Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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カラオケ企画が書いてるの楽しすぎて筆が載った結果、なかなか本筋の話が進まないという……。




【3Dカラオケ】Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会! その2

「次に歌ってくれるのは七色和音ちゃん。どうですか自信のほどは?」

「が、頑張りましゅ!」

 

[可愛い]

[助かる ¥1,000円]

[頑張って!]

 

 和音は緊張のあまり頭が真っ白になっていた。

 彼女はあがり症で人前で歌うのが苦手なタイプだった。

 そんな彼女が無理をしてでもこの企画に参加したのは、ひとえに板東イルカへの憧れからだった。

 イルカに憧れてVtuberになった和音は自分の得意な歌で勝負し、成功した。

 だが複数人のいる環境で歌う機会はなく、基本的に彼女は歌動画を出すか、歌枠の生配信で歌っていたため、この手の企画は彼女と相性が悪かった。

 プルプルと震える手でマイクを持つ和音をレオは心配そうに見つめる。

 

「そ、それでは歌います!」

 

[こんな大人数の中で歌うの初めてじゃね?]

[いつも自分の配信や動画で歌ってるもんな]

[そりゃ緊張もするわ]

 

 緊張でガチガチになっていた和音だったが、イントロが流れ出した瞬間、表情が変わる。

 

「二人で~♪ 写真を撮ろう~♪ 懐かしいこの景色と~♪」

 

[ファッ!?]

[愛をこめて花束をか]

[前にも配信上で歌ってたよね]

[えっ、声全然違うじゃん!?]

[すごっ!]

[これが噂の七色様か……]

 

 先程までの弱弱しいウィスパーボイスはどこへやら、ハスキーでパワフルな歌声が聞こえてきたことに視聴者達は大いに驚く。

 現実の表情もキリっと凛々しくなっていることで、共演者達も呆けた様子で彼女が歌う姿を見ていた――ただ一人レオを除いて。

 

「愛をこめて~♪ は~なたばを~♪ 大袈裟だ~けど、受け取って~♪」

 

[俺のスパチャも受け取って ¥10,000円]

[受け取れないんだよなぁ]

[ここイルカちゃんのチャンネルだぞ]

[どれだけ普段力セーブしてるんだよ]

 

 ――呑まれているな。

 現役時代、歌唱力はあるのに売れなかった後輩を見てきたレオは気づいていた。和音は場の空気に呑まれて本来の実力を発揮できていなかったのだ。

 一見、周囲から見れば緊張が解けて本来の実力を発揮して歌っているように見えるだろうが、わずかに音を外している個所がある。

 和音の現状に関して、レオは自分ができることは何もないと思っていた。

 サタンのように、配信で歌うことが危ういほどではない時点で、配信者としては問題ないからだ。

 これに関しては歌唱力の問題ではなく場数の問題だ。レオだってデビュー当時はうまく歌えなくて悔しい思いをした。人前で最高のパフォーマンスを引き出すにはとにかく人前で歌って慣らすしかないのだ。

 

「いつまで~も、そばにい~て~♪ ……ご、ご清聴ありがとうごじゃいまた!」

 

[急にポンコツになるやん]

[かっこいいと思ったら可愛かった]

[最高だった!]

[この後の歌うライオン大丈夫?]

[上がり続けるハードル]

 

「やー! 凄かったねぇぇぇ! 点数も93点で最高得点じゃん!」

 

[おいバカやめろ]

[和音ちゃんのあとの友ちんは凶悪コンボ過ぎる]

[歌直後じゃなかったら即死だった]

 

「素敵な歌声をありがとうございました!」

「力強く麗しき歌声だったな!」

「あ、ありがとうござい、ます……」

 

 歌を絶賛する共演者に和音はぎこちない笑みを浮かべた。

 

「凄く力強い歌声でしたね。アイドルやってた時でもなかなか見ないレベルの歌唱力でビックリしましたよ」

 

[えっ、このライオン元アイドルなの?]

[だから、こんばん山月なんやで]

[そういうことか]

[理解できない俺がおかしいのか……]

 

 レオはひとまず和音の歌を褒めることにした。勝手に過去の自分を重ねて上から目線でアドバイスなど送れるはずもない。

 しかし、気遣わしげな表情が出ていたのだろう。

 和音はそんなレオを見て、驚いたように目を見開いた後、決意の籠った眼差しでレオを真っ直ぐに見据えて言った。

 

「あの獅子島さん」

「どうしました?」

「あなたの本気を見せていただけますか」

 

[急にどうしたんだ和音ちゃん]

[ライバル意識でも芽生えたか]

[落ち着け、相手はただのライオンだぞ]

[普通にしゃべってるのに弱弱しくない和音ちゃん助かる]

[まーたライオンのハードルが上がったよ]

 

 そんな挑戦的な和音の言葉にレオは――肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべた。

 

「ええ、喜んで……!」

 

 その瞬間、その場にいた全員が凍り付いた。

 レオの浮かべた肉食獣のような獰猛な笑みは、人気アイドル〝STEP〟のセンターだった頃にライブ中よく浮かべていた笑みだっからだ。

 共演者達はレオが元アイドルだということは知っていたが、STEPの司馬拓哉だとは気づいていなかった。

 腰の低さ、穏やかな表情、落ち着いた声音。どれをとっても司馬拓哉とは結び付かないからだ。もちろん、髪形や髪色が現役時代と違うというのも大きいが。

 共演者全員が唖然とする中、レオはスタッフに合図をしてマイクを持った。

 

「それでは僭越ながら歌わせていただきます――〝完全感覚Dreamer〟」

 

[マジか!]

