vtuberが一斉に集合する披露宴ってカオスすぎないか?」
「それは拓哉のせいでしょうが……」
普通ならば、まず見ることができないであろう光景に、レオは今更ながらに恐れおののいていた。
そんな主役の二人の元に真っ先にやってきた人物がいた。
「二人共、改めて結婚おめでとうな」
それはかぐやだった。
にじライブの伝説のはじまりであるライバー。
レオに再び夢を与えた存在は、潤んだ瞳で幸せそうな二人の姿を眺めていた。
「諸星さん、ありがとうございます」
「あたし達が結婚まで来れたのも、諸星さん達の協力あってこそですよ!」
「そう言ってもらえると、いろいろ頑張った甲斐があるわ」
「そうね、香澄ちゃんは物凄く張り切ってたのものね」
「こうしてVtuber初の夫婦が生まれたこと、社長としても嬉しく思うよ」
かぐやに続くように、乙姫、勝輝もやってくる。
こうして再び伝説の一期生が揃った。
それにはレオ達三期生の躍進は不可欠だったと言っても過言ではない。
「拓哉、由美子、ホンマにあんたらが後輩でウチは幸せや。これからもよろしくな」
「「はい!」」
三人がレオ達の元から離れていくと、今度は林檎とカリュー、武蔵に郁恵がやってくる。
「二人共結婚おめでとう!」
「本当におめでとうございます!」
「司馬君、由美子さん、結婚おめでとう」
「ご結婚おめでとうございます」
手越一家とカリューが一緒に挨拶に来たことに驚きつつ、二人は林檎の隣に白夜がいないことに怪訝な表情を浮かべた。
「あれ、司君は?」
「私の彼氏ならあっちで他の有名Vに捕まってるよー」
林檎はどこか不機嫌そうに白夜がいる方を指さした。
「司君、何気にVの交友関係広いもんね」
白夜は黎明期には魔王軍のサタン・ルシファナとして活動していたこともあり、Vtuber業界では顔が広い。
そのため、Vtuber達が大勢いるこの会場では多くのVtuberに声をかけられていたのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ優菜。彼氏ってどういうことだい?」
「あ、あなたお付き合いしている男性がいたの?」
「あ、やっばー」
彼氏がいることを聞かされていなかった武蔵と郁恵は激しく狼狽して林檎に詰め寄る。
「優菜……あんたわざとでしょう」
「にひひっ、バレたー?」
白夜にほったらかしにされたこともあり、林檎はささやかな嫌がらせをする。
こうして白夜は心の準備をする間もなく、大物芸能人と世界的なピアニストに挨拶するイベントが発生することが確定してしまった。
「司君、強く生きろ……」
「まあ、司君なら大丈夫でしょ……たぶん」
レオと夢美は白夜に近い未来訪れる試練に同情しながら合掌した。
「ねえ、拓哉、由美子。写真撮ろうよー」
そう言うと、林檎は二人の後ろに回り込む。
林檎の意図を察したカリューは苦笑しながらもカメラを構えた。
「そうだな、三期生での写真もいいな」
「懐かしいね。ポケセン行ったとき以来じゃない?」
レオも夢美も楽し気にカメラに向かってピースサインを向ける。
「はい、チーズ!」
「にひっ」
「うわっ!」
「ちょっ!」
シャッターを切る瞬間、林檎は悪戯っぽく笑うと、レオと夢美の腕を引いて二人の距離を一気に近づけた。
レオと夢美はバランスを崩して顔がくっつくほどの至近距離で困惑した表情を浮かべ、二人の頭の上から顔を出した林檎は満面の笑みを浮かべていた。
「イエーイ、ドッキリ大成功―」
「ったく、優菜は急にこういうことするよな」
「ホント、優菜ちゃんはこういうの好きだよね」
文句を言いつつも、懐かしいやり取りにレオも夢美も満面の笑みを浮かべていた。
そんな林檎の姿を見て、武蔵も郁恵も穏やかな笑みを浮かべていた。
「郁恵、優菜がライバーになって心から良かったと思うよ」
「ええ、私もあの子を無理矢理やめさせようとした昔の自分を張り倒したい気持ちでいっぱいよ」
自分達のせいで歪んでしまった娘は、にじライブに入って最高の出会いを果たして今、心からの笑みを浮かべられるようになった。
その事実は、手越一家の間にあった溝を確実に埋めていったのだ。
「まったく、優菜も人の幸せばっかり眺めてないで司君と結婚したらどうなの?」
撮った写真を確認しながら、カリューは林檎を揶揄うように告げる。
「えー、私まだ二十代前半だし結婚は早いでしょ。というか、カリューはどうなの?」
「私はとうぶん仕事が恋人ね。まあ、人と接する機会は多いし、どこかでいい出会いはあるかもだけど」
カリューは飄々とした様子でそう告げると、林檎の手を引いて歩き出した。
「それじゃあ、まだ挨拶したい人もいるみたいですし、私達はこれで」
「えー、もっとてぇてぇ空気を摂取したーい!」
「我儘言わないの。あんたはいつでも会えるでしょうが」
すっかり昔のような友人関係、いやそれ以上の親友となった二人の姿を見て、レオと夢美は優しい笑みを浮かべる。
「あの時、頑張って良かったね」
「ああ、本当にな」
クズという殻に閉じこもり泣いていた同期の姿はもうない。
そのことを再確認できた二人は楽しそうに笑い合うのであった。
ここから今までのサブキャラ大放出回になりますね