Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【新婚旅行】いざマレーシアへ その1

 

 

 レオは案件配信を終えてから急いで既にまとめてあった荷物の中身を再度確認した。

 

「拓哉、もう出れる?」

 

 レオの配信を見ながら作業をしていた夢美が部屋へと入ってくる。

 その手には買ったばかりでまだ光沢を放っているピンク色のキャリーケースが握られていた。

 

「ああ、荷物の確認も終わった」

「オッケー、じゃああたしの荷物確認一緒にしてよ」

「お前、人に出発できるか確認しておいて……」

「いや、あたしぞ? 一人できちんと確認できると思う?」

「思わない。……さっさと確認するか」

 

 レオは手分けして夢美の荷物の確認を始める。

 案の定、パスポートやチケットのしまった場所を忘れててんやわんやの騒ぎだったが、そこは夢美に理解のあるレオである。

 時間に余裕をもって準備していたこともあり、問題なく二人は成田空港へと向かった。

 

 

 

 成田空港に到着すると、二人は搭乗手続きを済ませて空港内のカフェでのんびりと過ごしていた。

 

「それにしてもあたしが新婚旅行とはねぇ。高層ビルのガラス清掃してた頃からは考えられないわ」

「そりゃ俺も同じだ」

 

 レオは飛び立つ飛行機を眺めながらミルクティーを口に含む。

 今思えば、衝動に任せてにじライブのオーディションに参加したのは間違っていなかった。

 夢美と再会できたのも、自分の夢に再び近づくことができたのも、このどこまでも自由な事務所に入ることができたからだ。

 

「たぶん、事務所に入ってなかったら一生居酒屋バイトで人生を終えてたと思う。まあ、それはそれで楽しかったんだが……美人の妻ができるとなれば話は別だな」

「おっ、もっと褒めていいんだぞ。夫婦円満のコツは旦那が妻を褒めることだよ」

「一方的過ぎるだろ……いや、まあ、これからも褒めるけど」

 

 レオと夢美は久しぶりにゆったりとした二人きりの時間を堪能する。

 飛行機の待ち時間とはいえ、そんな時間すらも二人にとっては貴重だった。

 

「それより、一日目のクアラルンプールはどこ行くの?」

「お前、あんなにホテルでのんびりしてたいって言ってたのにノリノリだな……」

「何か、いざ行くってなったらテンション上がってきちゃって」

 

 夢美は思ったよりも旅行に対して乗り気になっていた。

 いざ行くことが決定してみれば、旦那と共に行く初めての海外旅行、それも新婚旅行である。

 景色も良いところが多く、疲れることや準備の面倒くささを抜けば観光自体は嫌いではない夢美の気分が上がるのは当然のことだった。

 

「現地に詳しいラウタンさんに任せて、有名な観光地回る予定だよ。まあ、ツインタワーは行くだろうな」

「ツインタワー?」

「昔、世界で一番高かった超高層ビルだよ。東京タワーより高いんだぞ」

「スカイツリーは?」

「さすがにスカイツリーよりは低いぞ」

 

 ペトロナスツインタワー。

 マレーシアに存在するかつて世界で一番高かった超高層ビルである。

 レオはかつてSTEPのアジアライブツアーで訪れたことがあり、再び行くことができるということもあり心が躍っていた。

 

「最後に行ったのは十年以上前だからな。ランカウイの方も楽しみだ」

「島の方はのんびり過ごせそうだもんね」

 

 レオと夢美は新婚旅行の予定として、二日目にはランカウイ島へと行く予定だった。

 もちろん、ガイドであるラウタンも付いてくる。至れり尽くせりである。

 

「あ、そろそろ時間じゃない?」

「えっ、もうそんな時間か。何か昔に比べて飛行機の搭乗待ちの時間が短く感じるな」

「最後に海外行ったの高校生のときなんだからそりゃそうなるでしょ」

 

 レオと夢美はすっかり話し込んでいたことに気がつき、小走りで飛行機の搭乗口へと向かった。

 手荷物をしまうと、レオと夢美は席に着いた。

 

「こ、これがファーストクラス……!」

「今のうちに写真撮っとくか。新婚旅行の振り返り雑談で使うし」

「あっ、映り込みには気をつけなよ。モニターとかあるんだから」

 

 二人はてきぱきとファーストクラスの写真を撮影していく。

 ここにきてもまだ配信のことを気にしてしまう辺り、二人の職業病はかなりのものだった。

 

「それにしても、映画とかも見れるし座り心地も最高! これでうまい飯も出てくるんでしょ? やばない?」

「まあ、ファーストクラスだからな。アイドル時代はエコノミークラスでの移動だったから、疲れもあんまり取れずに観光なんてほとんどできずにライブのリハーサル……」

「おいこら、新婚旅行中に芸能界の闇を思い出すんじゃない」

 

 遠い目をして過去の闇を語りだすレオに、夢美は頬を膨らませて両手を頬に思いっきり叩きつける。

 

「痛っ、由美子お前何を……」

「今から余所見禁止。せっかく楽しい新婚旅行なんだからあたしだけ見てなさい」

「は、はい……」

「よろしい」

 

 夢美は上機嫌に笑うと、ファーストクラスの席に思いっきり腰掛けて周囲の迷惑にならない程度にはしゃぎ始める。

 離陸してからも、二人は存分にファーストクラスを楽しもうとしたのだが、結局座席が心地よすぎたため、食事のあとはそのまま眠ってしまった。

 もっとファーストクラスを堪能したかったと思いつつも、帰りにまた楽しめばよいと気持ちを切り替えて空港へと降り立つのであった。

 


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