Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【真実】箱根タマというVたれ

 朝から最悪な気分だ。

 大牙さんの気持ちはわからないでもない。

 誰かと絡み、相手のファンを自分のファンにしてまた別の人と絡む。

 そんなの傍から見たら寄生虫みたいなものだ。

 

「のっふぃ元気ないけど大丈夫?」

「うん、ちょっとね……」

 

 でも、それでいえば私は被害者だ。

 顔も名前も知らない人から絡まれて辟易しているというのに、どうして私が責められなければいけないのか。

 

「まあまあ、そんなときはステーキでも食べて元気出しなよ!」

「私のハンバーグもどうぞ」

「うわっ、いいの!?」

 

 リンちゃんからはステーキ、飛乱さんからはハンバーグをもらった私はゴクリと唾を呑む。

 最近はこの二人とご飯を食べることが多いけど、二人ともこぞって財政難の私に食べ物を恵んでくれる。

 

「あっ、写真載せるね!」

 

 そして、それをSNSへ載せればあっという間にいいねやリプライの嵐。これでまだ初配信前だというのだから驚きの反響である。

 そこでふと、大牙さんが嫌っているのはこういう行動なのではないかと頭に過ぎった。

 不安になった私は二人にてぇてぇについてどう思うか尋ねることにした。

 

「二人はてぇてぇについてどう思う?」

「微笑ましくていいと思いますよ。私は箱推しなので、仲の良い二人の絆のようなものが見えると嬉しくなります」

 

 飛乱さんはかなりてぇてぇに肯定的だった。

 私もイシュリーの配信でコラボがあると、飛乱さんと同様にソロ配信では得られないてぇてぇを摂取していた。

 

「うーん、毒にも薬にもなるって感じかな」

 

 それに対してリンちゃんは複雑そうな表情を浮かべていた。

 私に会えばノータイムで抱きついてくるリンちゃんにしては意外な意見だ。

 

「のっふぃ、キラリン。二人は4DLIVE二期生の箱根タマってVを知ってる?」

「……あれは嫌な事件でしたね」

「ううん、二期生で知ってるのは白鳥まひるさんかハンプ亭ダンプさんくらい」

 

 私は4DLIVE所属タレントを全て知っているわけではない。

 私が知ってる二人は、イシュリーとそれなりに関わりがあるから知っているだけである。

 

「なら名板赤哉と吉備津桃華は?」

「あっ、切り抜きで見たことあるかも」

 

 その二人の名前なら聞いたことある。

 男女カプがまだ流行っていた頃、赤桃というカップリングで有名だったはずだ。

 

「箱根タマはその二人と同期で〝和装組〟って呼ばれてたんだ」

「女性二人に男性一人の組み合わせ。確かに、二期生から三期生まではその組み合わせ多かったですね」

 

 当時、同期三人組の中でも、男女比率が1:2の組み合わせはバランスが良かったと言われている。

 今は男女でグループが分かれている方が多くはなってしまっているが。

 

「箱根タマは漫画家を目指すVとしてデビューした。同期とも仲良しで〝和装組〟の絡みを見るのが好きな人は多かったよ」

 

 それって、てぇてぇなのでは?

 ふと、頭の中に疑問が過ぎったが、話の途中なので最後まで話を聞いてみることにした。

 

「だけど、箱根タマは登録者数十万人に最速で到達した後からは、数字が伸びないライバーとの関係を切った。それから一期生の竜宮乙姫との絡みを増やし続けた」

「えっ、姫ちんと絡みあったの?」

 

 4DLIVE一期生竜宮乙姫は今でも活動を続けている伝説一期生の一人だ。

 一度卒業してから復帰したということもあり、当時はかなり話題になったらしい。

 

「その姫ちんを一度卒業まで追いやったのが箱根タマだよ」

「なっ」

 

 一体どうしてそんなことに……。

 

「箱根タマはいじめ騒動をでっち上げ、自分が不当解雇されたように印象操作をしたんだよ。姫ちんは大炎上、箱根タマはその後に契約解除になって、同情で話題を集めて漫画家活動を始めた」

「つまり、漫画家になるために周りを利用して、Vって文化も踏み台にしたってこと?」

 

 私の言葉に黙って頷くと、リンちゃんはやけくそ気味に残ったオレンジジュースを一気に呷った。

 

「ま、結局全部バレて社会的にさよならバイバイしちゃったんだけど」

「エグぅ……人生マサラタウンはキツイなぁ」

「ぶふっ! ……けほっ、けほ」

 

 真面目な話をしているというのに、何故か飲み物を飲んでいた飛乱さんが咽ていた。

 

「飛乱さん、大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫です」

 

 とにかく、箱根タマを推していた人からすれば、推しの最期の中でもあまりにエグい終わり方だっただろう。

 推していた人が同期も事務所もファンも、何もかもを裏切って最後には自爆。

 そんな経験想像しただけで吐き気がする。

 

「後日談だけど、姫ちんは何年か後に復帰して箱根タマと会って和解したって配信で言ってたよ」

「姫ちん、さすがにぐう聖過ぎない?」

「それはあたしも思う」

 

 自分を嵌めて引退まで追い込んだ相手を許すなんてなかなかできることじゃない。

 私が姫ちんの立場だったら箱根タマが破滅した後も許せないと思う。

 

「割とV業界でも初期の頃の事件なので、ここ数年でVの沼に嵌まった人は割と知らないものなんですよね」

「うん、全然知らなかった」

 

 人に歴史ありというが、初期からV業界を支えてくれていた人達は本当に荒野を突き進んでいたんだということを実感させられた。

 私って本当にVたれに関して無知だったんだなぁ。

 

「だから驚いたよ。まさかその〝箱根タマ〟が先生としてこの学園にいるなんてさ」

「へあ?」

 

 さらっと明かされた衝撃の事実に固まっていると、リンちゃんは何てことないように続ける。

 

「だってほら。箱根タマのその後の漫画家としての名前見てみなよ」

 

 リンちゃんが渡してきたスマートフォンに表示されているネット記事。

 そこには亀梨花子という名前が記載されていた。

 

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