寝過ごして遅刻するということもなく、その日はいつもより早めに学園に到着した。
教室に入ると、既に何人かの生徒が登校してきていた。
「あっ、乃尋さん!」
きっちり五分前に登校してくる飛乱さんもいつもより早く登校している。
飛乱さんはそのまま私を見つけるなり、駆け寄ってきた。
「乃尋さんは、もう自己紹介動画の課題って手を付けましたか?」
「えっ、あ、うん。もう終わったけど……」
あの動画は深夜テンションのまま完成させてしまったこともあるし、一応提出前には確認するつもりだ。
「嘘っ!? もしかして、乃尋さんって動画に強いのですか?」
私の言葉に飛乱さんはショックを受けたような表情をしつつも尋ねてくる。
というか、動画強いってなんだよ。そんなツッコミをする勇気もなく、言葉を選んで飛乱さんに答える。
「一応、趣味で動画とか作ってたし……」
「本当ですか!?」
あまり大きい声は出さないでほしい。視線が集中して居心地が悪くて仕方がない。
そして、この流れは絶対に手伝わされるやつだ。パシリ経験豊富な私は知っているぞ。
「作ったことあるけど、趣味程度だし、そんな大したものじゃ――」
「すごいじゃないですか!」
「へ?」
先回りして手伝いを断ろうとしたら、飛乱さんから出てきた言葉は手伝いの要求ではなく、純粋な賞賛だった。
「私なんて昨日の授業だけではわからないことも多くて、帰って自分でも調べてたくらいですのに! たった一日で動画を作れるなんて本当ですごいです!」
「そ、そうかな」
ま、まあ、これでも登録者数一万人超えの切り抜き師だし?
編集も凝ってて好きってコメントはたくさんもらってるし?
それなりに私はすごいのかもしれないけどね?
「大したことじゃないよ。勉強すれば誰でもできることだし」
「そんなことないです。実際、何も知識がないところから勉強するのは大変ですから」
「うへ、へへっ……そうかな」
ここまで褒められると悪い気はしない。
少しくらい、協力してあげるのもやぶさかではない。
「あの、もしよかったら私の作った動画見てみる?」
「いいんですか!? 見てみたいです!」
子供のように目を輝かせる飛乱さんの態度に気を良くした私は、確認するために仮アップしていた動画を再生する。
すると、飛乱さん以外にもクラスのみんながわらわらと集まってきた。
私の作ったギャルゲーOP風の動画は、昨日受け取った私の立ち絵がスライドして動いたり、曲の合間で演出が入るたびに表情をコロコロと変えたりする。
自己紹介の文章もさらっと表示させたり、かなり凝った出来になっている。
「えっ、天才?」
動画が終わると、呆然としていた飛乱さんがポツリと呟いた。
「乃尋さん、すごい……」
「これ普通にプロのクリエイターが作ったレベルじゃん」
「なんかかっこいいね!」
動画の評判は上々である。
降り注ぐ賞賛の雨霰のなんと気持ちの良いことか。
まあ、私にとってはこんなものは朝飯前というか、余裕でこなせる範囲というか、なんならもっとクオリティ高いの作れるんだけどね?
「良かったら、VARの全チャに使えるフリー素材があるサイト貼っておこうか?」
「ありがとう、乃尋さん!」
こうして面と向かって誰かに褒められたのなんて久しぶりだ。
それからも、しばらくクラスメイトに囲まれていたのだが、チャイムが鳴るとみんな蜘蛛の子を散らすように席へと戻っていった。
その日の授業も相変わらずポンコツな私だったが、みんなから褒めてもらえたこともあり、メンタルへのダメージは最小限で済んだ。
「乃尋さん! 一緒に帰りましょう!」
帰り支度をしていると、飛乱さんに声をかけられた。
「いいよ。一緒に帰ろう」
今の私は気分が良い。一緒に帰るくらいなんてことはない。
帰り道、飛乱さんは興奮したように話しかけてきた。
「乃尋さんの動画すごかったです! あと、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「大したことじゃないよ。他の科目はからっきしだしさ」
「誰だって初めてはそんなものですよ。私だってわからないことだらけでてんやわんやですし」
ダンスやボイトレも難なくこなしていた癖によく言うよ。
つい心の中で毒突いてしまう。
「ホント、大変だよね」
「でも、私は絶対にVたれになってみせます!」
「うん、その意気だよ」
夢を追いかける人間というのは眩しいものだ。私も頑張らなくては。
居住区で飛乱さんと別れた後も、自室に戻ってきた後も、今日一日の出来事が次々と頭に浮かんできては消えていく。
バーチャル学園でようやく得ることができた充実感を噛み締めながら眠りにつく。
明日も楽しい一日になると良いな。