余興の準備もできたことで、かぐやは早速夢美に席を立つように促した。
「それでは余興の時間がやって参りました。新婦バラギ、ご起立ください」
「おっ、あたしのターンがきたぜ!」
[何がはじまるんです?]
[新婦バラギで草]
[これは期待]
このバーチャル披露宴の余興では、レオと夢美の願いを叶える企画を行うことになっている。
予めいくつかの願いを二人にヒアリングしてスタッフが用意した企画に、二人も期待に胸を高鳴らせていた。
「バラギ、準備できたで」
「ありがとバンチョー! 楽しませてもらうぜ!」
夢美は浮かれた足取りで所定の位置へ就く。
「バラギの願い、それはこれや!」
かぐやが指をぱちんと鳴らすと、画面上から大量のお札が振ってくる。
これは先ほど、視聴者達が送ったご祝儀スーパーチャットである。
ウェディングドレスを身にまとった状態で、夢美は降り注ぐ札束に狂喜乱舞した。
「や゛った゛ァ゛ァ゛ァ゛! か゛ね゛た゛ァ゛ァ゛ァ゛!」
[草]
[こ れ は ひ ど い]
[過去最高に汚い声出てて草]
[ウェディングドレスがキレイだから対比でひどいことになってる]
夢美はそのまま寝転がり、札束に溺れるようにジタバタし始める。
その欲に塗れた姿は、ある意味夢美らしいといえば夢美らしい姿だった。
「スパチャスパチャスパチャ~スパチャを~投げると~♪ バラギバラギバラギ~バラギが喜ぶ~♪ ……はい、どーぞ!」
[どうぞじゃないが]
[清楚死亡定期]
[ウェディングドレスで地べたに寝転がるな]
[はい、どーぞ ¥5,000円]
「レオ君、お前の嫁だぞ何とかしろ ¥50,000円」
[欲にまみれた歌で草]
[ ¥50,000円]
[エグい額のスパチャ飛びすぎだろwww]
[明らかにサブ垢っぽい奴も限度額投げてる……]
先ほどご祝儀スーパーチャットが飛び交っていたばかりだというのに、再びスーパーチャットが飛び交い出す。
中には限度額を投げてしまったため、別のアカウントでスーパーチャットを投げている者もいたくらいである。
「……なあ、レオ。あんたの嫁はこれでええんか?」
「えっ、幸せそうでいいじゃないですか?」
「パパはママに甘すぎマス」
[レオ君……]
[ダメだこいつ、嫁が幸せそうなら何でもいいやつだ!]
[でも幸せならOKです]
[さすがのミコちゃんも呆れてる]
[レオ君、嫁が絡むとすぐ価値観バグるんだから……]
レオとしては夢美が心から笑っている姿は何よりも綺麗だと思っていたため、金に溺れてジタバタしている妻の姿を見ても笑顔のままだった。
「よし、せっかくやしこういうのはどうや……」
かぐやは良いことを思いついたという表情を浮かべてレオに耳打ちする。
「おっ、いいですね!」
レオはそれを二つ返事で了承して、夢美の元へと歩いていく。
「夢美、ちょっといいか?」
「ん、何――おわっ!?」
レオは夢美の手を引くと、不意打ちでお姫様抱っこをする。
夢美も反射的にレオに抱き着いたため、特に問題なく体勢は安定していた。
「こっちの方が絵面的にキレイだろ?」
「や、ちょっと……さすがに恥ずいんだけど」
「今更だろ」
「両親が、尊い、デス……」
[あ゛(尊死)]
[娘まで尊死してて草]
[待ってるのが札束なのに、すげえ絵になる]
[最高! ¥10,000円]
[尊すぎて灰になった ¥30,000円]
札束が舞う中で新郎が新婦をお姫様抱っこする。
かぐやの指示で鐘の音が鳴り始めたこともあり、その映像は日本だけではなく世界中で話題となった。
咄嗟にこれを思いついたかぐやは二人の姿を眺めて満足そうに頷いた。
ちなみに、ミコは静かに地べたに両手を組んで横になっていた。
その後、大量に送られたスーパーチャットのせいで一時的に映像が処理落ちするなどのトラブルはあったものの、無事に夢美への余興は終了した。
「さて、次の余興に移らせていただきます。新郎レオの友人達の皆様、どうぞ!」
「ドウゾー!」
かぐやとミコの言葉と共に、ずっとスタンバイしていた四人が入ってくる。
「ああ、カラオケ組のみなさ――えぇぇぇぇぇ!?」
「ちょっ、えっ、大丈夫なの!?」
レオの要望は、やっぱりカラオケ組を呼びたいというものだった。
にじライブは要望通り、カラオケ組のメンバーを集めた。
バーチャル四天王と名高い坂東イルカ。
鼓膜破壊兵器レベルに元気さが売りの但野友世。
バーチャル界の歌姫こと七色和音。
そして、にじライブでも頭角を現した人気男性ライバー白鳥白夜――ではなく、サタン・ルシファナの姿があった。
「ふっはっは! 諸君! 久しぶりだな!」
「うふふっ、本当に久しぶりですわね」
「ほらほら! 魔王様のお通りだぁ!」
「……改めて考えるとすごいことしてますよね」
[!?!?!?!?]
