Vtuberが結婚披露宴を配信で行う。
業界初の出来事はネットニュースにもなり話題を呼んだ。
これをきっかけに自分の推しも結婚するのではないかと、一部のVtuberガチ恋勢達は不安がる者もいた。
それでもレオと夢美の関係は有名であり、彼らは特例中の特例だということもあり、ほとんどの者達からは祝福の声が上がっていた。
これも二人がデビューから今まで積み上げてきた結果だった。
「皆様、こんバンチョー。本日は獅子島レオさん、茨木夢美さんのバーチャル披露宴にお越しくださり、誠にありがとうございます」
[こんバンチョー!]
[バンチョーだ!]
[めっちゃ良い声で草]
[よそ行きの声で笑う]
司会を務めるかぐやが画面に現れたことでコメント欄は盛り上がる。
かぐやが司会を務めているのは、レオの希望によるものだ。
獅子島レオというライバーのはじまりのきっかけになったかぐや。
彼女がこうしてレオと夢美の結婚披露宴で司会を務めている。
その事実に、レオは胸が熱くなるのを感じていた。
「ゲストの皆様のお席は自由席となっております。ご自由にお席へおかけくださいませ。お二人のご入場までどうぞお席でおくつろぎください」
[本格的で草]
[わくわく]
[セットめっちゃ豪華だな]
画面に映し出される絢爛豪華な装飾が施された披露宴会場に、視聴者達はこの配信にいかに気合いが入っているかを感じていた。
何もかも本格な内容に、否が応でも期待が高まっていく。
そして、ついにレオ達の出番がやってくる。
「皆様、新郎新婦のご入場の準備が整ったようです。お二人のお顔が見えましたら、皆様どうぞ盛大な拍手でお迎えください。またスクリーンショットもご準備くださいませ。それでは新郎新婦、ご入場です!」
[888888888888]
[888888888888]
[888888888888]
[888888888888]
[888888888888]
レオと夢美は手を繋いでゆっくりと画面に入ってくる。
コメント欄は拍手のコメントで溢れかえっていた。
レオと夢美が所定の位置につくと、かぐやは再びしゃべり出す。
「それでは、ただいまより獅子島レオさん、茨木夢美さんのバーチャル披露宴を開宴させていただきます!」
[うおおおおおお!]
[結婚おめでとう! ¥30,000円]
[ご祝儀 ¥50,000円]
[ご祝儀 ¥50,000円]
[ご祝儀 ¥50,000円]
配信開始と同時にスーパーチャットが飛び交う。
コメント欄が真っ赤なスーパーチャットで埋め尽くされたことで、この様子は袁傪と妖精によるレッドカーペットと呼ばれることになるのであった。
「どうもみなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」
「みんな、こんゆみー! 茨木夢美です!」
[こんばん山月!]
[こんゆみー!]
[3D新衣装だ!]
[レオ君のスーツかっけぇ!]
[バラギのウェディングドレスドチャクソかわいい……]
[すげぇ、ちゃんと結婚指輪まではめてる]
レオと夢美は3Dの姿で登場した。
その姿はスーツとウェディングドレスという、この配信のために制作された特別モデルだった。
この配信を行うまでに期間がかなり空いていたこともあり、3D制作スタッフも気合を入れて二人の衣装を作成した。
使う機会はあまりないため、レオと夢美は当初わざわざ3D新衣装まで制作してもらうことは渋っていた。
しかし、3D制作スタッフはやる以上全力でやるべきだと言ってスケジュールを調整して制作に踏み切った。
にじライブはどんなことにでも全力で取り組む。
そんな姿勢がこの3Dモデルへ反映されていた。
「二人共、結婚おめでとうな!」
「「ありがとうございます!」」
[バンチョーも嬉しそう]
[怖い先生が卒業式でめっちゃ優しい奴じゃん]
「おい、コメント。お前、名前覚えたからな」
[ひえ]
[やっぱりバンチョーはバンチョーだった]
一ネタ挟みつつも、かぐやは笑顔を浮かべてレオと夢美を眺める。
かぐやにとっても二人は特別な後輩だ。
自分をきっかけに夢を再び追いかけ始めたレオ。
尊敬の対象であるため、いじってくれる人が少ない自分に積極的にプロレスを仕掛けてくれる夢美。
その他にも、二人の行動にはさんざん勇気をもらってきた。
そんな二人が幸せそうに笑っているのは、かぐやにとっても幸せなことだった。
レオと夢美は座る前に、画面の向こうにいる大勢の視聴者達に礼を述べる。
「皆さん、改めまして俺達は夫婦となりました」
「これもいつも応援してくれる皆様の力あってのものです」
「「本当にありがとうございます!」」
[礼を言うのはこっちの方だよ!]
