Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【Vの者】挨拶はこんばん山月!

 

 いつからこんな状態になったか獅子島レオは鮮明に思い出せる。

 気が付けば二十九歳。SNSを覗いてみれば、袁傪達が楽し気に自分のことを語っており、自慢の妻はいつもの如くバズっている。

 U-tubeを開けばキラキラした仲間達が、楽しそうにトークをしている様子が目に入り、つい笑みが零れる。

 自分よりも後輩で凄い人間など山ほどいる。新人ライバー達がデビューしていく度に実感すること。それはレオにとって何にも代えがたいほどに幸福なことだった。

 レオのライバー人生は順風満帆とは言えなかった。

 デビューしてから伸び悩み、自分を思って行動した同期は炎上、もう一人の同期は自分を追い詰めて卒業までした。

 夢を諦められずに衝動のままに応募したVtuber事務所〝にじライブ〟の審査に通り、ライバーデビューしたものの、待っていたのは苦難の連続。

 しかし、その度にレオは大切な仲間達と共に苦難を乗り越えてきた。

 

 

 そして、今――

 

 

 

 

 

 

 

 武道館ライブ。

 様々なアーティストが目標として掲げる一つの夢。

 今日もまた一組のアーティストがその夢を叶えようとしていた。

 

「武道館ライブ、か……」

 

 アイドルになったばかりの頃に目指していた夢。

 先輩アイドルのバックダンサーとして立ったことこそあれど、正真正銘自分達のライブでこの場に立つのは初めてだ。

 

「慎之介、良樹、三郎、ありがとな」

「それはこっちの台詞だよ」

「お前がいたから俺達はここにいるんだ」

「……こっちこそ感謝してる」

 

 舞台裏では、Vtuberと音楽バンドの複合ユニット〝RE:STEP(サイドステップ)〟のメンバーが自分達を待っている夢のステージに胸を膨らませていた。

 かつてSTEPとして活動していた四人が再度踏み出すという意味を込めてつけられたユニット名。

 

 実はこれはレオがエゴサーチしていた際に、とある袁傪が仮にSTEPが再び活動するのならば、〝RE:STEPで再度ステップと読むとかどう?〟と言っていたのがきっかけだった。

 

 このことを聞いた慎之介達もノリノリでこのユニット名にしようと決定したのだ。

 

「それじゃRE:STEP、始動だ!」

 

「「「おう!」」」

 

 こうして、かつて思い描いた美しき夢は現実として確かな形を作っていく。

 そんな四人の雄姿を見るために集まった者達は楽し気に会話をしていた。

 

「それにしても、まさかまたあの四人でユニット組むとはねー」

「だぁー!」

「伝説の瞬間に立ち会えちゃいましたね」

「あうぅ……!」

 

 赤ん坊を抱える夢美の隣には、同じく赤ん坊を抱えた和音がいた。

 

「それにしても、和音ちゃんも妊娠してたとは思わなかった」

「あはは、まさか誕生日まで近いとは思いませんでした」

「えっ、てか、産休取ってた? 普通に活動してなかったっけ?」

「ただちょっと体調崩してる程度に見せかけるために、ちょっと無理して栄太君と妹に怒られちゃいました」

「和音ちゃんとこはガチ恋多いからねぇ……そういえば、旦那は?」

「栄太君は普通に観客席で見たいって」

「根っからのVファンらしいや」

 

 ちなみに、和音と園山の娘はレオと夢美の息子と同い年である。

 住んでいる地区も現在は同じのため、幼馴染になることはもう決まったようなものである。

 

「ほー……時差ボケがー……」

「優菜、大丈夫か?」

「大丈夫ー、新たなてぇてぇの可能性で栄養補給してるからー」

「赤ん坊でカプ作るなよ……」

「あははっ、優菜先輩変わんないねー! あれ、義理の妹だから先輩はおかしいっけ? そもそも、ライバーじゃまひるの方が先輩?」

「姉ちゃん、入籍するのは来年だから気が早いって」

 

 世界中を飛び回っていた林檎はふらついていたが、その肩をしっかりと白夜が支えていた。

 まひるも林檎が義理の妹になることについて大喜びである。

 

「みんな……! お兄ぃの雄姿を目ぇかっ開いて見るんだよ……!」

「いや、つばさ。もう目がかっ開いてるって」

「レインほどじゃないよ」

 

 

 

 

「<●> <●>」

 

 

 

 

