アイシング、テーピング、痛み止めなど。
有無を言わさずにタマは乙姫の足の応急手当を行った。
「痛た……」
「まったく、何強がってるんですか。これシャレにならないでしょ」
タマは応急手当を進めながら腫れ上がった乙姫の足を見て顔を顰める。
「放置してたらとんでもないことになってましたよ」
「……でも、私のステージはまだあるわ。何としてでも出なくちゃ」
「どの道この足じゃ踊れないでしょ」
乙姫の足は立つことすら危うい状態だった。
楽屋まで歩いてこれたのもライブ直後でアドレナリンが出ていたからだ。
このあとステージに立つなんて到底不可能なことだった。
「自分が平気な顔してなきゃミコちゃんが責任感じるって思ってます?」
「っ!」
「やっぱりね……」
図星だったようで乙姫は顔を顰める。
「それ、逆効果ですからやめた方がいいですよ」
「え?」
「だって考えてみてくださいよ。この後、乙姫先輩が無理して足が悪化したらそれこそミコちゃんが気に病みますよ。あの子は病みやすいし、軽症の内にしっかり休んだ方がいいじゃないですか」
「それは……そうだけど」
「なら、そんなこと考えずにゆっくり休んでください。それが一番の薬ですから」
「……分かったわ」
素直に乙姫が了承すると、タマはホッとした。
「でも、休めるのは足だけよ。ステージには立つわ」
「ちょ、何言ってるんですか。無理に決まって――まさか」
その瞬間、タマは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
そして、乙姫は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「この世でたった一人、私の完璧なコピーをできる人間がいるわ」
「待て待て待て! 自分が何を言ってるかわかってるんですか!?」
「もちろん、分かっているわ。でも、他に方法はないわ」
「そんなのダメに決まってんでしょうが! いくらアタシの特技がコピーだからってダンスの振り付けまで完璧に真似ることなんて……」
できなくもない。
他の者ならともかく、乙姫に関しては話は別だ。
かつてタマは乙姫を模倣して彼女を引退まで追いやった。
細かな仕草や口癖、その全てを完全にコピーして彼女の評価を地に落とした。
タマはそれが原因で多くの人間を不幸にした。
だからこそ、もう二度とこの特技は使わないと決めた。
「分かってるわ、私だって本当はこんなこと言いたくない。けど、このチャンスを逃したら私はまたステージに戻ることはできないかもしれない。それだけは絶対に嫌なの!」
「乙姫先輩……」
乙姫の言葉にタマは胸を打たれた。
確かに乙姫の言う通り、今この状況を打開するにはこれしかない。
だが、それでもタマは納得できなかった。
「……」
「お願い、タマちゃん……」
「っ! ズルいですね。そう言われたら自分は何も言えなくなるって知ってるくせに……」
「ごめんなさい……でも、本当にお願い。私のわがままを聞いてもらえないかしら」
「……分かりましたよ」
苦笑しながら、タマは乙姫に背を向ける。
「でも、もし本当にやばくなって自分が助けられないときはすぐに中止させてもらいますからね」
「ええ、それで構わないわ」
「それと、これはアタシのわがままでもあるんですが、できれば最後までステージに立ってほしいです」
「……うん、ありがとう」
乙姫は泣きそうな表情でお礼を言うと、ステージに向かうために準備を始める。
その間にタマはミコにメッセージを送ることにした。
[乙姫先輩が足を怪我した]
[え!? 大丈夫なんですか?]
[一応応急処置はしてある。あと、ステージに立つ方法もある。だから、気に病まないで。アタシが何とかするから]
そこまで打ち込むと、タマは自分の為すべきことするために楽屋を出た。
「はぁ……」
舞台裏でライブ衣装に着替えながら、タマは大きく息をつく。
正直、今の状況は最悪だった。
この後に控えているのが最後の集合ライブ。ここで失敗すればミコは責任を感じてしまうだろう。
それは乙姫が最も望まない展開だった。
タマは乙姫のことが好きだ。
かつてはコピーした偽物の感情からはじまり、その気持ちが本物になった後はそれを認められずに暴走した。
タマは彼女が誰よりも努力しているのを知っているし、それに報いるようにたくさんのファンがついていることも知っている。
そんな乙姫の力になれるのならば、過去に彼女を傷つけた忌むべき特技を使うこともやぶさかではなかった。
スタッフにも通達がいき、慌ただしく準備がはじめる。
ステージ上にはパイプ椅子が用意され、乙姫はステージに上がることはできる。
あとは体を担当してくれる者に合わせて歌う。
こうすれば足の怪我は誤魔化せる。
「にしても、まさかあんたとステージに上がるとは思わんかったわ」
「それはこっちの台詞ですよ。かぐや先輩」
「安心せえ。乙姫の体で不甲斐ない動きしたら必殺のボディブロー食わらせたる」
「それは勘弁してほしいので、最高のクオリティでコピーしてみせますよ」
ステージの準備をしたかぐやとタマは初めて心から笑い合い会話をする。
「気張れやタマ。ここが正念場や」
「言われなくても!」
拳をぶつけ合うと、二人は意気揚々とステージに上がるのであった。