[ああ……尊い]
[ありがとう……ありがとう……]
[この尊さはもはや万能薬]
視聴者達は配信が始まったばかりだというのに、尊死者が続出している。
それだけこの二人の結婚は望まれているものだったのだ。
「それじゃ、今日は思う存分楽しんでくれ!」
「最高に可愛いあたしの姿を目に焼き付けな!」
[レオ君かっこいい!]
[レオ君最高!]
[やっぱレオ君しか勝たん!]
「あたしのことも褒めろよ!」
[はいはい]
[うんうん、かわいいかわいい]
[いい旦那持って幸せだな]
「お前らァ!」
「妖精たちは相変わらずツンデレだな」
「ウェディングドレス着とっても、中身はいつものバラギやな」
意地でも素直に褒めようとしない妖精達にレオとかぐやは苦笑する。
もちろん、高速でコメントが流れているだけで、こっそり夢美を褒めているコメントもある。
その事実に夢美は口元が緩むのを感じていた。
「さて、ご挨拶も済んだことでまずは告知をさせていただきます!」
レオがそう言うのと同時に画面がグッズ一覧の画面へと切り替わる。
今回のバーチャル披露宴に向けてアクリルスタンド、アクリルキーホルダー、ぬいぐるみ、スマホケースなど、様々なグッズが作られた。結婚ボイス付きという特典もある豪華仕様となっていた。
「あたし達のウェディング姿のイラストはレオのママであるけもみ先生に描いていただきました!」
「いつも早い仕事ありがとうございます!」
[さすがけもみママ!]
[けもみ:ご祝儀! ¥30,000円]
[本人いて草]
「けもみ先生、赤スパありがとうございます!」
「グッズは完全受注生産となっており、予約には期限があるため、欲しい方はお早めにご予約ください!」
「忘れた頃に買えなくなってもしらないからな!」
[もう予約した!]
[買うに決まってるだろ!]
[俺の貯金が火をふくぜ]
[火をふいちゃまずいだろ]
「それではグッズの宣伝も終わったことですし、ここでお二人にはケーキ台の前までご移動いただき、ケーキ入刀、ファーストバイトを行いたいと思います。ウェディングケーキ、でてこいや!」
[でてこいやは草]
[急に素に戻るのやめろwww]
[ケーキ入刀期待]
かぐやの掛け声と共に3Dモデルまでしっかり作り込まれたケーキが入ってくる。
「みなサーン! 新郎新婦の愛娘がケーキ持ってキマシタヨ!」
[ミコちゃん!]
[娘がウェディングケーキ持ってくるのかw]
[ミコちゃんニッコニコやんけ]
ウェディングケーキを運んできたのはミコだった。
ミコは先日の結婚式のときもそうだが、こうして表だって二人の結婚を祝えることを心から嬉しく思っていた。
「ちなみに、このウェディングケーキは新郎新婦のご友人のまーやさんが作成されました」
[でた豪運パティシエ]
[神の手を持つ女]
[ガチャの教祖]
[俺もまーや教入信したわ]
真礼はすっかりレオと夢美のガチャ配信でガチャの当たりを引く教祖として崇められていた。
特にガチャを配信で引くことの多いレインは、夢美に頼み込んでガチャ応援ボイスをもらうほどだった。
ちなみにその配信ではレインもお目当てのキャラクターを一発で引いていた。
レオと夢美がウェディングケーキの前に移動したことを確認すると、かぐやは司会を続ける。
「後ほど写真の方もあげさせていただきますが、皆様もスクリーンショットのご準備をお願いします。それでは、新郎新婦によりますケーキ入刀です!」
レオと夢美の持ったナイフが真礼の作ったケーキに入る。
これによってSNSは賑わい、〝バラレオ夫婦〟〝ケーキ入刀〟〝バーチャル披露宴〟などの単語がトレンド入りすることになるのであった。
ケーキ入刀も終わり、余興の時間がやってくる。
司会を務めるかぐやは、脇で待機している四人を見て笑顔を浮かべる。
この後行われる余興は、またしてもVtuber史上前例のない出来事だ。
だが、その前にまずは夢美に対する余興で会場を温め直さねばならない。
これからの視聴者達の反応を思い浮かべたかぐやは、心からこの披露宴の司会を任されて良かったと思うのであった。