「こっわ! 何、まだ林檎さんの結婚に納得いってないの?」

「ま、私も気持ちはわかるけどね」

 

 つばさ、リーフェもいつも通り集まってわいわいと楽し気に会話をしている。

 レインだけは目を見開いて白夜を睨みつけたまま微動だにしていないが。

 

「しかし、うちの事務所も夫婦やカップル増えたわよね」

「ああ、確かレオとバラギが結婚して、白雪と白夜は婚約状態、赤哉と桃華はいつの間にか子供作ってるし、リーフェとバッカスも怪しいって聞くぞ」

「自由ねぇ」

「ま、それがにじライブだからな。確かマネージャー陣だと飯田さんと四谷さん、阿佐ヶ谷さんと亀ちゃんが付き合ってるらしいからな」

「社内恋愛横行しすぎでしょ……そ、それならもう一組増えても大丈夫そうじゃない」

「えっ、誰かくっつきそうなのか! リア充は許せん!」

「はぁ………………この鈍感」

 

 ハンプとサーラは相変わらず進展がない関係のままだった。ハンプは鈍感なのに対して、サーラが奥手なのが原因である。

 

「この光景をずっと見たかったんや……」

「くすんだ夢に光をともしたのはかぐや先輩だもんね!」

「ウチは大したことはしてへんよ。自分のやりたいようにやって、たまたま一人の男の夢に火をつけた。それだけや」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! かぐや先輩、めちゃカッコイイし!」

「あんた素でしゃべってるとホンマに日本人やな……」

 

 ミコとかぐやもこの伝説のライブへと駆けつけていた。

 二人共多忙な身ではあるが、勝輝と乙姫がどうにかしてかぐやをこの場に連れていくために仕事面でもライバー面でもフォローしていた。

 かぐやはレオの夢の再始動のきっかけとなった人物だ。

 絶対にこの光景を見るべきだと勝輝も乙姫も、いや、ライバー全員が思っていた。

 

「夢美さん、お久しぶりです!」

「ああ、サホちゃん! 元気にしてた?」

 

 そして、最近有名になってきたにじライブが誇る波風メロウと双璧を成す歌姫、朝霧サホ。

 彼女はデビューしてから、そのどこかズレた発言や機械音痴キャラ、飛び抜けた歌唱力で人気を博していた。

 

「ちょっと前はバッタンバタバタって感じでしたけど、もうサッパリパリスって感じです!」

「相変わらず、擬音が混ざるとわけわかんねぇ……」

 

 何となく、忙しかったけどようやくいろいろ片付いたというニュアンスだろうと判断すると、夢美は心配そうにサホに声をかける。

 

「でも、ストチアも大変だったでしょ?」

「五人いるとなかなか足並み揃いづらくて、バラバラバイバイっちゃいましたけど、何だかんだで裏では仲良くワチャワチャやってますよ」

 

 喫茶ストレリチアは五人組のユニットで、それぞれの個性に統一感がなかったため、五人揃ってのコラボは最近ではほとんどない状態にあった。

 ライバーとしては五人が個々に伸びて、ファンアートや二次創作は捗るというかつてない状況だったが、サホはむしろそれはそれで楽しんでいた。

 

「あっ、そろそろ始まるんじゃないですか?」

「そんじゃ、あたしらも特等席に移動するかね」

 

 集まっていたVの者達はこぞって移動を始める。

 

 

 

 

「みなさーん! こんばん山月!」

 

 

 

 

 かつての仲間と手を取り合って夢の舞台へと降り立ったVの者の雄姿を見るために。

 

 

Fin

 




これにてこんばん山月完結となります!
計300話、最後までお付き合いくださりありがとうございました!

またこんばん山月完結を記念しまして、イラストを描いていただきました!

【挿絵表示】

あ゛っ(尊死)

今後ですが、本っ当に気まぐれでこういう話書きたかったなーとかふいに思った話は投稿することもあるかもしれません。
実際、差し込みたいけどボツにした話は結構あるので……。
基本はまけふぁいの投稿に専念するので、あまり期待はせずにお待ちください。

また作中に出てくるあの人がヒロインの「負けるな、踏み台君!ファイトだ、悪役令嬢ちゃん!」の方も宜しくお願い致します!

【挿絵表示】

https://syosetu.org/novel/271020/
あれ、ファンタジーの世界に李徴るライオンと暴言を吐く茨姫が……?

それでは、改めてこの一年半お付き合いくださりありがとうございました!

おつ山月!

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