にじライブレジェンドアニバーサリー二日目はとにかくライブステージが多かった。
ここぞとばかりに公式がプロデュースしたオリジナル曲の大盤振る舞い。
ファンはここまでやってくれるのかと大喜びだったが、ライバーへの負担は大きかった。
特に一日目からステージに多数出演しているミコは体力的にもかなり負担がかかっていた。
「星野さん、お疲れ様です」
「お疲れ様デース!」
それでもミコは疲れた様子を表に出さない。
それは彼女が大学を卒業後に専業ライバーになるという意識の表れでもあった。
「えっと、海外ライバーの紹介タイムも終わったし、次はノンストップライブか……」
あっという間の時間だったが、結構な盛り上がりを見せたことでミコは満足感に包まれていた。
しかし、そんな気分に浸る暇もなく次のステージが待っている。
ノンストップライブとはその名の通りで、ライバーがステージ上で休憩時間を挟まずに間髪入れずに曲を繋いだまま入れ替わるというステージだ。
今回のノンストップライブでは、ミコ、乙姫、白夜、レイン、まひるが入れ替わりでステージに立って歌を披露する。
選曲もそれに合わせて繋ぎやすいものが選ばれていた。
「まずはワタシの番デス!」
そう言って表情を引き締めると、ミコはステージ袖に控えている他のライバー達の方を振り返る。
「皆サン! 今日もよろしくお願いしマス!」
『ミコー!』
『ミコちゃーん!』
[きちゃ!]
[ミコちゃんがトップバッターだ!]
[頑張れ!]
[chu♡]
いつもと変わらない温かな声援を受け止めると、ミコは元気に飛び跳ねながら歌い始める。
「か~わいくねっ♪ とびきりの愛よ届けっ♪」
[アイドル宣言きちゃ!]
[相変わらず可愛い]
[日本語なのに歌上手いわ]
[ミコちゃんの声って聞いてると癒されるんだよなぁ]
可愛らしい歌声で紡ぐのは、レオも好きなクリエイターグループのアイドルソングだった。
天真爛漫な笑顔を浮かべて踊るミコの姿に、観客や視聴者達は思わず微笑んでしまう。
トップバッターに相応しい盛り上がりを見せると、すぐにミコはすれ違うように乙姫と交代した。
その際、溜まっていた疲労から眩暈がしたミコはよろけてしまったが、そんなミコを乙姫はすかさず支えて流れるようにステージに立った。
お礼を言う間もなくミコはステージ脇へとはける。
その後ろ姿を見送ると、乙姫はゆっくりと深呼吸をして気持ちを整えた。
緊張していないと言えば嘘になる。
だが、それ以上に乙姫は今とてもワクワクしていた。
「好きになって~♪ もっと! 私を~見て~♪ もっと!」
乙姫がステージ中央に来るのと同時に曲はちょうどイントロが終わり歌い出しの部分になる。
彼女にとって、このステージは復帰して再スタートを切った自分にとって初めてになる大舞台。ワクワクしないわけがなかった。
全ては順調かと思われたそのとき、
「っ!」
乙姫は突然右足を襲った痛みに顔を顰める。
そのままバランスを崩すと、ステージの床に向かって倒れそうになる。
しかし、客を心配させまいとする乙姫の執念によって事故は避けられた。
無理な体勢で違和感なくダンスを続けたことで足の痛みは増すばかり。
それでも乙姫はその痛覚を無視して最後まで踊り続けた。
乙姫の出番が終わった頃、ミコもまた全力を出し切って疲れ果てていた。
それ故に乙姫の異変には気が付かなかった。
「痛た……」
乙姫の元にはスタッフが駆け寄り、イスや氷を用意していた。
しかし、乙姫はそれを断ってしまう。
「大丈夫ですか!?」
スタッフの一人が慌てて問いかけるが、乙姫は首を横に振った。
「ごめんなさい……ちょっと足を痛めてしまいました。でも、本当に少しだけなのでステージに支障は出ないので安心してください」
「そ、そうなんですか? 大事に至らなくて良かった……では、次の人の準備があるのでこれで失礼しますね」
「ええ、ありがとうございます」
乙姫に見送られる形で慌ただしくスタッフはその場を離れる。
そして、乙姫は誰にも気づかれないように楽屋へ向かうと、イスに腰掛ける。
「ふぅ……さすがにキツかったわね。あと私の出番は最後の集合ライブだけ。なんとかなるはず」
「なるわけないでしょ」
自分しかいないはずの楽屋。
そこには強張った表情を浮かべたタマがいた。