A組の初配信が終わり、バーチャル学園内でも話題は彼女の初配信で持ち切りだった。
A組やB組にも数名面白い初配信を行い話題になった人はいた。
でも、リンちゃんほど伸びている人はいなかった。
「いや、リンちゃんの伸びエグぅ……」
「同じバーチャル候補生でここまで差が出るなんて……」
私達G組でも話題に上がるのはリンちゃんの話題ばかり。
伝説を創れるVたれを育てるのがバーチャル学園の目的だとは言っていたが、リンちゃんも既に一つの伝説を創っていると言えるだろう。
「私も負けてられない!」
入学当初の私なら臆して勝手に諦めていたけど、私には私の武器がある。
天才が身近にいるのなら、その凄さを分析して自分の糧にするだけだ。
「……乃尋さんは元気ですね」
「そりゃあんなの見せられたら燃えるもんだよ!」
やる気漲る私とは対照的に、飛乱さんはため息をついていた。
「わかっているのですか? A組は燐林さんの話題に飲まれてクラスの半数脱落したのですよ」
暗に飛乱さんは「次は自分達の番だ」と言っているような気がした。
「だからこそ燃えるんだよ! だって、リンちゃんを超えられたら伝説をまた一つ創れるってことでしょ?」
リンちゃんは既にバーチャル学園の歴史の一ページに大きな痕跡を残した。これを超えられなければ、伝説を創れるVたれなんて夢のまた夢だ。
「それにピンチはチャンスっていうし、見方を変えればバーチャル学園自体の宣伝してくれたようなものだからね」
「ピンチはチャンス……」
リンちゃんが話題をかっさらったと言えば聞こえは悪いが、バーチャル学園にはまだまだ面白い子がいる。そういう期待をリスナーさんに持たせてくれたとも言えるのだ。
「やっぱり守りに入ったらダメってことなんだと思う」
今回の件でよくわかった。
自己主張がちゃんとできずに、自分自身をコンテンツとして売り出せなければ生き残れない。
窓の外では脱落者達が帰りのバスに乗り込んでいる。
それを見て、私は絶対に生き残ることを硬く決意した。
その日の授業はいつもよりも熱が入った。
「うへー、足がもうパンパン……」
地獄のダンスレッスンを終えてふらふらになりながら自室へと戻る。
そのままベッドに倒れ込みたくなるのを抑え、キッチンへと向かう。
「自炊しなきゃ……」
明日も過酷なレッスンが待っているのだ。体力をつけるためにもご飯はしっかり食べなければいけない。
毎日納豆定食じゃ飽きもくるし、モチベーションも上がらない。
安くおいしいご飯を食べるにはもう自炊しかないのだ。
来月の支給日まで厳しい財政状況が続く私には辛いところである。
「やっぱ困ったときはカレーだよねぇ」
ブラック企業勤めのときは外食ばかりだったが、イシュリーを推すようになってからは自炊をするようになった。
元々趣味がなかった私にとって、料理は手軽にできる趣味だったのだ。
「やっぱりイシュリー様様だよねぇ」
イシュリーを推し始めてから身に付いたスキルが今の私を生かしてくれている。
そう思えば、このどん底にいる生活も悪くはない。
「ん~! やっぱこの味ぃ!」
完全に私好みの濃い目の味付け。自炊の良いところは自分の好きなように味を調節できるところだ。
「……ご馳走様でした」
本当はおかわりしたいところだけど、今は我慢だ。このカレーは次の給付まで大事に食べなければ。
エネルギーも補充し終えたところで、今日の課題に取り掛かる。
今回の課題は文章の朗読。演技の授業の課題のため、これに関してはネタを入れても評価には繋がらない。
大切なのはどれだけ登場人物の心情を汲み取り、感情を込めた演技をするかだ。
「うーん、何か違うんだよなぁ……」
何度か録音してみたが、どうにもしっくりこない。
活舌はかなり改善されたけど、台詞の読み上げにわざとらしさが滲み出てしまっている。
どうしたものかと頭を悩ませていると、インターホンが鳴った。