[ファッ!?]
[待って待って頭が追い付かない]
[何で魔王様がいるの!?]
[どういうこと!?]
二度と表に出てくることないはずだったサタン・ルシファナの復活。
あり得ない現象に、視聴者達を含めてかぐやと白夜以外の全員は激しく混乱した。
「ふっ、簡単なことだ。にじライブは既に吾輩の魂を手中に収めていた。肉体を復活させるため、とあるものを買ったのだ!」
「ま、まさか……!」
レオはある可能性に思い当たり、白夜とかぐやに視線を向けた。
「せや! サタン・ルシファナに関する権利関係。この全てを買い取ったんや」
「レオの望みは〝カラオケ組をゲストに呼びたい〟だっただろう?」
[とんでもないことしてて草]
[やっぱにじライブ頭おかしいわ]
[誰がここまでやれと言った……ありがとう]
[伝説一丁入りましたー!]
既にデビューしているライバーの他社で活動していたVtuberのモデルの権利を買い取って再使用する。
そんなこと前例がなかった。
しかし、にじライブはやってみせた。
ロールプレイを崩さない言い回しと設定。それさえ用意できれば後はどうとでもなる。いや、どうとでもしてみせたのだ。
「ちなみに、この姿はそう頻繁に出す機会はなくてな。とあるライバーのチャンネルでは見れるかもしれんな」
「そのチャンネルは概要欄に張ってあるでー!」
概要欄に張ってあるのは白夜のチャンネルだ。
それを察したレオと夢美は笑顔を浮かべると、同時に叫んでいた。
「「みんな、今の魔王様の魂があるチャンネルの登録よろしく!」」
[泣いた]
[これはマジですごい]
[前例がないなら前例を作ればいいじゃない理論]
[視界が歪んで見えない]
サタン・ルシファナの復活は忽ち話題となる。
元々事務所の問題で辞めざるを得なかった人気のVtuberの復活である。
喜ばれないわけがなかった。
カラオケ組とかぐや、夢美、ミコを交えて談笑していると、突然優雅なピアノの音色が響き渡る。
ピアノの音が止むと、呑気な声が響き渡った。
「あれれー、魔王様じゃーん」
「ふっ、久しいな焼き林檎」
[白雪きちゃあああ!]
[カプ厨筆頭がこの配信に来ないわけがない]
[何気に久々なサタンゴ]
半ば予想されていた林檎の登場に、再び場が盛り上がる。
林檎はピアノから離れると、白夜の元へと駆け寄って楽し気に笑った。
「何、死者蘇生でもしたのー?」
「そんなところだ」
「じゃ、またゲームで勝負できるねー!」
「望むところだ! 貴様とは決着を付けなければいけないからな」
白夜、先日心の準備もできずに強制的に林檎の両親に挨拶させられたのを根に持っていた。
ちなみに、緊張しながらもきちんと挨拶をした白夜に、武蔵も郁恵も普通に好印象だったことは白夜は知らない。
「それじゃ、もう一曲弾くからみんなで踊ろうよー」
「あっ、私歌いますね」
林檎と和音がタッグを組み、伴奏と歌を担当する。
優雅な音楽が奏でられる中、全員が踊り始める。
途中、林檎を強制的に白夜と踊らせようと画策したミコがピアノ伴奏を代わるなどして、全員が楽しい時間を過ごした。
いくつもの前例をぶち壊して見せたこの配信は、にじライブに存在する数多の伝説の一つとして刻まれることになるのであった。