にじライブのデビュー前の新人ストレリチアの五人は東京ビッグサイトにある巨大なノコギリの前で待ち合わせをしていた。
「……ちょっと早く来すぎたかな」
ストレリチアの一人灰原アールは辺りを見渡しながらスマートフォンのRINEの画面を気にしていた。
アールは初顔合わせの際に持ち前のコミュニケーション能力を駆使して全員とすぐに打ち解けた。
そこから五人はあっという間に打ち解け、デビュー前から友人関係と言って良いほどに仲を深めることができた。
これにはアールのコミュニケーション能力だけではなく、飯田が五人で過ごす場を積極的に用意したことも大きいだろう。
それからしばらくすると、ストレリチアのグループチャットに青桐ニルの投稿があった。
[にるぴ:もうすぐつくよ~]
[ノコギリ前にいるよー]
メッセージの送信からほどなくして、ニルが待ち合わせ場所に現れた。
「お待たせ、早かったね」
「いやぁ、先輩達の勇姿が見れると思うと待ちきれなくってさ」
「わかる。それに、ほんの少しだけど私達もその一部になれるの嬉しいよね」
「ねー!」
五人のデビューは、にじライブレジェンドアニバーサリーの閉会式で重大発表として公表される予定だ。
そこで特に何か喋ったりするわけではないが、明確な目標はあった方がいいと、飯田からの提案で五人はにじライブレジェンドアニバーサリーのステージ裏を見学しに来ていたのだ。
「ごめん、待った?」
「お待たせぇ」
それから怒和エリ、多司リンも合流したことで、残るは朝夢サホのみとなった。
「あれ、あと一人は?」
「初顔合わせのときみたいに迷子になってたりして」
サホはストレリチアの初顔合わせで事務所に来る際に迷子になっていた。
そんな彼女を飯田が迎えに行こうとする前に、アールが疾風の如き速さで駆け出して助けに行ったということがあった。
「まっさかー……いや、あり得るかも」
「「絶対迷子でしょ」」
地図アプリを見ても迷うファンタジスタが慣れない土地で無事にたどり着けるわけがない。
その場にいた四人全員がサホの迷子を確信していた。
まだ集合時間にはなっていないが、このまま放置していたら確実に間に合わない。
そう判断したアールはサホへと通話をかける。
「もしもし! 今どこにいるの!?」
『うぇーん……ここどこぉ……?』
「いや、うちが聞きたいよ!」
案の定、サホは迷子になっていた。
半泣きのサホにアールは状況を尋ねる。
「で、今どういう状況?」
『人がたくさん降りるとこで降りれば間違いないと思って降りたら変なとこ降りちゃって、もう頭がこんがらがっちゅレーションだよぉ……助けてぇ』
「とにかくあんたがパニックなのはわかったよ……それでどこで降りちゃったの?」
独特な表現で自分の置かれた状況を説明するサホにため息をつきつつも、アールは頼りにされていることをどこか喜んでいた。
『何かね、市場にきちゃった。あの有名なとこ』
「待ってて、築地市場だね! すぐ迎えに行くから!」
「ストップ! 築地市場はもう閉場してるから! 今は豊洲だから!」
現在地を聞いたアールはそのまま国際展示場前から築地市場へ向かおうとするが、それを慌ててニルが止めた。
「築地市場は~?」
「開場してます! 閉場してます! 開場してます!」
築地市場と聞いて、エリとリンまで悪ノリを始める。
「こらそこ! 話をややこしくしないで!」
「えっ、とにかく築地でおk?」
「全然オッケーじゃない! ゆりかもめだから! 豊洲市場ね! 市場前駅で降りるんだよ! まったくもう!」
ツッコミが追い付かないニルだったが、内心でこの学生時代の友人とのやり取りを楽しんでいる自分がいることに気が付いた。
彼女達と一緒なら楽しく活動していけそうだ。
そんな風に思いながらも、結局ニルはスタジオ入りするまで他の四人に終始振り回されることになるのであった。
ここで出さないと、ほとんど出番なくなりそうなので五人まとめて出しました。
おそらくは年内最後の更新になるかと思います。
来年も宜しくお願い致します。
良いお年を!