それから数日経ったある日のこと。
「ようやくあなた達の配信実習の日程が決まりました」
亀梨先生の言葉に私達全員が息を呑む。遂に私達が配信活動を行う日がやってきたのだ。
「G組の配信日は三週間後の日曜日です」
配信実習。それは私達バーチャルタレント候補生にとって最初の壁とも言える授業だ。
何せ、ネット上に初めて私達の声を乗せることになるのだ。ここで躓いたら後まで大きく響くことになるだろう。
しかし、日曜日に配信が出来るのはありがたい。
授業は基本的に平日にしかないが、配信実習は別だ。
A組からG組までいるバーチャルタレント候補生が一日で一気に配信することは不可能。
そのためA組の生徒から順番に初配信を行っていくのだ。
G組に所属する私達の初配信は一番最後だ。
もしこの組のトップバッターになって躓いたらこのクラスのみんなが躓くんだよね……。
「プレッシャー、エグぅ……」
どうかトップバッターにだけはならないようにしたい。
「さて、今回の配信実習ですがノルマがあります」
亀梨先生の言葉に教室の空気が張り詰める。
みんなわかっているのだ。こんな前置きがあるということは、退学の危険があるということだ。
「今回の配信実習では、全員の配信終了後、登録者数三万人に満たないものは退学となります」
案の定、告げられた内容は退学に関するものだった。
登録者数三万人。
企業Vの見過ぎで感覚がおかしくなっているが、本来なら登録者数三万人は考えられないほど高い壁だ。
個人で活動を行っている人の場合は登録者数百人に行くのにも苦労するくらいである。V業界トップの4DLIVEが主導するプロジェクトとはいえ、私達バーチャル候補生達がその領域に行けるかは未知数だ。
「待ってください。もし、全員が三万人に満たない場合はどうなるんですか?」
私と同じことを思ったのか、飛乱さんはそんな疑問を口にした。
「もちろん、全員退学になります。そんなことにはならないと思いますが」
調整はしない。それはつまり、私達が現時点で登録者数三万人を初配信だけで集められる人間になっていなければいけないということだ。
4DLIVEの新人が初配信を行った際、配信終了後の登録者数は大抵の場合十万人を超えている。
運営側もそれを考慮して三万人というラインを設定したのだろう。
「配信は一人三十分の持ち時間を使い、リレー形式で行っていただきます。次の枠の人への誘導は忘れずに行ってください」
三十分。一見、長いようにも思えるその時間は配信時間として見たときかなり短い。
ただプロフィール表を作って読み上げるだけだったら簡単に経ってしまう時間だ。
プロフィール表は作りつつも、自分が一番アピールしたい部分を中心にトークを組み立てていかないと印象に残らないまま終わってしまう可能性は高いだろう。
「またそれに伴いZ(旧ツウィッター)で、あなた達個人のアカウントも作成していただきます」
SNSでの投稿も宣伝をする上では欠かせない。
事前でのアピールをどれだけできるかという部分も登録者数の増加に関わってくるだろう。
「えっ、呟いていいんですか!?」
あまりSNSでの投稿が得意ではなさそうな飛乱さんは驚いたように目を見開いていた。
「もちろんです。事前の宣伝も大事ですから」
ただし、と一拍置いてから亀梨先生は続ける。
「運営の判断でSNSの投稿を消すように指示があった場合は速やかに従っていただきます」
「もちです!」
SNSの投稿で事前に登録者数を稼ぐという作戦もある。その辺りも考えて来週までの時間を無駄なく過ごさなくては。
「またこれから配信を行っていくにあたって、バーチャル学園の制度について今一度説明をさせていただきます」
亀梨先生は少々はしゃぎ気味の私達が静かになるのを待つと説明を始めた。
「今回のようにカリキュラムの中にノルマがあるケースは少なからず退学者が出る可能性があります」
退学者が出る。その言葉に再び空気が張り詰める。
「そして、ふるい落とされず残った場合のメリットを改めて明確にしておく必要があります」
そういえば、この学園に来てからVたれとしてデビューできること以外のメリットをちゃんと教えられてなかった気がする。
「まず、今回のノルマを達成した者にはボーナスとして全員に一万ポイント、クラス内で最も登録者数が伸びた者には三万ポイントが支給されます」
「三万ポイント!?」
現在一ヶ月一万円生活を強いられている底辺バーチャルタレント候補生の私からしたらありがたい話だ。いや、クラス内トップなんて取れるわけないんだけども。
「今後もノルマありの課題があるたびにこのようなボーナスは発生します」
亀梨先生はそこで一旦言葉を区切ると、衝撃的な言葉を告げた。
「カリキュラムを進めていけば、立ち絵を動かせるライブ2Dモデルの実装、4DLIVE公式番組への出演など、バーチャルタレントとして本格的な活動にも携わることができます」
クラスのどこかからゴクリ、と唾を飲み込む音が聞こえた。
それほどまでに、この話は魅力的だったのだ。
「夢の舞台に向けて是非とも頑張ってください」
この学園にいるバーチャルタレント候補生の大多数が4DLIVE所属のタレントに憧れている。そんな憧れの存在と共に番組に出演できるなんて、まさに夢の舞台だ。
「それでは説明は以上になります。このくらいの壁くらい軽く乗り越えてくださいね」
最後に煽るような言葉を残して亀梨先生は教室を去っていった。
最初の難関、何としてでも乗り越えなければ。