Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

297 / 355
【朝霧サホ】次代の歌姫

 

 にじライブレジェンドアニバーサリーの最終ステージある音楽ライブ。

 その前に起きた乙姫が負傷するというトラブルによって現場はバタついていた。

 そんなトラブルの中、見学に来ていた新人五人達はせわしなく駆け回るスタッフとライバーの中でおろおろとしていた。

 

「な、何か大変そうだね」

「もうアッパッパーって感じだよね」

「サホ。オリジナルの擬音使われても伝わないから」

「サホの頭もアッパッパーだね」

「何か大変だねー」

 

 見学にきた未デビューの新人達にスタッフもライバーも構っている暇はない。

 そんなことは五人もよく理解していたため、ステージの端っこで縮こまっていたのだ。

 

「あっ、ちょっと私行ってくる!」

「サホ!?」

「迷惑になるから戻ってきなって!」

 

 そんな中、サホはあるライバーを見つけて一目散に駆け出した。

 

「あの、レオ先輩ですよね!」

「ん、君は確か……ストチアの子か?」

「はい! 喫茶ストレリチアの朝霧サホです! よろしくお願いします!」

「ははっ、元気だな。改めまして、俺はにじライブ三期生獅子島レオだ。今後ともよろしくな」

 

 ライブのラストを飾るため、ステージ袖で待機していたレオはサホに気がつくと笑顔を浮かべて挨拶をした。

 そんなレオにサホはレオに会ったらずっと伝えようと思っていたことを伝えた。

 

「私、レオ先輩の歌に憧れてにじライブに入ったんです!」

「俺に?」

 

 レオに憧れてライバーになった者といえば有名なのはスター・バッカスが有名だが、その後にじライブに入った者は基本的に魔王軍関係者くらいだった。

 レオといえば歌ではあるが、レオを好きな者は基本的にしっかり者に見えて意外と抜けている芸人気質な性格に惹かれている者が多い。

 純粋に歌に憧れてにじライブに入ろうと決意した者は意外と少なかったのだ。

 

「最初に見たのは林檎先輩が卒業後に出した歌ってみた動画でした。バラギ先輩のあとに投稿したあの歌で林檎先輩は心を動かされた。そうですよね?」

「あれはきっかけに過ぎない。俺は〝ファンファーレ〟を送っただけだよ」

 

 林檎が卒業したとき、レオと夢美は二人で歌ってみた動画を出して林檎に救いの手を差し伸べた。

 当然、大切な同期を救うための歌に籠る思いは他とは比べ物にならないだろう。

 

「あれだけではありません。バーチャルリンクの騒動でざわついていたとき、つばさ先輩にも歌でエールを送っていましたよね」

「そうだな。ま、あれはけもみママの協力も大きいけどな」

 

 バーチャルリンクの声優変更騒動の際は、当時ノームを演じていたつばさに歌でメッセージを届けた。

 レオはいつだって誰かを助けるために歌い続けていたのだ。

 

「私、歌で人の心を動かせるって素敵なことだと思うんです!」

 

 サホの言葉にレオは懐かしい気持ちになった。

 歌で心を動かされ、にじライブに応募してライバーになる。

 その動機と行動はデビュー前、かぐやのライブに心を動かされて衝動のままににじライブ三期生オーディションに申し込んだ自分と同じだったのだ。

 

「私は当時音痴だったし、歌が好きでも自分が歌うなんて考えたこともなかった。Vtuberだって全然知らなかったし、何なら今でも知識は全然です。てか、デスクトップパソコンとノーパソの違いだって最近知ったくらいですし……」

「そういや、新人の子にめっちゃ機械音痴の子がいるって飯田さんが言ってたな……」

 

 そんな話を聞いているうちに、レオは自然とサホの話に耳を傾けていた。

 レオもアイドルになる前から歌が抜群に上手かったわけではない。努力を重ねて手に入れた歌唱力。そんなサホの姿がさらに自分と重なったのだ。

 

「でも、レオ先輩の歌に心を動かされたんです!」

「そうか……」

 

 レオは自然と口元が綻ぶのを感じていた。

 かつての自分と同じように誰かに憧れて衝動のままに行動する。

 その憧れの対象が自分だということがどうしようもなく嬉しかったのだ。

 

「それじゃ、このライブステージをよく見てな。君が憧れた俺自身を超えてやるからさ」

 

 レオは獰猛な笑みを浮かべると、堂々とした足取りでステージに向かう。

 

「はい! お目目かっぴらいて見ます!」

「言い回し独特だな……」

 

 サホの独特な言い回しに苦笑いしながら、レオはステージに立つ。

 すると、先ほどまで慌ただしく動き回っていたスタッフ達もレオの存在に気づいて慌てて整列する。

 

「さあ、大トリを飾る最高のステージを見せてやるよ……!」

 

 レオは不敵に笑うとマイクを握りしめ、息を大きく吸い込む。

 

「お前らァ! 長かった二日間ももう終わりだ! 最後の最後だからって気を抜くんじゃねぇぞ!」

 

『うおおおおおおおおお!』

 

[レオくぅぅぅぅぅん!]

[きちゃああああ!]

 

 その光景に観客達と視聴者達は大いに盛り上がり、会場は熱狂の渦に飲み込まれる。

 

「最後まで心を燃やしていけぇぇぇぇぇ!」

 

 レオがそう叫ぶと同時にイントロが流れ出す。

 

「照らすは闇、僕らは~♪ 歩き慣れてきた日々も淘汰♪」

 

[インフェルノきちゃ!]

[これは熱い]

[最初がソウルイーターで最後が炎炎なの最高]

 

 乙姫とかぐや、そしてタマがステージで歌った曲の原作漫画と同じ作者の漫画。そのアニメの主題歌をレオは選んでいた。

 

「永遠は無いんだと~♪ 無いんだと云フ~♪」

 

[レオ君のミセスは染みる]

[もっとミセスの歌みた出してほしい]

[スタートはこの前出してたぞ]

 

 俺はダンスも歌も過去最高の仕上がりだった。

 そして、それ以上にこの場にいない夢美へ自分の声を届けようという気持ちが彼のステージのクオリティを限界以上に高めていた。

 

「僕らは命の火が~♪ 消えるその日まで歩いてゆく~♪」

 

 レオが歌い終わると、大歓声と拍手喝采の中ステージの幕が下りていく。

 

『アンコール! アンコール! アンコール! アンコール!』

 

[アンコール!]

[アンコール!]

[アンコール!]

[アンコール!]

 

 会場内に轟くアンコール。

 それを満足気に聞きながらレオは一旦ステージを降りて、目を輝かせているサホへと告げる。

 

「――次は君だ」

 

 その次とは今すぐという意味ではないことはサホにはわかった。

 

「ええ、もちろんです! だって――」

 

 いつか大きなステージで自分の歌で顔も知らない誰かの心を動かしたい。

 

「我、にじライブぞ?」

 

 この瞬間、にじライブに未来の歌姫が誕生した。

 獅子から受け取ったバトンを握りしめた歌姫が、大舞台で堂々たる姿で歌うことになるのはまた別のお話。

 




とうとうここまで来ました……あと2,3話くらいですが、最後までお付き合いください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。