にじライブレジェンドアニバーサリー二日目は公式番組のステージが目白押しだった。
にじライブRecordsをはじめ、ハンプ亭道場やシュメル王国復興バラエティなど、すっかり人気番組と化した公式番組のステージは大盛況である。
そんな中、合間には各ライバーがステージの繋ぎを兼ねて短時間で好きな企画を行っていた。
個人で企画を行う者もいれば、コンビで企画を行う者もいる。
内容は、日本酒の飲み方講座や英会話教室、ゲテモノ料理講座など自由そのもの。
このステージの合間に行われる企画こそ、ある意味にじライブの自由さを表していると言っても過言ではなかった。
「さて、桃華さん。次は僕達の番ですよ」
「ふぃー、そんじゃいっちょ行ってくるか」
赤哉と桃華は自分達の出番が近づき、感慨深そうに画面に映るステージを眺めていた。
赤哉と桃華が行うのはコンセプトカフェについての講座だ。
自分達がメイド喫茶を経営していることもあり、この手の話は得意分野だったのだ。
そして、元々和装組として活動していた二人のステージの背景は他ならぬNONAMEとして名を馳せるタマが手掛けた。
表舞台を追われたかつての同期が自分達のステージを手掛けた。
その事実に、二人は胸が熱くなるのを感じていた。
「壊れたものは元には戻らない。でも、形を変えて生まれ変わることはできる」
「んだよ、急にポエムか? イタイからやめな?」
「感傷に浸るぐらいいいじゃないですか」
相変わらず辛辣な桃華に苦笑すると、赤哉は感慨深そうに告げる。
「僕はね。同期としてタマと活動できなくなったのはしょうがないと思っているんです。彼女のしたことは許されることじゃない」
「だな。あたしもあいつのことは一生許すつもりはねぇよ」
「でも、一緒にいたいと思う自分もいるわけですよ」
「ま、何だかんだで仲間だからな」
赤哉も桃華もタマのことは許さないと同時に、仲間としての情も持ち合わせていた。
タマは嘘で塗り固められた人間だった。
しかし、二人にとってはその全てが嘘だったわけではないのだ。
いつか素の自分を見せてくれればいい。そんな風に思っていたのだ。
その機会はタマのライバー活動中に最悪の形で訪れたが、彼女が歪んでいくのに気づけなかったことに二人はどこか後悔を抱えていた。
「ずっと心の奥底では思っていたんです。乙姫さんが立ち直り、彼女を許してくれるとき僕達はまた一緒に活動できるんじゃないかって」
「でも、世間は許しちゃくれない」
「ええ、でも形は違えど僕の願いは叶いました」
ライバーとして共に活動することはできない。
それでも、クリエイターとしてタマは自分達のステージに関わってくれている。
その事実がどうしようもなく嬉しかったのだ。
「そういや、あいつの夢って漫画家だったよな」
「そうでしたね」
「だったら叶ったじゃねぇか。切り抜き動画を漫画にまとめた〝ぷちらいぶ〟今度書籍化するんだろ」
タマはにじライブ専属イラストレーターとして活動をしている。
彼女が手掛ける切り抜き動画を漫画化した〝ぷちらいぶ〟は視聴者達の間でも人気のコンテンツとなり、ついに書籍化することが決定したのだ。
「そうね。昔の夢は叶ったわ。正直、こんなアタシが夢を叶えるなんておこがましいにもほどがあるけどね」
ステージ裏で待機している赤哉と桃華の元へスタッフTシャツを着たタマがやってきた。
彼女はイラストレーターとしてとんでもない仕事量をこなしていたというのに、現地にもスタッフとしてやってきていたのだ。
「覆水盆に返らずってね。過去のことには後悔と罪悪感しかないけど、乙姫先輩やあんたらが前を向かせてくれたんだ。振り向くつもりは微塵もない」
「はっ、面の皮が厚いことで」
「でも、タマらしいですね」
決意に満ちた表情のタマを見て、二人は心からの笑顔を浮かべた。
「名板さん、吉備津さん! スタンバイお願いします!」
そうこうしている内に、赤哉と桃華にスタッフから声がかかる。
「ほら、二人共。出番だよ。楽しんできて!」
「「もちろん!」」
赤哉と桃華を笑顔で送り出すと、ステージ裏からタマはステージに立つ二人の姿を眺め続けた。
「アタシはそこには立てない」
過去に行った愚かな行為の結果、タマは本当に大切な物を失うことになった。
自業自得、因果応報。全ては自分自身の行いの報いだ。
「でも、それでいいんだ。だって今のアタシの夢は――」
誰よりも楽しそうにステージ上で話している二人を見て、タマは涙を流しながら呟く。
「――みんなの笑顔だから」