あなただって私にないものを持っている。
寝ころびながら飛乱さんの言葉を噛み締め、改めて自分を見つめ直して気づいた。
「あるじゃん! 私の武器!」
ベッドから飛び起きた私は運営していたイシュリーの切り抜きチャンネルを開いた。
私でもみんなに負けないと言える武器。それは動画編集能力とサムネのセンスだ。
イシュリーを推し始めたこの二年、私は彼女の魅力を伝えるために切り抜き動画を作り続けた。
最初こそうまくできないことも多かったが、毎日最低一本動画を作ることでその辺の技術はかなり鍛えられたと思う。
実際、高望みナウ名義で運営しているチャンネルの登録者数は一万人を超えている。
シュメルの民のみなさんにもいつも褒めてもらえているくらいだ。
みんなに勝っているところがあるとしたら、ここしかないだろう。
一度気づいてしまえば、あっという間に自信がまた湧き上がってくる。
今はただ動画編集の授業が待ち遠しくて仕方がなかった。
「今日は動画編集とサムネ作成の技術を学んでもらいます」
やっときちゃ!
翌日。待ちわびた授業がやってきたことで、表面上は平静を装いながらも心の中で私は歓喜していた。
「事前にリクエストしてくれてたビジュアルイラストも全員分完成していますよ」
そして、ついに私達バーチャルタレント候補生としてのビジュアルが完成したようだ。
入学してすぐに私達は事前にビジュアル希望調査票を提出していた。
細かなアクセサリーなどはつけられずに服装も制服で統一されており、制限は多かったが、発表されたビジュアルは私の希望通りの出来だった。
髪色はヒーローをイメージして燃え上がるような赤色。
髪型はポニーテールで、キリっとした表情を浮かべている。
ラフをもらった時点で、修正点は特にないと亀梨先生に伝えていた。
中には細かく修正点を伝える生徒もいたようだが、それら全ての対応を先生がやっていたと思うと頭が上がらない。
というか、動画編集や画像作成の授業も担当できる亀梨先生って一体何者なんだろう。
「ラフのときから思ってましたけど、やはり4DLIVEの公式絵師さんのイラストじゃないですか!」
私の後ろで飛乱さんが驚いたように声を上げる。
よく見てみれば、確かに何度か目にしたことのあるタッチの絵柄だ。
「飛乱さんの言う通り、イラストは全て公式絵師であるNO NAME先生に担当してもらっております」
4DLIVE公式絵師であるNO NAME先生は、記念イラストや切り抜き動画のイラスト化など、様々な作品を手掛けるイラストレーターだ。
ファンからの人気も熱いが、4DLIVE 以外では全く名前を見ることはなく、SNSなどは一切やっていないため、その正体は謎に包まれている。
一説では4DLIVEの社員なのではないかという噂もあるくらいだ。
「データはバーチャル学園の共有フォルダに入っていますので、各自支給されたパソコンに保存してください」
私達には動画編集もできるノートパソコンなど、配信機材は一式で支給された。
私のデスクトップパソコンよりはスペックが低いが、支給品としては充分である。
これさえあれば配信者としての活動するのに困らないだろうと言わんばかりの大盤振る舞いだ。
さっそく私は透過された自分の立ち絵を共有フォルダへと保存した。
「今日の授業内容は、動画編集ソフトと画像編集ソフトの使い方を覚えてもらいます。中には使ったことがある人もいるでしょうが、そういう人は復習のつもりで聞いてください」
案の定、先生の紹介したものは全て使ったことのあるソフトだった。
これならみんなに置いていかれることもないはずだ。
今回ばかりは周りに後れをとるなんてこともなく、私は「あー、知ってる知ってる」と若干優越感に浸りながら授業を聞いていた。
わからないことなど、一つとしてなかったことが何よりも気持ち良かった。
「最後に課題を出します。あなた達には自分の立ち絵を使いつつ、自己紹介動画を作ってもらいます。提出日は来週の今日まで」
授業の終わり際、亀梨先生は課題を出してきた。
内容は自分の立ち絵を使用した自己紹介動画の作成。
提出先は、バーチャル学園の授業用のチャンネルだ。
このチャンネルは授業内容の復習や課題提出などで使う専用のチャンネルとなっており、先生や私達生徒のアカウントじゃないと見れない設定になっているらしい。
「あなた達がどんな動画を作るのか楽しみにしています」
そう締め括ると、亀梨先生は教室を出て行った。
「皆さんで集まって作業しませんか?」
授業が終わると、飛乱さんが教室内にいるみんなに向けて提案してきた。
さすがのコミュニケーション能力である。
「ごめん、ウチ用事あるから」
教室内の生徒達が飛乱さんの元へ集まる中、大牙さんはそそくさと鞄を持って出ていってしまった。
「わ、私もちょっと……」
ここぞとばかりに私も大牙さんに便乗させてもらった。
飛乱さんには悪いが、作業に関しては一人じゃないと集中できないのだ。
それにこの場にいる全員がライバルである。仲良くはしたいが、課題での慣れ合いはあまり好ましくないだろう。
逃げるように教室を出て学園内の居住区へと向かう。
居住区近くの売店で夕飯の買い物をする。
今日は作業多めの日になりそうだし、お米だけ炊いてお総菜で済まそう。
「若い子達はいいよね。楽しそうにはしゃいじゃってさ……」
無洗米を炊飯器にぶち込みながら、愚痴が零れ落ちる。
周りの子達は私より年下ばかり。あの放課後特有のガヤガヤ感、私は苦手だ。
「さて、作業に取り掛かりますか」
明日も課題が出る可能性がある以上、その日出た課題はその日の内に取り掛かっておいた方がいい。
私は早速ノートパソコンを立ち上げて、動画編集ソフトを立ち上げる。
動画の内容は自己紹介。二年以上、イシュリーの魅力を伝える切り抜き動画を作ってきた私からすれば楽勝の題材だ。
普段使用している動画周りの素材をUSBへと移してノートパソコンへと差す。
フォントも含め、こういった素材を探さなくて良いのは楽でいい。
きっと今頃みんなはどこのサイトから持ってくればよいか苦労していることだろう。
切り抜き動画のときは配信を見ていたときから内容が決まっているため、先にサムネを作成している。
今回は内容が自己紹介ということしか決まっていないため、サムネ作りは後回しだ。
「うーん、やっぱりインパクトは欲しいよね」
自己紹介といっても、Vたれとしての詳細設定は考えていなかった。
そもそも、まだ私達はVたれとしてどうありたいかという詳細設定を制限された状態にある。あくまでも現状求められているのは、本来の自分自身による個性ということだ。
そうだ。自己紹介なら、フリーの楽曲をダウンロードしてギャルゲーのOP風にして流すってものありかもしれない。
あとは表情差分を作ってそれっぽくすれば、昔動画サイトで流行っていたようなギャルゲーOP風MADの出来上がりである。
「うっは、これは大作の予感!」
動画の構想が湧いてハイになっていた私は、そのまま夕飯を食べるのを忘れて作業に没頭するのであった。
翌朝、私は早朝から鳴り響くアラームの音で目が覚めた。
昨晩は寝落ちしてしまい、気がついたら朝だったのだ。
カーテンを開けてみれば、外は土砂降りの雨。最高の天気である。
うきうきした気分でスマートフォンの画面を眺めてみると、時刻は午前五時。どうやら、ガラス清掃バイト時代のアラームの設定のままになってしまっていたらしい。
再びアラームをセットしてからベッドにダイブし、そのまま眠気に身を任せる。
今日はよく眠れそうだ。