[よりにもよってカラオケ企画でこの曲選ぶのかw]

[このライオン、自分でもハードル上げてんじゃんwww]

 

 勢いのあるイントロが流れ出す。

 すぅ、と息を吸い込むと、レオは立ち上がって歌い出した。

 

「So now my time is up Your game starts, my heart moving? Past time has no meaning for us, it's not enough Will we make it better or just stand here longer Say it we can't end here till we can get it enough!♪」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[嘘だろ!?]

[なんやこのライオン!]

[レオ君が英語も行けるのは知っていたが……]

 

 いきなり英語の歌詞を発音良く、かつ力強く歌い始めた3Dモデルのただのライオン。そのギャップに、袁傪以外の視聴者達の脳は処理が追い付かなかった。

 

「This is my own judgment!! Got nothing to say!!♪」

 

[シャウトもいけるとはたまげたなぁ]

[ヘドバンの度にたてがみ揺れてて草]

[これは百獣の王の咆哮]

[誰だネコカフェにライオンを放り込んだの]

[ネタ枠かと思ったらライオンが一番のガチ枠かよ!]

[何気に歌詞もレオ君にマッチしてる]

 

「~can't get enough! Can't get enough!」

 

[おい最後の方www]

[完全山月ドリーマーっていいやがったwww]

[完全山月ドリーマーで大草原]

[それはズルいだろwww]

[ネタを挟まないと死んじゃう病にでもかかってるのかw]

[本気の歌とは……]

[最後までユーモアを忘れないVtuberの鑑]

 

 曲の終盤で二回〝完全感覚ドリーマー〟と二回歌う箇所でレオはあえて二回目の方を完全山月ドリーマーと歌った。

 これによってレオの歌に聞き入っていた視聴者達は突然のネタに不意打ちをくらい画面の向こうで腹を抱えて笑っていた。

 もちろん、しっかりとレオの雄姿を見届けようとしていた夢美や林檎も画面の向こうで過呼吸になるレベルで大爆笑していた。

 

「……ありがとうございました! 点数は98点か……98点!? 最後ネタに走ったのに!?」

 

[化け物で草]

[自分でやっておいて驚くなwww]

[完全山月ドリーマー、トレンド入り不可避だな]

[今のうちに呟いておこうぜ!]

 

 レオの感動と笑いを呼んだ歌にコメント欄は大盛り上がりだ。

 激しい曲を歌い終えて汗をかいているレオの元へ和音は歩み寄ると、満面の笑みで礼を述べた。

 

「獅子島さん、ありがとうございました!」

 

[うおっ]

[和音ちゃんの大声初めて聞いた気がする]

[よくやったガチライオン ¥6,000円]

 

 和音はイルカに憧れてVtuberになった。

 しかし、歌唱力でいえばイルカのことは上回っており、視聴者からもただ褒められるだけで自分のレベルが把握できなくなっていた。自分は本当にうまいのか、もう伸びしろはないのか。

 そんな悩みを抱えて臨んだこの企画で和音は自分を凌駕する歌唱力の持ち主と出会えた。

 歌唱力だけじゃない。レオのパフォーマンスはどれをとっても一級品だった。

 

 歌を武器に芸能界という弱肉強食の世界で戦い続けていた人間はこうも格が違うのか。私もこんな風になりたい!

 

 和音の胸の奥でくすぶっていた気持ちはメラメラと燃え盛りだしていた。

 それから、一通り全員がソロで歌い終えたこともあり、進行役のイルカが台本通りに場を回し始めた。

 

「いやぁ、凄かったですね、完全山月ドリーマー。わたくしも感動して笑い涙が止まりませんでしたわ」

 

[どっちだよwww]

[笑い泣きなのか、感動泣きなのか]

[どっちもなんだよなぁ]

[感動しながら笑うとは思わなかった]

 

「しかし、どうしましょう。このままではレオ君の優勝が決まったようなもので盛り上がりにかけますわぁ」

 

[あっ]

[いやな予感]

[流れ変わったな]

 

「というわけで! ここで急ですが〝カラオケ100点取るまで終われまてん!〟を始めたいと思います!」

 

「「はえ……?」」

「「ちょ!?」」

 

[やると思った]

[これだからイルカちゃんは……]

[鬼畜企画始まって草]

 

 突然台本を無視した企画が始まり、レオと和音は呆けたように、友世とサタンは驚愕の声を上げた。

 驚く共演者達に対し、イルカはそれはそれはとても楽しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 人は彼女のことをこう呼ぶ――畜生イルカ、と。

 

 





和音ちゃんの闘志に火が付きました。
次回でカラオケ企画は終わりにしますが、今回で登場したキャラは今後も出していく予定です。

カラオケ大会で一番好きなキャラは?

  • 板東イルカ
  • 但野友世
  • 七色和音
  • サタン・ルシファナ

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