Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【箱根タマ】アタシの夢

 にじライブ時代、契約解除をされたタマは嬉々として漫画家としての活動を始めた。

 真実が全て明るみになり、全てを失った後は元友人であった浜野明子の嫌がらせ行為によって社会復帰もままならない状態だった。

 因果応報であり自業自得。そんなことはタマも理解していた。

 いつしか彼女は自分自身の生きる価値を見出せなくなっていた。ただ肉体的に生きているだけ。

 そんな荒んだ生活をしていれば部屋はゴミ屋敷同然になっていく。

 かつてもらったファンレターもその中に紛れていたのだ。

 

「もう全部終わりにしようと思って身辺整理をしていたとき、これを見つけて思ったわ。アタシには〝箱根タマの残骸〟として、まだやるべきことがあるってね」

「乙姫先輩の復活、ですよね」

「そうよ」

 

 レオの言葉に頷くと、タマは続ける。

 

「こんなアタシにも応援してくれるファンはいた。先輩にだってアタシの比じゃないくらいのファンがいたの。ただの数字としか見ていなかった人達には確かな心があった。アタシはそれを粉々に砕いたのよ」

 

 初めてもらったファンレター。それは自分自身を騙し、世間からのバッシングによって〝罪を償った気になっていた〟タマの目を覚まさせるのには十分な代物だった。

 それに価値があるということを認識した時点で、タマはライバー活動にも楽しい時期があったと認めたも同然だったからである。

 

「だから、せめてアタシがどうなろうと乙姫先輩だけはどうにかしたかった」

「でも、誰もあなたが傷つくことなんて望んじゃいませんでしたよ」

「そうね。本当に愚かだったわ」

 

 乙姫も、同期だった赤哉も桃華も他のライバー達も誰一人としてタマが自分を傷つけることなんて望んでいなかった。

 恨んでもいるし、嫌いである。それでも、わざわざ酷い目にあって欲しいなんて思っていないのだ。

 

「結局、贖罪なんて言って罪の意識から逃げてただけだったのよ」

「わかります。俺も逃げてばかりでしたから」

 

 レオはアイドルとして活動していた頃を思い出す。

 よく言えばストイックだが、現代に照らし合わせてみればパワハラで訴えられても負ける自信があるほどにメンバーに対するあたりは酷かったし、同期や後輩の中でもレオのせいで芸能界を辞めたと言っても過言ではない者も少なからずいた。

 そういう世界だし、そういう時代だったと言うことは簡単だ。

 それでも、いまだにレオは自分を嫌っている人間がいて当然だと思っていた。

 

「結局、俺達みたいな人間が本当の意味で許される日なんてこないんですよ。いえ、だからこそですね」

 

 そこで言葉を区切るとレオは続ける。

 

「受け入れてくれた人達のためにも全力で幸せになる。それが本当の意味での贖罪だと思いますよ」

「まったく、全力で幸せを謳歌してるあんたに言われると返す言葉もないわ」

 

 かつて社長である勝輝にも言われた言葉を思い出す。

 

『僕も君のしたことは最低だと思う。だけどさ、君が幸せになってくれないと、僕達も幸せになれないんだ』

 

「アタシの幸せ、アタシが本当にやりたいこと……」

 

 にじライブレジェンドアニバーサリーで気づいたタマの夢。

 それは同期二人だけではなく、みんなの笑顔を見ることだった。

 

「そっか、だからか」

 

 どうして自分が現状に満足していないかがようやく腑に落ちる。

 変化する時代の影響で、昔と比べてみんなの笑顔に陰りが出てしまったからだ。

 心の中に溜まったもやもやがたった今晴れようとしたそのとき、遠くから男女の声が聞こえてきた。

 

「お姉さんこんな時間に一人? 彼氏いないの?」

「……あ、あの、すみません……」

「えっ、何? 聞こえないんだけど」

「ひっ、だ、だからぁ……その……」

 

 どうやら気弱そうな女性がナンパされているようだった。

 

「タマさん、俺ちょっと――」

「待って」

 

 すかさず飛び出していこうとするレオをタマは止める。

 彼は元有名アイドルであり、今や注目度の高いVtuber改めVたれだ。そんな彼が無駄にトラブルに巻き込まれるのはタマとしても避けたいところだったのだ。

 

「ちょっと、声借りるよ」

 

 一言そう告げると、タマはチューニングを開始する。

 

「おまわりさーん! こっちです!」

 

 レオに似た地声の高い青年声を出すと、タマは叫ぶ。

 すると、男性の方はあっという間に女性から離れて逃げていき、女性も恐怖から足早にその場を立ち去ってしまった。

 

「……相変わらずとんでもない技能ですよね」

「地声が高い司馬君だから真似られるのよ。それにあんたの女声も大概でしょうが」

 

 タマの声帯模写にも限度はある。

 しかし、いまだ衰えないその技術を目の当たりにしたレオは感嘆の声を漏らした。

 

 そして、タマは踏ん切りがついたようにレオへと告げる。

 

「ねぇ、もしもの話なんだけどさ。アタシがVたれの養成所の先生やるってなったら司馬君はどう思う」

「これ以上ない適任かと思いますよ」

 

 タマの迷いが晴れたことを確認したレオは獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。

 たった今、尊敬する先輩が違う形で再起する瞬間を見て気分が高揚していたのだ。

 

「それを聞いて安心したわ」

 

 やりたいことは見つかった。あとは前を向いて夢に向かって走るだけだ。

 

「我、にじライブぞ」

 

 自分を奮い立たせるように呟くと、タマはレオと別れて帰路に就くのであった。

 

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