トイレ掃除配信は大好評のままに終了し、リンちゃんも私も登録者数がまた大きく伸びることとなった。
トレンド入りまで果たしてしまい、SNSでは私の初配信を楽しみにしている声が散見される。
「プレッシャー、エグぅ……」
ハードル爆上がりである。まだ時間はあるとはいえ、心臓に悪いことこの上ない。
改めて考えると、何で私初配信前に何度もトレンド入りしてるんだろう……。
「何かのっふぃって、スイッチ入ってるときとオフのときで別人だよね」
「そう、かな?」
自分ではあまり意識してないからよくわかんないや。
「では、さっそくそのHなHカップを堪能させてもらおうかねぇ!」
「あっ、うん。どうぞ」
「マジでいいんだ……」
何故か顔を引き攣らせていたリンちゃんは恐る恐る私の胸を鷲掴みにしてきた。
「すっ、ご……!」
「あー、確かにこれは恥ずかしいかもね」
ぶっちゃけただの脂肪の塊だから何とも思わなかったけど、意外と人に触られるという行為は恥ずかしいものだった。
今までスキンシップありのコミュニケーションができる友人が一人もいなかったから、同性なら恥ずかしくないと思ったけど、そうでもないようだ。
まあ、これなら太ももでも二の腕でもどこでも恥ずかしさは変わらないかな。
「何だろう、罪悪感が……」
「何で落ち込んでるのリンちゃん?」
数回揉んだだけでリンちゃんは気まずそうに手を放した後、Zのアカウントで私の胸の大きさと揉み心地をポストしていた。真顔でする行動じゃないだろうに……。
とはいえ、その姿勢はまさにVたれの鑑と言えるだろう。
「そういえば、リンちゃんってどうしてVたれになりたいの?」
リンちゃんの計算高さとVたれとしての意識の高さ。私はその原動力が気になった。
「V業界のトップに立つためだよ」
珍しく神妙な表情を浮かべると、リンちゃんは淀みなく告げて見せた。
「トップかぁ」
V業界のトップ。それは単純な数字的な意味ではないのだろう。
Vたれを知らない人が自分の名前は知っている。それほどの知名度と人気を誇り業界を牽引する存在になる。それがトップを取るということだ。
今の時代だと、バンチョー、まひるちゃん、ハンプ、レオ君、バラギ、焼き林檎、レイン様、白夜君、イシュリー、ミコちゃん……いや候補が多すぎる。というか、全員にじライブだし。
うーん、V業界のトップかぁ……私、他の企業は詳しくないんだよなぁ。
しいて上げるならVacterの和音ちゃん、奏ちゃんくらいかな?
結局、一般人の知名度ならレオ君が抜きん出ているだろう。
「私さ、お姉ちゃんがVtuberだったんだ」
「だった?」
「引退しちゃったんだよ。ファンの人達からは惜しまれてたけど、決意は固かったみたいでさー」
明るく笑いながら肩を竦めているものの、リンちゃんの声音はどこか寂し気に感じられた。
「だから、今度は私がVの頂点に立ってお姉ちゃんを引っ張り出したいんだ。この世界はこんなに楽しくて面白いよってさ!」
「天岩戸的な?」
「そそ! そんな感じ!」
リンちゃんのお姉ちゃんがどんな人だったかは知らないけど、きっと明るくて声を聴くだけで元気をもらえるような人だったのだろう。
「そういう、のっふぃは?」
「私は――」
私はオーディションを受けるまでに至った経緯を掻い摘んでリンちゃんへと伝えた。
「ほえー……何か波乱万丈だったんだね」
「そうかな? どこにでもありふれてる話だと思うよ」
ブラック企業で精神を病んだ女が推しと出会い救われた。
だから、こんな自分でも推されて誰かを救えるヒーローになりたいと思った。そんなのどこにでもある話だ。
「そんなことないよ。素敵な夢だと思う」
リンちゃんは私の話を聞いて柔らかい笑みを浮かべる。
「あたしさ、こんなやべぇ企画に参加する奴はみんなぶっ飛んでて切磋琢磨できると思ってた」
そこで言葉を区切ると、リンちゃんはガックリと肩を落とした。
「実際は足の引っ張り合いや守りに入るつまんない人達ばっか。まあ、A組とB組の半分消し飛ばした元凶が何言ってんだって話だけど……だから、のっふぃと出会えて良かった」
リンちゃんの言葉に心が熱くなる。
トラブル続きで散々な毎日だけど、リンちゃんと出会えたと考えればお釣りがくるというものだ。
「うん、私もリンちゃんと出会えて良かった。絶対一緒にデビューしよ!」
「あっ、それ死亡フラグじゃない?」
「やっば、じゃあいっそ死亡フラグかき集めてみる? 露骨すぎるフラグは折れるし」
「あっはは、やっぱのっふぃ最高だよ!」
笑い合いながら私達はそれぞれのクラスの一限の授業へと向かうのであった。
こんばん山月裏話
リンちゃんの本名はジャージにもある通り、悠木凛です。