Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【初投稿】私がきちゃ!

 初配信の流れを考える前に、私には目下やらなければならないことがあった。

 

「うーん、初投稿どうするかなぁ……」

 

 与えられたSNSのアカウントの最初の投稿である。

 バーチャル候補生英乃尋としての産声。それをどうするかなかなか決められずにいた。

 複数回投稿していけばいい話ではあるのだが、やはり最初の一言にはインパクトが欲しいと思ってしまうのだ。

 

「他の子はどうしてるんだろ」

 

 気になってそれぞれのSNSアカウントを覗いてみる。

 

「おっ、飛乱さんのアカウントもう呟いてる」

 

[飛乱綺羅莉@バーチャル学園G組:皆様、初めまして。飛乱綺羅莉と申します。これからバーチャルタレント候補生として精一杯活動していくので、何卒宜しくお願い致します]

 

 何とも丁寧な挨拶だ。

 私達G組に限らず、他のクラスの子も大体同じように丁寧な挨拶をしている。

 

[燐林凛@バーチャル学園A組:リンリンリーン! ちゃんとみんなに繋がってるかな? 燐林凛だよ、よろしくね!]

 

 その中でも一際目立っていたのがA組の燐林凛(りんりんりん)さんの初投稿だ。

 他の子が無難な挨拶をしているからこそ、はっちゃけている燐林さんの投稿は目に着いたのだ。

 

「いや、名前すご……」

 

 りんという文字が三つ並んだ名前。自己紹介でもしその名前を出されたら一度は聞き返すであろう名前である。

 挨拶であろう〝リンリンリーン〟も電話をかけている擬音のようで、いかにもVたれの挨拶っぽい。

 おそらく燐林さんはそこまで計算にいれて名前を考えた可能性まである。

 

 A組はバーチャル学園の中でもトップバッターとして初配信を行う。彼女の配信は是非とも参考にさせてもらいたいところだ。

 さすがというべきか、燐林さんのフォロワー数は他の子と比べて頭一つ抜きん出ていた。臆せずビッグマウスをかませる精神は見習いたいところだ。

 周りが無難な挨拶にしているから、テンプレから少し外すだけである程度は目立てる。

 

 でも、それだけじゃダメだ。

 短くてインパクトがあって、自分の伝えたい情報を端的に詰め込む。

 燐林さんで言えば、配信で使う予定の挨拶と活動のコンセプト。特に〝ちゃんとみんなに繋がってる〟という言葉には、リンリンという電話を連想させる音とリスナーさんとの繋がりを持つというダブルミーニングが込められている。

 ならば私も自分の名前や活動方針を絡めた挨拶にするべきだ。

 

[英乃尋@バーチャル学園G組:私がきちゃ! あなたのヒーローこと英乃尋、参上! 助けを呼ぶ声を聞いて駆けつけたよ!]

 

 結局、一時間ほど考えた初投稿がこれだった。

 ヒーローっぽくてVたれらしい挨拶は入れられたし、英乃尋としてのコンセプトとしては悪くないだろう。

 投稿を送信してから数秒で通知が来る。どうやら早速バーチャル学園が気になっている人の目に留まったようだ。

 

[燐林凛@バーチャル学園A組:わあ、ヒーローきちゃ!(のっふぃ、間違えてあたしにリプ送ってる)]

 

 浮かれた気分で通知画面を開いた私はそこで思考が止まった。

 

 通知欄に表示されている燐林さんからのメッセージは私の投稿への返信ということだ。

 そして、私の挨拶に乗ってくれつつも次に書かれた内容を見れば私が何をやらかしたか理解できてしまう。

 

「やらかしたぁぁぁぁぁ!?」

 

 どうしよう! 今すぐ消して投稿し直し――

 

[英さん、初投稿は消さないで。これネタにできるから!]

 

 初投稿を削除しようとしたとき、VARを通して燐林さんからメッセージが届いた。

 誤爆をネタにする。燐林さんの提案を見た瞬間に、不思議と心が落ち着いた。

 気がつけば私は次の投稿をするために指を動かしていた。

 

[英乃尋@この度は誤投稿してしまい大変申し訳ございませんでした。A組の燐林凛様にもご迷惑をおかけ致しました……]

 

 誤爆した投稿を引用し、無駄に丁寧な文章で謝罪する。

 すると、すぐにまた燐林さんからリプライが来る。

 

[燐林凛@いいってことよ!]

[英乃尋@ありがとう……リンちゃんの投稿見てたままだったから、そのままリプになっちゃったみたい]

[燐林凛@へへっ、照れるじゃねぇか]

[英乃尋@BIG LOVE……]

 

 適当にノリで会話をして弁明もできた。

 燐林さんのことをリンちゃんと呼び、向こうも〝のっふぃ〟と呼んでくれたことである程度仲が良いようにも見せられたことは変な杞憂を潰してくれるだろう。

 

 燐林さん改め、リンちゃんの機転のおかげで他クラスの生徒に迷惑をかけたバカの烙印は押されずに済みそうだ。

 

 翌日、SNSを開いて炎上していないことを確認して安堵していると、飛乱さんが話しかけてきた。

 

「おはようございます。昨日のお二人のやり取り、早速〝4DLIVEまとめ〟で話題になっていますね」

 

 飛乱さんは神妙な面持ちでスマートフォンを注視していた。

 

「えっ、私達まだアカウント動かし始めたばっかなのにもうあるの!?」

 

 4DLIVEまとめとは、4DLIVEのVたれに関する情報をまとめたサイトのことだ。

 内容は最近の4DLIVEの話題に関するリアクションをまとめたものなんだけど、SNS上に浮上しないからか、結構辛辣な意見が多いようにも思える。

 

「V業界トップの4DLIVEのプロジェクトは注目度も高いですからね」

「私達まだ初配信もしてないけどね……ちなみに、どんくらい話題になってるの?」

「七十人以上バーチャルタレント候補生がいて、話題になっているのは本当に一部の生徒のみですね……」

 

 飛乱さんは複雑そうな表情でスマートフォンから目を離さない。

 私も気になって調べてみたら、話題になっているのはAクラスのリンちゃんと他クラスから数名、Gクラスでは私だけだった。

 

「でも、これって言ってみればコアなファンが集まって話題にしやすい人の名前を挙げてるだけじゃない? V界隈全体的にはほんの一部だし、あんまり当てにならないでしょ」

 

 私達はまだ初配信すら行っていないのだ。

 その状態で誰が伸びるだとか伸びないだとか、言っても詮無いことである。

 どのコンテンツにも長く追っているだけで、ご意見番気取りの人とは出てくるものだ。

 一見それっぽいことを言っているが、結局は机上の空論でしかないのだ。ゲーム配信にくるエアプの指示コメントと同じくらいの信憑性と思っておくのがいいだろう。

 しかし、私の言葉を聞いた飛乱さんの表情は暗いままであった。

 

「そ、そうだ! 大牙さんは4DLIVEまとめ見た?」

 

 空気が重くなる前に、明るい声を意識して近くにいた大牙さんに声をかけた。

 声をかけられた大牙さんは呆れたような表情を浮かべて告げる。

 

「くだんな。そんなん気にしてへんでもっと勉強したら?」

「いや、それはそう」

 

 バッサリと大牙さんに切られた私は、苦笑いを浮かべながら頬をかく。

 大牙さんの言う通りだ。今は気にしても仕方がない。

 とりあえず、目の前にある課題を一つ一つこなしていくだけだ。

 

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