Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【耐久企画】リアル逆凸 突撃、見知らぬ晩御飯!【バーチャル学園/燐林凛】

 時計を見れみれば時刻はもう深夜二時を回っている。

 こんな時間に迷惑も考えずに部屋を訪ねてくる人なんて気心の知れた友達の飛乱さんくらいだ。

 

「もう、飛乱さん。また課題の相談? 別にいつでも来ていいけど、もうちょっと時間くらい考え――」

「ど、どうもー……」

 

 ドアを開けると、そこには飛乱さんではなく初めて見る顔があった。少なくともG組の子じゃない。

 枝毛だらけのボサボサの長髪に、中学生みたいなジャージ。いや、実際中学生くらいのときに着ていたジャージなのだろう。胸に苗字らしき〝悠木凛〟の刺繡がある。本名丸出しである。

 

「どちら様で?」

 

 見たところこの子は私と同じバーチャルタレント候補生だ。

 私の問いかけに、彼女は周囲を見渡すとぎこちなく笑って小声で名乗った。

 

「り、リンリンリーン……A組の燐林凛だよー」

 

 小声だけどよく通るその声には聞き覚えがある。現在バーチャル学園において圧倒的な存在感を放つバーチャル候補生燐林凛、リンちゃんだった。

 リアルの顔は初めて見たけど、身なりを整えればかなりの美少女だ。

 

「初めまして、私は――」

「ちょ、ちょっとストップ。ごめん、音声ミュートにするね!」

「へあ? ミュート?」

 

 リンちゃんの言葉に間抜けな声が零れてしまう。

 視線を彼女の手元に移せば、そこには学園から支給されたスマートフォン。

 

「ごめんなさい、ちゃんとミュートした。あのさ、今、企画やってて配信中なんだけど……もし良かったら上がらせてもらえないかな?」

 

 配信中と聞いて慌ててスマートフォンから動画サイトを開く。

 登録したチャンネル一覧を見れば、リンちゃんのチャンネルは配信中。

 配信へ飛んでみると、彼女がどうしてこんな時間に関わりのない私の部屋を訪れたか理解できた。

 

【耐久企画】リアル逆凸 突撃、見知らぬ晩御飯!【バーチャル学園/燐林凛】

 

[今の誰だろ]

[もうA組とB組全滅だけど、これ詰んでね?]

[てか、初配信まだの子の音声乗せていいのか?]

 

 概要欄を見てみれば、そこには詳しい配信内容について記載されていた。

 今回の企画はVたれの企画で突然電話をかける〝逆凸〟という企画をリアルでやるというものだ。それに加えてこの企画は突然部屋を訪れて晩御飯をご馳走になるというハードルの高い企画である。

 全員住み込みでバーチャル学園に通っているため、身バレの心配もない。バーチャル学園のシステムがあるからこそできる企画だろう。

 

 それと同時に、コメント欄から窺える現状がかなりまずい状況にあることも理解できた。

 現在初配信を終えているのはA組とB組だけ。

 その二組の生徒が全滅しているのなら、もう配信に声をのせられる人間はいない。

 私だって初配信はまだだ。この配信で声を出すのはまずいだろう。

 

 つまり、リンちゃんがリアル逆凸をしたところで、誰も配信に出ることはできない。

 

「うぅ……お腹空いた……」

 

 だけど、目の前で辛そうな表情をしているリンちゃんを放っておくという選択肢は私にはなかった。

 

「とりあえず上がって、話はそれから!」

「へ?」

 

 配信中ということを考えればあまりミュートの時間が長いのはよろしくない。

 せっかく話題性のある配信だと思って開いたら、音声なしの状態というのは集まったリスナーさんが帰ってしまう原因となりかねない。

 

「リンちゃん、いったんミュート解除して状況説明して。もちろん、私の名前は出さずに」

「えっ、うん。わかった。ていうか、どちらさま?」

「あなたのヒーローだよ……なんちゃって」

「えっ、のっふぃ、なの……?」

 

 リンちゃんが配信上で状況説明をしている間に全力で頭を回転させる。

 配信活動に意欲的なリンちゃんのことだ。耐久企画と言った以上、何の成果もなく引き下がることはしないだろう。

 晩御飯抜いたくらいで死にはしないだろうけど、次の日のレッスンに影響が出ることは間違いない。

 

「でも、私は初配信前。声を乗せることはできない……」

 

 私達は初配信まで声をネット上にのせることは禁止されている。

 

「いや、違う。ダメなのは声じゃなくて〝肉声〟だ……」

 

 これは初配信前にSNS上で音を使った遊びまでは許可するためのルールだ。

 そのままの声ではなく、加工した音声を乗せるのはオーケー。

 つまり拡大解釈にはなってしまうが、最悪ルールに抵触はしていない。

 私は予備のマイク機能付きのワイヤレスイヤホンをリンちゃんに渡す。

 

「リンちゃん、VARで通話つなげるからそれ使って」

「えっ、いいの?」

 

 配信に音声がのらないように気をつけて小声で伝えると、私は自分のスマートフォンからVARを起動してリンちゃんへと通話を繋げた。

 VARは配信機能に合わせて作られていることもあり、スマートフォンから配信していても通話の音声がのせられる。

 

『あー、あー……声聞こえてる?』

 

[!?!?!?]

