初配信をどうするか考えている内にA組の初配信の日がやってきてしまった。
いくら初配信まで期間があるからといって、このままでいいのかという不安は常に付き纏う。
「……こういうときこそ楽しまなきゃ」
でも、ある意味これはチャンスでもある。
まだ配信内容をガチガチに固めていないからこそ、A組の配信内容を見て軌道修正ができる。
何より世間の反応を見てから内容を決められるというのも大きなアドバンテージだ。
今のところバーチャル学園の話題性は十分。
一定期間ごとに振るいにかけられてバーチャルタレント候補生が脱落するシステムは一見厳しすぎるように見えるだろう。
デスゲームだとか狂気の沙汰だとか言われていても、その実態は一昔前にテレビで放送されていた公開オーディションのようなものだ。
今まで行ってきたオーディションでも、裏では厳しい審査があってVたれがデビューしてきた。
その審査員に4DLIVEコンテンツのファンがいるだけと考えればやることは変わらないのだ。
「うわ、もう四万人も待機してる……」
さすが4DLIVEのコンテンツだ。
待機画面の時点でこの人数は4DLIVEから新人がデビューするときのような勢いだ。
そして、A組のトップバッターはSNSでも目立っていたリンちゃんだ。
『リンリンリーン! ちゃんとみんなに繋がってるかな? バーチャル学園A組、トップバッターを務める燐林凛だよ!』
[きちゃ!]
[うるさwww]
[鼓膜死んだ]
[音圧ヤバくて笑う]
「音圧すご……」
リンちゃんの声は画面越しでもよく通る声だった。
案の定、元気いっぱいな燐林さんの挨拶に、リスナーさん達も笑いながら声が大きいことを指摘していた。
『あれ、もしかして音ヤバい? ちょっとしゃべってるから、みんな音量調節大丈夫か教えてー!』
流れるように音量調節に移行するリンちゃんについ感心してしまった。
『リンリンリンリンリンリンリンリンリンリン』
[音量調節独特で草]
[鬼電やめてくれwww]
[よく息続くな]
[これはリンリンゼミ]
音量調節一つとっても笑いを取る。
自分の大きくてよく通る声という武器を活用した一連の流れに息を呑む。
さらにリンちゃんは目敏く私も面白いと思ったコメントを拾い上げる。
『ちょっとー! 誰だよリンリンゼミっていった奴! 家にセミファイナルの詰め合わせ送りつけるよ!』
[最悪なお歳暮で草]
[開封した瞬間地獄過ぎる]
[やってること爆弾魔だろ]
『それじゃ、時間も限られてるしちゃちゃっと自己紹介しちゃおうか!』
それからリンちゃんの自己紹介が始まった。
『改めまして私の名前は燐林凜! りんが三つで燐林凜! 気軽にリンリンって呼んでね!』
[この数分で何回りんって聞いただろうか]
[あだ名なのか呼び捨てなのかわからんwww]
[どこを切り取ってもりんになるの笑う]
コメント欄を見ていて気づいたが、リンちゃんの名前はあだ名にしろ、呼び捨てにしろ必ず〝りん〟という名前を含んだ呼び方になる。
呼び捨てにしても愛称や名前で呼んでいるような親しさを感じることができるのだ。
何より、ここまでりんを連呼されれば嫌でも名前を覚えてしまう。
一体どこまで見据えて名前や初配信の流れを組み立てていたのだろうか。
それからリンちゃんは自分で描いたであろうイラストを交えつつ、面白エピソードを挟んで自己紹介を行っていく。
『私の長所はこちら! そう、とにかく顔がいいこと!』
私がやったように、立ち絵の表情もフリー素材を使ってうまく表情豊かに見せている。
それに加えて作った動画を流したり、茶番を挟んだりしなくても自然と引き込まれるトークは、私だけじゃなくて多くのリスナーさんを虜にしていた。
気がつけばあっという間に三十分が経っていた。
『名残惜しいけど今日はここまで! もし次がなかったらデスゲーム敗退ってことになるから、みんなチャンネル登録、高評価よろしくね! また会おうね、ガチャリーン!』
[ガチャリーン!]
[この子が落ちたらもう終わりだろwww]
[チャンネル登録しました!]
最後の挨拶も綺麗に決めてピッタリ三十分。
気がつけば私もチャンネル登録をしていた。
登録者数は設定された足きりラインの三万人を遙かに超えて五万人まで増えていた。
SNSでもリンちゃん関連のワードがトレンド入りしており、完全に話題をかっさらっていた。
そして、あまりのインパクトに、その後見たA組の配信は誰一人として内容が頭に入ってこなかったのだった。