箱根タマこと亀梨花子は目の下のクマを濃くしてパソコンの画面と向き合っていた。
最近ではようやく薄れてきたクマだったが、ここ数日で再び濃くなってしまっていた。
「ろ、碌なのがいない……」
エナジードリンクとタバコで精神力を繋いでいるが、バーチャル学園入学希望者の採用は困難を極めた。
この縛りだらけの時代を乗り越えられる逸材。育てるにしても光るものがなければ採用することも躊躇われる。
「伝説を創れるバーチャルタレントの原石なんて見つかるのかねぇ」
紫煙を燻らせてタマは思いにふける。
このプロジェクトにはバカにならないほどの資金が投入されている。
引き受けてしまった以上、古巣の不利益になるようなことはしたくない。
ため息をつくと、タマは現時点で採用した受験者達の名前を眺める。
「燐林凛、大牙鶫……まだ二人かぁ」
パッとしない受験者の中でもこの二人は飛びぬけて光るものがあった。
動画のセンス、声の良さ、歌唱力、それらの才能がまるで黎明期のにじライブのライバーを見ているような感覚を呼び覚ましてくれたのだ。
さすがに選考の結果二人しか選べませんでしたとは言えないため、タマはなんとか才能の原石を発掘しにかかる。
「次は……英乃尋。これで〝あなたのひろ〟って読むのか」
おそらく〝あなたのヒーロー〟とかけた名前なのだろう。
志望理由も、こんな自分でも誰かを救えるヒーローになりたいからというシンプルなもの。
問題はオーディション動画の方だ。
「ぶふっ!?」
動画を開いた瞬間、タマの目に飛び込んできたのは4DLIVE公式キャラクターであるシドランの被りものを身に着けた巨乳の女性だった。しかも年齢は25歳と書かれていたはずなのに、制服姿である。
『校歌斉唱』
パッツパツに張った制服に身を包んだ彼女はにじライブを代表する楽曲である〝V-Sign〟を歌い始めた。
『Virtual Endless Tale~♪』
『何も見えない暗闇でも~♪ 君はいつだって傍にいた~♪』
『ずっと前に進めるのさ』
『君がいれば~♪』
『ホントにホントにホントにライオンだ~!』
「なんだ今の」
グリーンバックを利用しているためか、背景はフリー素材の学校のものになっており、英乃尋は十人くらいに増えて歌っている。その上、一人だけこっそりサファリパークを歌っている始末。
ツッコミどころがありすぎて脳の処理が追い付かない。
ただ一つだけ言えることがあるとすれば、画面の中の彼女が心底楽しそうだったということだ。
こんな黎明期を思わせるカオスな動画を楽しそうに作る人間はどんなVたれに成長するのか。自然と自分の胸が高鳴っているのを感じた。
「この子、いいじゃん」
伝説を創れるバーチャルタレント。この子ならなれるかもしれない。
何の根拠もない高揚感によってかタマの眠気はいつの間に吹き飛び、その顔には闘志に溢れた獰猛な笑みが浮かんでいた。