にじライブレジェンドアニバーサリーの最初を飾るのは、シューベルト魔法学園によるステージだ。
かつてバーチャルリンクから移籍した元魔王軍のメンバーも、今では登録者数百万人が近づいてきた白夜を筆頭ににじライブの看板的存在になっていた。
面白い語彙を連発して配信を盛り上げる白夜、コラボ時にフォロー力の高いサーラ、ゲーム実況に定評のあるレイン、何をしゃべっていても面白い雑談王リーフェ、歌唱力では他に引けを取らないつばさ。
Vtuber初心者にも安心して勧められるライバーと名高い彼らは久しぶりに五人揃ってステージに立つ。
『力が欲しいか』
「誰、かが……脳内に直接……!」
『力が欲しいか』
「う、あああああ!」
[きちゃ!]
[出だしから草]
[この声、もしかして……]
[何が始まるんです?]
学校の教室をバックに白夜は一人頭を抱えている。
いきなり始まった茶番に、視聴者達は期待に胸を膨らませる。
『安心しろ。体は後でちゃんと返してやる』
「うわああああああ!」
白夜が叫び声を上げるのと同時に、闇が溢れ出すエフェクトがかかる。
闇が晴れると、そこには魔王サタン・ルシファナが立っていた。
「諸君! 久しいな! 魔王サタン・ルシファナ、白夜殿の力を借りて復活したぞ!」
[!?!?!?]
[!?!?!?]
[!?!?!?]
[魔王様!?]
[権利を買い取ってからやりたい放題で草]
レオと夢美の結婚式がきっかけで、サタン・ルシファナに関する権利を買い取ってからというもの、白夜はスタジオを借りて定期的にサタンとしても配信を行ったことがある。
しかし、自宅で配信をするにはサタンのモデルは対応していなかったため、あまりサタンとして登場する機会は多くなかったのだ。
だからこそ、この大きなイベントで魔王軍時代から自分を応援してくれるファンへ姿を見せたいと思っていたのだ。
「遅刻遅刻ー!」
「もう、リーフェが寝坊するからでしょ!」
「やっほー……あれ、何かやばそうな人いる」
教室に一人サタンが立っているところに御三家の三人、リーフェ、レイン、つばさの三人がやってきた。
「ほう、君達か。残念ながら吾輩の仲間の肉体は蘇っていないが……まあ、やりようはある」
[もう何するか予想できたわw]
[マジでやる気なのか]
[やるんだな、今ここで!]
サタンの台詞からこれから何が始まるのか予想が付いた視聴者は、誰が最初に変化するのかを予想し始める。
[レイン様が最初っぽい]
[リーフェも性別変わるから面白いと思う]
[つばさちゃんが一番変化ないからなぁ]
そんな中、サタンは指を構えてビームを放つ。
「前世ビーム!」
「おーい、あなた達。ホームルーム始めるから席に──うびゃああ!」
[前世ビームは草]
[名前が直接的すぎるだろ]
[全員避けてサーラ先生にぶち当たったw]
全員がサタンから放たれたビームを回避したことで、あとからやってきたサーラに直撃する。
「アレ、何か胸が重いゾ?」
「権利の関係上名前を呼ぶことはできないが、久しいな」
「うん、久しぶりダナ! 魔王様!」
[権利の関係上www]
[草]
[にじライブ怖い物なし過ぎるだろ]
Vtuberでは禁忌とされる前世ネタ。
もはやレオや白夜のおかげで緩くなった前世ネタを白夜は全力でやっていくつもりだった。
「サーラ先生がどこかで見たことのある怪力ロリサラマンダーみたいなしゃべり方になっちゃったよ!」
「い、嫌だぁ! 男の娘になりたくない!」
「あっはっは……ひぃひー!」
[このカオス感、すごく見覚えがある]
[シュベ学ってか魔王軍だろ!]
[つばさちゃん爆笑してて草]
サーラは外見はそのままに、しゃべり方をかつて魔王軍時代に演じていたサラのものへと変えた。
そして、すかさずサタンは説明を挟む。
「説明しよう! 前世ビームとは、新たな肉体を得た魂に眠る記憶を呼び覚まし、一時的に人格が前世のものになる技である!」
[説明たすかる]
[誰がここまでやれと言った]
[定期的に前世を思い出させてくれるシュベ学]
事前に白夜がイベントではサタンが出るかもしれないことを匂わせていたこともあり、視聴者はこのファンサービスに大いに喜んでいた。
魔王軍の存在を知らない者達も、白夜の勧めもあって事前に未だに残っている魔王軍ちゃんねるの動画を見ており、ネタに置いてけぼりにされる者は少なかった。
「さあ、どんどんいくぞ! 前世ビーム! 前世ビーム! 前世ビーム!」
「あら、ここはどこかしら?」
「あぁ!? ボクの股にあるべきものがない!」
「久しぶりに外の空気吸った気がするなぁ」
[一人性別ごと変わってるw]
[ちんちん消失は草]
[つばさちゃん、マジで変わらないなw]
全員が前世ビームを食らったことで、魔王軍時代に演じていたウェンディ、フィア、ノームへと口調を変化させる。
「さて、わざわざ前世ビームを使ってやりたかったこと……それは」
「「「「それは?」」」
白夜がサタンとして魔王軍メンバーとやりたかったこと。
「ゲームだ!」
それは当時の空気のままゲームをわいわいプレイすることだった。
白夜はどん底を経験していわっちとなった黒岩に見せたかったのだ。
決して良い環境ではなかったとしても、あなたの考えたコンテンツは楽しいものだった、と。
「本当に君達は……」
ステージ袖で忙しなく動いていたいわっちにも白夜の意図が伝わり、彼は静かに一人涙を流す。
「ありがとう……」
こうしてシューベルト魔法学園のステージは盛り上がったまま終了した。
後半の方では全員が元に戻っていつも通りにパーティゲームをするという企画もあり、視聴者は飽きることなく最初のステージを楽しむことができた。
ステージが終わり、ステージ袖に戻ってきた白夜に全ての成り行きを見守っていた者が駆け寄ってくる。
「よっ、格好良かったよー」
「林檎さん、見てたんですか?」
「いわっちとのやり取りから全部ねー」
林檎は次のステージを担当することになっている。
本来は最初に夢星島の三人がステージを担当することになっていたが、夢美が妊娠により不参加となってしまったため、シューベルト魔法学園のステージが繰り上げとなり、次に穴埋めのために林檎がステージを行うことになっていた。
「ホント、普段はへたれなのにこういうときはビシッと決めるからズルイよねー」
「へたれで悪かったですね」
林檎に褒められていることが照れくさかった白夜は、視線を泳がせながら拗ねる。
「ううん、最高だよ」
そんな彼の胸ぐらを掴んで引き寄せると、林檎は白夜に自分の唇を重ねた。
「──んんっ!?」
「じゃ、エネルギーも補給したことだし、いっちょやりますかー」
林檎は悪戯っぽい笑顔を浮かべると、そそくさとステージ上へ上がり始めた。
「本当にあの人は……」
顔を赤くして白夜はそんな自由な恋人の姿に苦笑した。
「<●> <●>」
「うわっ、レイン!? 見てたのかよ……」
「<●> <●>」
「怖い怖い怖い怖い! 目がガンギマリ過ぎるだろ! せめて何か言ってくれ!」
一定の距離を保って物凄い目つきで睨んでくる同期を見て、白夜は林檎を泣かせたら自分の身が危ないことを改めて実感するのであった。