にじライブが大型イベントに向けてせわしなく動いている中、同時進行で進めていることがあった。
それは六期生のデビューである。
これまでにじライブは、ライバーには配信経験者などを主に採用してきた。
二期生は特にその傾向が強く、新しい風を入れようと三期生は積極的に一般公募も行った。
その結果が今や全員登録者数100万越えのバケモノ達である。
元々生主だった林檎に、元トップアイドルのレオ。
その二人に負けず劣らず人気の元一般人の夢美。
滅多にいるものではないが、夢美のような天才を掘り起こしたい。にじライブはそう思っていた。
実際、メロウやバッカスという逸材は見つけることができた。
しかし、魔王軍関連のごたごたもあり、にじライブは彼らの受け皿となったことで白夜をはじめとした短期間で数字を出して、今も勢いを失わない配信経験者が大勢所属した。四期生以外でも、五期生のシュメル組は特に突出して人気を博している。
シューベルト魔法学園からの五期生という流れがあり、六期生のオーディションについては社内でも意見が割れていた。
現在のにじライブには登録者数100万越えのライバーも複数所属しており、全体のライバーの人気を見ても勢いは三期生のデビュー前とは大きく異なる。
にじライブの規模が大きくなったことにより、〝にじライブ所属〟という看板は背負うには重くなり過ぎたのだ。
さらに、六期生のデビューはイベントの閉会式の重大発表で行われる。久々の新人ライバーのデビューに視聴者達は大きく盛り上がることは間違いないだろう。
それ故に配信経験者ではなければ、プレッシャーに押しつぶされる可能性がある。
それを危惧した者達は一般公募を止めて、実績のある人間を積極的に採用しようという声を上げ始めていたのだ。
この問題に関して、社長である勝輝やかぐや、乙姫は口を挟まずに社員達に任せると決めていた。
ここで三人が決定を下すのは簡単だ。
だが、それでは下の者達の成長に繋がらない。
常に挑戦の姿勢を続けるという姿勢、ライバーを第一に考えるという姿勢。
その二つがぶつかりあって折り合いをきちんとつけられるだけの技量は既に人事部とマネジメント部にあると信じていたのだ。
その結果、六期生は三期生、四期生のときと同様に一般公募と経験者枠の二つで行うことになった。
六期生の枠は五人。全て女性ライバー限定という条件で公募がされることになった。
今回は予めある程度設定が決められているユニットでのデビューという形をとっている。
ユニット名は〝喫茶ストレリチア〟。公式での通称はストチアになる予定だ。
ストレリチアの五人は、喫茶店で働く五人の女の子という設定でデビューすることになる。
既に最終選考も終わっており、内訳としては配信経験者三名、一般公募からの素人二名の採用という結果になった。
「僕がストチアのマネージャーに?」
「ええ、飯田さんならあの五人のフォローが可能かと思いまして」
「かぐやさんと獅子島さんに加えて五人、か……」
採用担当から告げられた言葉に、飯田は神妙な面持ちで考え込んだ。
飯田はかぐややレオなどの音楽系のライバーのマネージャーを担当していた。
以前は他にもメロウなど歌うま勢ライバーのマネージャーも兼任していたが、かぐやとレオが目覚ましい活躍をして案件地獄に陥ったことでとうとう飯田のキャパシティーは限界を迎えたのだ。
そこで飯田は新しく入ってきたマネージャー陣へと順々に引継ぎを行い、最近やっとかぐやとレオのサポートに専念できるようになったばかりなのだ。
飯田自身、この数年でのマネージャーとしての活躍も目覚ましく、マネジメント部内での立場も上がっていた。
ようやく引継ぎが終わって余裕ができたと思っていた状況からの新人五人の担当。無茶ぶりもいいところである。
しかし、飯田にはこの申し出を断りづらい理由があった。
「……わかりました。マネジメント部が全力サポートをするから一般公募からも採るべきだと意見を出した身としては引き受けないとですね」
飯田はレオや夢美のこともあり、一般公募を閉め切ることで新たな可能性を閉ざす可能性を危惧し、配信素人でもサポート面でカバーすれば才能を潰さずに済むと考えていた。
もちろん、配信者としての適性はある程度必要なため、そこを見極めるのは採用担当の仕事である。
「む、無理だったら無理と言ってくださいね?」
「いえ、大丈夫ですよ。全員の担当をするのは半年ですからね」
ストレリチアの五人は事務所側である程度設定が固まっているユニットである。
これは関係性を持ちやすくして、ユニットでの企画などを行いやすくするためだ。
そのため、今回の採用ではコミュニケーション能力もかなり重視されていた。
「全員が連携して動きやすいように、軌道に乗るまでは一人のマネージャーで五人をサポートする。そのあとはライバーの個性を元にマネージャーの振り分けを行う。所謂半年ROMれって奴ですかね」
冗談めかして笑うと、飯田は責任を持ってストレリチアの五人のマネージャーを引き受けた。
「ストチアのマネージャー、確かに引き受けました。僕が責任をもって彼女達をサポートさせていただきます」
「無茶を言ってしまい申し訳ございません……」
「いいんですよ。ここからは僕達の仕事です。任せてくださいって」
自信満々に笑顔を浮かべる飯田に、再度頭を下げて採用担当者は自分のデスクへと戻っていく。
その後、採用担当者から送られてきたストレリチアの五人の資料に飯田は目を通し始める。
ストレリチアの五人からは、面接時にどういった方向での活動がしたいか一通り聞いてはいる。
それらの資料を飯田なりにまとめていく。
「……こりゃ気合入れてサポートしなきゃな」
資料をまとめ終わった飯田は脱力して背もたれに寄り掛かった。
全員、採用担当者から見てライバーとして輝ける素質を持っているのは間違いないだろう。
後々本人の希望も設定に織り交ぜていくとはいえ、予め五人である程度共に活動することが決められたユニットにはメリットと同時にデメリットも存在する。
鍵となるのは事務所側の手厚いサポートだ。特に配信素人で機械音痴のサホは重点的にサポートしなければならないだろう。むしろ、彼女の才能を生かすために自分が担当になったのではないかと飯田は疑うレベルである。
「冷たっ!?」
眉間に皺を寄せていると、横から冷たい感触を覚える。
横を向くと、そこには夢美のマネージャーである四谷の姿があった。
「飯田君、お疲れ」
「四谷さん、お疲れ様。コーヒーありがとね」
四谷の買ってきた缶コーヒーを受け取ると、飯田は礼を述べてプルタブを開けた。
「どういたしまして。疲れたのなら一服してきたら? イベントに向けてライバーのサポートもしなきゃいけないんだし」
「そうだね。適度に休憩しないとね」
飯田は四谷の気遣いに感謝しながら、社内の喫煙所へと向かうのであった。
最終章ももう折り返しを過ぎた感じですねー。
彼女達全員に出番があると確約はできませんが、最後までどうかお楽しみください。