「お、お好きなとこへどうぞ……」
「ほな遠慮なく」
小柄な体躯に不釣り合いな圧に屈した私はどもりながら頷くことしかできなかった。
「……これ」
他にも開いている席がある中、わざわざ私の正面に腰掛けた大牙さんは唐突に牛皿を差し出してきた。
「え?」
「ウチ、今回の動画でS評価取れたから」
ぶっきらぼうにそれだけ告げると、大牙さんはご飯を食べ始めようとする。
「待って、何で大牙さんがS評価取ったからって私におかずをくれるの?」
「英が全チャに張ったサイトや動画作りのポイント。あれには助けられたから」
私が全体チャットで動画作成に役立つサイトを張ったのは、褒められていい気になったからだ。
それが結果的に大牙さんの助けになっていたらしい。
「ウチは貸し借りは嫌いなんや」
大牙さんは顔を顰めて告げる。前から思っていたけど、大牙さんって関西出身なのかな? たまに関西弁っぽいの漏れ出てるし。
「この牛皿でチャラや」
「私としては助けたつもりはなかったんだけど……ありがと。これで貸し借りはなしで」
せっかくのご厚意なのだ。ありがたく受け取っておこう。
「ん――――! おいしい!」
口の中に広がる肉の味に歓声を上げていると、大牙さんは呆れた目でこちらを見つめていた。
「……牛皿如きで大袈裟」
「こっちはオールC評価の退学一歩手前の人間なの! 牛皿なんて贅沢品だよ!」
「ハッ、もったいない奴」
吐き捨てるように言った大牙さんの言葉が引っかかる。
「どういうこと?」
「さっき先生も言うとったやんか。〝あなたは自分の本当の武器を理解してる〟って」
どうやら亀梨先生との会話を聞いていたらしい。
ということは、もしかして大牙さんはわざわざ私を追いかけて食堂に来てくれたんじゃないだろうか……いや、思い上がりも甚だしいか。
「英の武器は動画編集なんかじゃないってこと」
「いやいや、それすらなかったら私、マジでただの凡夫オブチキンなんだけど」
「ぶふっ! ……げほっ、けほっ……」
「えっ、何、大丈夫!?」
突然咳込んだ大牙さんの背中を摩っていると、彼女は涙目になりながら睨みつけてきた。
目つき鋭いけど、涙目で睨まれると可愛いな……。
「ふ、くっ……おま、飯食ってる最中に笑かすな!」
「別に面白いと思って言ってないんだけど」
有名なグループや飲食店の名前をくっつけた造語なんて、すぐに思い付くことだと思う。
「不意打ちんボケはやめろ!」
「えぇ……」
謂れのないことで怒られて困惑していると、はっとした表情を浮かべた大牙さんは咳払いをして標準語で話し出した。
「そういう言葉の言い換えって、パッ思いつくもんとちがう……思いつくものじゃないから。英って普段から4DLIVEの配信見てる、でしょ?」
「ええ、まあ」
イシュリーの配信はリアタイしているが、それ以外も切り抜きやアーカイブで追ってはいる。4DLIVE公式番組だってしっかり見ている。
「口癖が移るならよくある話だけど、そういうちょっとした〝返し〟は普段からどこがおもろいのか考えて見てなきゃ出てこない」
「そう、なのかな」
いまいちピンとこない。
このくらいの返答、4DLIVEの人達ならもっと面白く返してたと思ってしまうのだ。
「英も選ばれた側なんだから少しは自信持ったらどうなん?」
「自信なんてとっくに消えちゃったよ。周りの子は才能に溢れてて凄いもん。私みたいな凡人が競い合うなんておこがましいにもほどがある」
私は飛乱さんみたいなコミュニケーション能力に秀でているわけでもない。
大牙さんや平戸君みたいに歌がうまいわけでもない。
動画編集なんて勉強すれば誰でもできることをたまたまみんなより先にやっていたからとマウントをとっていた愚かな人間だ。
「正直、入学できたことすら不思議だよ」
きっと私なんかが入学できたこと自体、何かの間違いだったのだ。そう思わずにはいられなかった。