「才能、か」
大牙さんは目を細めると尋ねてきた。
「英は才能ってなんだと思う?」
「それは……Vたれだったら歌がうまいとか、何か一芸持ってるとかかな」
4DLIVEに所属しているVたれはその最たる例だ。あんな天才集団、めったにいるもんじゃない。
「それって後天的に身に着けられるんとちがうか?」
「えっ」
「もちろん、今までの経験からそないな感性や一芸が身についたって人はおるやろうけど、それだってなんもあらへん状態から積み上げて身についたものやん」
確かに、ピアノがうまい人も幼少期から積み上げてきた練習量があるからそれだけの技量を身につけられたとも言える。
「でも、やっぱりセンスとかってあるじゃん」
「そらそうや。そやけど、一つのことに秀でてるわけでもない人気のライバーなんてぎょうさんおるわ」
大牙さんは私の言葉を肯定しつつも、自分の考えを述べた。
「音楽やスポーツみたいに専門性のある一つのジャンルならそないなセンスの差はおっきな差になる。そやけどなぁ、ライバーは所謂マルチタレントや。一芸特化無理でも器用貧乏で戦える世界やで」
言いたいことはわかる。
でも、私の場合はどちらかと言えばマルチじゃなくて中途半端なだけ。器用貧乏どころか不器用大貧民である。
大牙さんは真剣な顔で見つめてくると、静かに告げた。
「さっき言うとったな。どうして自分が入学できたのかって」
一拍置いたのに標準語に直さないところを見るに、もう関西弁を隠す気はないらしい。
「うん、そうだけど」
「実は入学試験のオーディション動画、バーチャル学園の非公開アカウントから閲覧できるんや」
「えっ、そうだったの!?」
初耳の情報に驚いていると、大牙さんは呆れた様子でため息を吐いて続けた。
「VARから各候補生の情報も閲覧できる。そこにオーディション動画のリンクも貼ったったんやで。意外とみんな気づいてへんみたいだけど」
VARにそこまでの情報が載っていたとは……全然気がつかなかった。
「お前のオーディション動画も見たけど、いろんな工夫がされとったな。ポップなキャラクターの被りものをして体は制服を着たスタイルのええ女。そのシュールな存在複数に分身して歌を歌う。この手法は4DLIVEの歌うま勢がふざけるときにようやるよな」
「そうだ、ね。そういうのを参考にしたけど……」
4DLIVEで歌唱力が高いVたれはよくショート動画などで自分の立ち絵を増やして合唱風に歌うことがある。
全力でふざけているのに、歌唱力は高い。そのシュールさがちょっとした笑いを誘うのだ。
またどこか気持ち悪さを醸し出す着ぐるみを使って実写動画を上げるVたれもおり、私はそのシュールさの合わせ技を使っただけだ。
しかし、大牙さんはそこを評価してくれていた。
「かぶり物は手作り、グリーンバックも使うて編集に凝ってる。それだけやない。バーチャル学園のオーディションちゅう題材に対して、4DLIVEの代表楽曲を校歌に見立てて制服姿で合唱する。これってテーマに合致しとるやん」
テーマにあった面白さ。それは今回の動画課題で私ができなかったことだった。
「直感的に思いついたおもろさやない。コンテンツのおもろさを分析して作り出す人間でなきゃこんなんできひんやろ」
要するに、それがオーディション動画ではできていたから合格できたんじゃないかというのが大牙さんの意見らしい。
「でも、今回の課題じゃ……」
「一回失敗したくらい、なんてことあらへんやん」
大牙さんはあっけらかんとした調子で告げる。
少しのミスが退学に繋がりかねないこの学園で、まるで失敗することが当たり前だと言わんばかりの様子だった。
「でも、いつ退学になってもおかしくないし……」
俯く私に、大牙さんはどこか呆れたように語り掛けてきた。
「あんなぁ。退学勧告はその都度、課題や実習前に基準が説明されるって言うとったやろ」
「あっ」
言われてみれば確かにそうだった。
「肝心なとこでコケなきゃええ。失敗はむしろ今後の糧になるやろ」
そう言うと、大牙さんはニヤリと笑ってみせた。
「失敗はむしろ今後の糧になる……」
不思議な気分だった。
完全に消えた心の火が再び灯った感覚がする。
「ありがとう、大牙さん。私、頑張ってみる」
「ウチは何もしてへん。てか、何でウチはライバルにこないなこと……」
大牙さんにお礼を言って店を出る。
心が燃えているからか、少しだけ肌寒い風が心地良い。
ふと、空を見上げてみれば夜空の切れ間から満月が顔を覗かせている。
雨はもう止んでいた。