[誰やねん!]

[これボイチェンか?]

 

 それともう一つ。

 このVARは音声にエフェクトをかけることができるのだ。

 

『うん、あたしには聞こえてるよ! コメント欄のみんなも聞こえてるみたいだね』

『じゃあ、これで大丈夫だね』

『いや、ありがたいけど……マジで初配信前なのに大丈夫なの?』

『ダメだったら運営が止めるよ。少なくとも肉声はのせてないから問題はないって』

 

 これはリスナーさんを落ち着かせるための方便だ。

 運営サイドが止めない理由は簡単。この時間、先生達は寝ていて一人一人の配信をチェックする余裕はないと思ったからだ。

 配信内容は事前に許可を取っているとはいえ、これは一種の放送事故に当たるだろう。

 

『えっと、それじゃあ改めて自己紹介をお願いしてもいいかな?』

『私がきちゃ! あなたのヒーローこと英乃尋、参上! 助けを呼ぶ声を聞いて駆けつけたよ!』

 

[のっふぃきちゃ!]

[初見で名前読めない子だ!]

[マジで駆けつけてて草]

[これはヒーロー]

[SNSの誤投稿は伏線だった?]

 

 コメント欄は私だと予想していた人もいたのか、大いに盛り上がっていた。

 

『あの、配信に出てくれただけでもありがたいんだけど、その、ご飯もらえるかな?』

 

[厚かましくて草]

[これデビューをかけて争ってるライバルに飯たかってるんだよね……]

[企画内容イカレてるだろwww]

 

『カレーでいい? 今日作ったやつなんだけど……』

『カレー!? あたし、カレー大好き!』

『じゃあ、温めなおすから待っててね』

『天使じゃ……天使がおる……』

 

[デスゲームにも天使っているんだなぁ]

[リンのひてぇてぇ]

[この子は絶対落としちゃいけない人材]

 

 カレーを温めて器によそう。

 涎を垂らしながら待つリンちゃんの前にカレーを置くと、物凄い勢いでカレーを掻き込み始めた。

 

『おいしい、おいしいよぉ……』

『そりゃお腹空いてただろうし、おいしいとは思うけど』

『そんなレベルじゃないって! このカレー超うまい! てか、レッスン地獄なのに自炊してるの偉いね!』

『いや、自炊しないと成績的に生活費がやばくて……』

 

 

『えっ』

 

 

[のっふぃ成績悪いんか?]

[待って今リンリンが食ってるのって……]

[生活切り詰めて作ったなけなしのカレーじゃん]

[えっ、のっふぃ天使すぎん?]

 

『あたし、もう食べちゃったんだけど……』

『あっ、おかわりいる?』

『今の話聞いたらもらえないよ!?』

 

[あまりにも聖人]

[だいぶ天然で草]

[この子、自分を救う対象に入れてないのでは?]

 

『遠慮しないでいいのに』

『いや、するよ!?』

 

 おかわりを置きながらそう言うと、リンちゃんは何かを閃いたようにコメント欄に向けて告げる。

 

『ハッ、そうだ! みんな、のっふぃのアカウントはもうあるからチャンネル登録よろしくね! してくれないとあたしが罪悪感で死ぬ!』

 

[任せろ]

[よーし、チャンネル登録しちゃうぞー!]

[何ならトレンドにも入れようぜ!]

[祭りの時間だ!]

 

『それっていいのかな……』

 

 コラボ相手のリスナーさんがチャンネル登録をしてくれることは往々にしてあるが、私はまだ初配信前。

 コラボと呼ぶのも怪しいこの放送事故で登録者数を増やしていいのだろうか。

 

『SNSでリンク張って直接チャンネル登録するように呼びかける子だっているんだから、このくらい問題ないって』

『そ、そうかな?』

『そうだよ! だって、あたしのお願いってのもあるけど、リスナーのみんなはのっふぃに魅力を感じたからこそチャンネル登録するんだよ。むしろ肉声なしで自分の魅力を伝えたのっふぃが凄いんだって』

 

 なるほど、そういう考え方もあるのか。

 同じクラスの子には睨まれるかもしれないが、飛乱さんと大牙さん以外に友達はいないし、あまり支障はないか。

 

『そういうことなら、うん。リンちゃんリスナーの皆様、チャンネル登録の程、何卒宜しくお願い致します』

 

[おうよ!]

[めっちゃ硬いなw]

[礼儀正しい子や……]

 

 初配信前に何故かコラボ配信をした私は、ノルマであるチャンネル登録者数三万人を遙かに超える四万人のチャンネル登録者を獲得した。

 

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