「初配信で使えそうな素材とか載ってるサイトまた全チャに上げておくね」
「でましたね。いつもの女神降臨」
「誰が女神じゃい」
飛乱さんがからかうように崇めてくるので、軽く頭にチョップを入れる。
最近ではこういうツッコミを入れるのにも慣れたものである。
「こういうサイト系は授業でも教えてくれませんし、本当に助かります!」
「まあ、亀梨先生なら聞けば教えてはくれると思うけど……」
その分、あの人の負担が増えてしまうことにはなるのだが。
「乃尋さんはどんな初配信にするんですか?」
「配信の流れは何となく思いついたけど、まだどうするか決めてないよ」
正直、どういう方向性で活動していくか、その辺はあやふやなのが現状だ。
私達バーチャルタレント候補生は配信内容の縛りが多い。
まず、ゲーム実況や歌枠は禁止だ。これは権利的な問題もあるのだろう。
今の私達に許された配信内容は雑談と自分達で考えた企画のみ。
これらの条件から、運営から企画力やトーク力を伸ばして欲しいという意図はひしひしと感じる。
「少なくとも、今回の初配信で集まるリスナーは私達が配信について勉強中のど素人だってことは知ってる。今回失敗したくらいで見限るような人じゃないだろうし、気にせずやってみるよ」
もちろん、何の面白みもない配信にするつもりはない。
自己紹介に絡めて話すエピソードも既にいくつか考えてある。
後悔のないようにギリギリまで準備は怠らないつもりだ。
「やっぱり、乃尋さんは凄いです。お近づきになれてラッキーでした」
「それはこっちの台詞だっての」
私達は先への不安を紛らわせるように笑い合った。
飛乱さんと別れて真っ直ぐ自室へと戻る。
初配信の準備と同時に、私にはやらなければいけないことがあった。
それは高望みナウとして最後になる動画作成だ。
別に私以外にも切り抜き師はいるから私がいなくなったところで影響はないだろうが、それでも最後にきちんとケジメを付けて去りたかったのだ。
概要欄だけでは読まない人が大半のため、動画の冒頭に大まかな事情を載せ、その後は切り抜き動画の作り方を便利な素材や配信をDLできるサイトなどを載せながら作っていく。
『長い間動画投稿できず申し訳ございません。生活環境の変化により切り抜き動画の作成が厳しくなってしまいました』
フォントはいつも使っているポップなものではなく、ちょっと固めに。
『私事ではありますが、この度自分の人生の中で新たな挑戦をすることになりました。そして、二足の草鞋を履くのは厳しいと判断し、動画投稿は今回を最後とさせていただくことになりました』
BGMも真面目な雰囲気にあったものを付ける。
『そこで、これからいろんな方が愛のある切り抜き動画を作れるように、使用している素材やサイト、切り抜き動画の作り方を動画にしようと思います。大した技術ではありませんが、参考になれば幸いです』
導入も終わり、切り抜き動画の作り方を紹介するパートを作っていく。
『今まで切り抜き動画を視聴してくださったみなさん。本当にありがとうございます』
作り方の解説が終わると、私は最後に伝えたい言葉を綴る。
『この動画を見て、推しを応援するために切り抜き動画を作ってみたい! そんな風に思ってくだされば幸いです』
イシュリーの切り抜きではないため、彼女がこの動画を見ることはないだろうが別に構わない。
それでもどうしても言いたかったことを最後に書き連ねた。
『そして最後に、イシュリー・エル・シュメルさん。あなたの切り抜き動画を作ることはもうありませんが、これからもあなたの活動を応援させていただきます。本当にいつも楽しい時間を提供してくださり、ありがとうございます!』
完成した動画を見直し、問題がないことを確認すると投稿する。
それからしばらくすると、動画にコメントが付き始めた。
[ナウニキいままでありがとう]
[応援してるぞ!]
[新天地でもがんばれ!]
[解説動画めっちゃわかりやすかったです!]
[頑張って切り抜き作ってみます!]
[ナウニキがんばれー!]
久しぶりに開いたコメント欄は優しさに溢れていた。
ありがとう、みんな。私、頑張るよ。