私は二人との昼食を終えると、喫煙所に走った。
お昼過ぎの授業前のこの時間。
亀梨先生ならきっとタバコを吸っていると思ったのだ。
「亀梨先生!」
「英さん。そんなに慌ててどうしたんですか?」
亀梨先生は私が走ってきたのが意外だったのか、驚いた表情を浮かべていた。
「どうして箱根タマは同期を、先輩を、事務所を裏切ったんですか?」
私にとって亀梨先生は厳しいけど生徒のことを考えて行動してくれる優しい先生だった。
だから、ネットニュースに書かれているようなことをするようには思えなかったのだ。
「……そっか、知っちゃったか」
亀梨先生は私の言葉を否定するでもなく苦笑いを浮かべていた。
「言っとくけど、ネットの記事に載ってることは全部真実よ」
「そんな……」
正直言ってかなりショックだった。
亀梨先生は人として、先生として尊敬できる人だと思っていた。
そんな人が悪辣な方法で自分の大好きな文化を踏みにじっていたなんて信じたくなかったのだ。
「幻滅させちゃったのならごめんなさい。でも、アタシのやらかしたことは変わらないから」
一切の言い訳もせずそう言い切った亀梨先生は、遠い目をしてタバコの煙をくゆらせる。
裏切った人達が活躍する場に戻ってくるなんて絶対後ろ指を刺されて苦しいはずだ。
それなのに亀梨先生がこの場にいる理由が気になった。
「どうして先生はまた4DLIVEに戻ってきたんですか?」
亀梨先生の雰囲気から察するに過去の出来事を後悔しているのだろう。やはり贖罪のためだろうか。
「こんなアタシを信じてくれた先輩や同期達のためよ」
私の問いかけに対して、亀梨先生は真っ直ぐ前を見つめながら答えた。
「あの頃のアタシは本当に大切なものが見えていなかった。暴走して周りに迷惑振りまいて自爆した……!」
その言葉には強い悔しさが滲み出ていて、当時のことを思い出しながら話していることがよく伝わってきた。
きっと、自分のせいで多くの人を傷付けてしまったんだろう。
「そんなクズにも手を差し伸べてくれる人達がいた。だからアタシはここにいる」
その瞳には強い決意が宿っていた。
この人は周りにどう思われようと自分なりに責任を果たすつもりなのだ。
それが分かっただけで少し嬉しかった。
「でも、一度壊してしまったものは元に戻らないってことは痛いほどに実感してるわ」
「もしかして原先生や大牙さんのことですか」
「鋭いわね」
亀梨先生は一瞬だけ感心するような笑みを見せると再び視線を落とした。
「原先生は二期生全体を見てくれていたマネージャーだった。表向きはアタシの謝罪を受け取ってくれたけど、今でもアタシのことは腸が煮えくり返るくらいに嫌いでしょうね」
「大牙さんは?」
「あの子はたぶん乙姫先輩のファンね。きっとアタシが4DLIVEのプロジェクトに関わっていること自体許せないんじゃないかしら」
きっと二人のことがずっと気がかりなんだろう。
自分の過ちによって傷ついた人達のことを想っているに違いない。
そうじゃなければ、こんな風に悩むはずがないのだ。
「あんなことしでかしたアタシなんて信じられないかもしれないけど、指導に手を抜くつもりはないわ」
そこで亀梨先生は言葉を区切ると、真剣な眼差しで私を見た。
「だから、ついてきてくれるかしら?」
「もちろんです!」
もう亀梨先生が過去にどんなことをしたとか、そんなことはどうでもよくなっていた。
大切なのは今だ。
前を向いて自分の罪と向き合っている亀梨先生だからこそ、私は信頼できるのだ。