「それにしても、意外と機材関係の授業って少ないですよね」
「配信実習も近づいてるし、もうちょっと教えてほしいとこではあるよね」
放課後、時間の空いていた飛乱さんと私は食堂でポテトを摘まんでいた。……私は節約のために水しか頼んでないけど。
会話の内容は、ほとんど学園での授業についての話だ。
「支給された機材も最低限の使い方しか教わってないしなぁ」
「自分で調べてはいるんだけどねぇ」
「そもそもノートパソコンは最新型じゃないし、SSDの容量は少ない。それならそれで外付けでHDDくらいは欲しいところですよね」
「あー、わかる。私も元々自作で性能いいの使ってたから、どうしてもスペック不足は感じるよね」
機材の授業が少ないと不満を持っている割に飛乱さんは機材周りに詳しそうだった。
「飛乱さん、結構詳しいね」
「あっ、いや、聞きかじった知識だからそうでもないんですよ」
私の言葉を慌てて飛乱さんが否定する。あまり聞かれたくない部分だったみたいだ。友人である前にライバルでもある以上、手の内を明かせないということだろう。
「まあ、授業がコンプラ優先なのは理解できるし、しょうがないよ」
バーチャル学園に入学してから様々な授業を受けてきたが、授業の割合を大きく締めるのはコンプライアンスや個人情報の管理などについてだ。
何となく機材周りの授業が少ない理由は予想がつく。
運営全体の意向としては、尖った人材を炎上しないラインの見極め力を身に着けた状態にして、社会性と配信センスの両方を兼ね備えた人材をデビューさせたいのだろう。
機材関係のことは後回しにしても何とでもなるし、最低限の配信技術さえ身に付けばあとは実習を通して軌道には乗せられる。
Vたれというコンテンツがアンダーグラウンドからメジャーコンテンツになったことの影響もあるのだろう。
ふとした発言が炎上に繋がる現在では、ラインの見極めが重要なのだ。運営としても、コンプライアンスで躓かない人材の育成は最優先事項なのかもしれない。
「亀梨先生は授業時間外でも結構答えてくれるけど、あの人いつ寝てるんだろ……」
亀梨先生は授業でカバーしきれない部分のフォローは欠かさず行ってくれる。
わからないところはないか毎回きちんと確認してくれるし、こっちから質問したときはちゃんと答えてくれる。
元ブラック勤めだからわかるけど、あれは完全に本来の業務以上の仕事をしている。目の下のクマも酷いし、ちゃんと寝ていないように見える。
最近では、授業中も敬語で話すことも忘れているくらいだし、余裕がないのではないだろうか。
「亀梨先生って最初は厳しい先生かと思ってたけど、めちゃくちゃ優しいよね」
「入学ガイダンスのときなんて、完全にデスゲームの司会みたいな雰囲気でしたよね」
デビューの座をかけて競い合い、実力不足と判断されれば退学になるわけだし、あながち最初に飛乱さんと話したデスゲームというのも間違ってはいないのかもしれない。
「気がつけばもうすぐ配信実習かぁ」
「私としてはトップバッターでさっさと終わらせてしまいたいですね」
「えー、私だったらトップバッターは嫌だなぁ」
SNS上には既に告知も出ている。
フォロワー数五十万人を超えるバーチャル学園公式アカウントでの告知。
他クラスの子達も含めた私達の立ち絵が並ぶ広告には、既に十万を超えるいいねもついている。
バーチャル学園の厳しいシステムが話題を呼んだことも大きいだろう。
既にネットでは〝バーチャル蠱毒〟〝V版デスゲーム〟〝狂気の沙汰〟と呼ばれ、賛否両論となっている。
V業界トップ企業の行う挑戦的な企画は確実に注目を集めている。
ここまで大々的に注目されると、今から心臓が縮こまる思いだ。
順番はまだ発表されていないが、トップバッターでないことを祈るばかりである。