Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【にじライブレジェンドアニバーサリー】バーチャルピアニスト、白雪林檎

 

 林檎は今までにないほどに胸が高鳴るのを感じていた。

 先ほどの白夜とのキスもそうだが、それ以外にも自分からピアニストと名乗って舞台に立つのは初めてのことだったのだ。

 林檎の人生においてピアノは切り離せないものだった。

 天才ピアニストである母から学んだピアノ。

 それは動画や配信に関する技術と違い、自分の手で手に入れたものではない忌まわしきものだと思っていた。

 

 しかし、大勢の人間がその認識を覆してくれた。

 

『だから、それは間違いなくあなたの力なんですよ!』

 

 デビュー当時、頼りなかったマネージャーは今や背中を預けられる相棒だ。

 

『だからさ、あたし達に林檎ちゃんを助けさせて?』

 

 今この場にいない同期は、どんなに拒絶しても自分へ手を伸ばし続けてくれた。

 

『手越優菜がいたからこそ白雪林檎が生まれたんだろ? 今までの全部が全部悪いものじゃなかったはずだ。俺だってそうだ。司馬拓哉として生きた過去があるから獅子島レオとしての今がある』

 

 明日この場にくる同期は、こんな自分を受け入れた上で肯定してくれた。

 

 彼らがいなければ林檎はこの場に立っていることも、かつての親友や両親と関係を修復することもできなかった。

 だから、手越優菜は白雪林檎として二人の代わりにステージに立つ。

 それが自分にできることであり、自分がやりたいことなのだ。

 

[きちゃああああ!]

[白雪ぃぃぃぃぃ!]

[ピアノがあるってことはそういうことだな!]

 

 林檎がステージに現れると観客席が湧き立ち、コメント欄のコメント速度も急激に早くなる。

 林檎はスカートの端を摘まんで優雅に一礼すると、いつものように悪戯っぽい笑みを浮かべて声高々と告げる。

 

 

 

 

「我、にじライブぞ!」

 

 

 

 

『うおおおおおおお!』

 

[名言きちゃあああ!]

[この場にいないバラギの名言を叫ぶのエモイ……]

 

 林檎はそれからピアノで曲を弾き出す。

 

 

 

 ~~~♪ ~~~♪ ~~~♪

 

 

 

[おお……ガチのクラシックだ]

[いや待て、このリズム聞き覚えあるぞ]

[おいこれSun Gets Kickじゃねぇか!]

 

 それはアニメの色のない曲を弾き出した――と見せかけてクラシック風にアレンジしたライバーのオリジナル曲だった。

 

[バラギの美しく夢のまにまにだ!]

[バンチョーのお好み焼き音頭までwww]

[何でその曲チョイスしたwwww]

[何でもクラシックにする女]

 

 林檎はあらゆるライバーの曲をクラシック風にアレンジしてつなげてメドレーを作ったのだ。

 休憩などなく、一度も止まらず音色を紡ぎ続ける。

 その圧倒的な姿に視聴者達はどんどん林檎の作り出すピアノの世界に引き込まれていく。

 画面越しでその姿を見ていた母親の郁恵は覚醒した娘の才覚に息を呑んだ。

 

「やっぱり才能でいえば、あの子は私よりも上ね……強力なライバルができちゃったわね」

 

 にじライブ一スペックが高いと言っても過言ではない林檎の成長は留まることを知らなかった。

 そして、あらゆるライバーのオリジナル楽曲を繋げたメドレーの最後を飾るのはにじライブを象徴する曲だ。

 

[V-Signだ!]

[VSきちゃ!]

[やっぱVSだよなぁ!]

 

 にじライブの代表曲V-Signのパートになった途端に大画面に動画が表示される。

 それはレオと夢美、そして林檎を含めた三期生の今までの軌跡を動画にした映像だった。

 

[!?!?!?]

[映像がある!]

[エッモ]

[エンディングで走るアニメは名作]

 

 映像では、初期から三人の配信の見どころ部分をまとめて流している前をレオ、夢美、林檎のミニキャラクターが走っている。

 林檎が作成したこの映像には、彼女の三期生に対する愛がこれでもかというくらいに詰め込まれていた。

 

 レオは初日のステージを変わってもらったため、現在はビッグサイト近くのホテルで体を休めていた。

 できる限り夢美の近くにいるため他の予定が詰まり、レオの行うリハーサルはかなりタイトなスケジュールで行われた。

 林檎や他のライバーの助けがなければ厳しい状態だっただろう。

 せわしなく動き回り、体力を温存しつつも画面越しに林檎のステージを見たレオは今すぐ飛び出したい衝動を押さえつける。

 

 自分が最高のパフォーマンスを見せるのは明日だ。

 だからこそ、体力は温存しなくてはいけない。

 

 もどかしさを感じているのは夢美も同じだった。

 

「林檎ちゃん……やっぱ同期は最高だね」

 

 妊娠していなければ自分もあの場で飛び跳ねながら歌っていた。

 その思いがなかったわけではなかったが、林檎のステージは三期生、そしてにじライブへの愛に溢れたものだった。

 だからこそ、まだ膨らんでいないお腹に手を当てて呟く。

 

「早く紹介したいな」

 

 ――パパとママには最高の同期がいるんだ、と。

 

 




ちなみに、妊娠中の夢美は実家に帰省してます

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