Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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もうちょっとで、ストーリーが動き出せそう。



【みんな祝って!】10万人記念凸待ち! その3

「レオ? 林檎ちゃん? もう全ライバーと通話したからかけてきていいんだぞ? ねえ、まだ寝る時間じゃないでしょ? マジでどうしたん?」

 

[不安になってて草]

[焼き林檎のことだから焦らしてる説]

[レオ君なら真っ先にかけてきそうだけど……]

 

「いやいや、林檎ちゃんならワンチャン寝てる説あるけど、レオなら来る……ねえ、マジで何してるの? 早く来てよ……ねぇ」

 

[珍しくしおらしいな]

[そりゃ絶対来ると思ってた人が来ないんだから寂しいでしょ]

[泣きそうになってるやん]

[レオ君バラギ相手にはSなとこあるからワンチャンしおらしいバラギ見て楽しんでる説]

[解釈不一致]

[レオ君ならバラギが泣きそうなときは飛んで駆けつけるでしょ]

 

 仲の良い同期二人が通話をかけてこないことに夢美は軽くショックを受けていた。

 そんなとき、玄関からインターホンの音が聞こえてきた。

 

「まさかまたドッキリとか――ん? インターホン鳴った?」

 

[こんな時間に来客ってあるのか]

[密林か?]

[おいおい、もしかして……]

 

「ごめんちょっと出てくる」

 

[おい、マイクミュートにしておけ]

[いや、むしろミュート忘れはグッジョブな予感]

[レオ君ならやりそうだよな]

 

 夢美は怪訝な表情を浮かべて玄関へと向かう。

 恐る恐る扉を開けてみると、そこにはレオと林檎が満面の笑みを浮かべて立っていた。

 

 

「「こんばんはー」」

 

 

「……………………え?」

 

 レオはともかくどうして林檎ちゃんまで?

 予測不能の事態に夢美はフリーズした。

 

「ほらほらー、ここからじゃ音声入らないからマイクの前までいくよー」

「んじゃ、お邪魔します」

「ど、どうぞ?」

 

 言われるがままに夢美は二人を部屋の中へと招き入れる。ちなみに、最近の夢美の部屋はレオや様子を見にきている四谷の手によってそれなりに片付けられている。片付けた傍から夢美が散らかすため、足の踏み場がある程度の散らかり具合で留まってはいるのだが。

 マイクが音を拾うであろう位置にいくと、二人はタイミングを合わせてクラッカーの紐を引いた。

 

 

「「登録者10万人おめでとう!」」

 

 

[ちょっと待て、レオ君も白雪もリアル凸してんの!?]

[その発想はなかった]

[そういやレオ君とバラギって家近所なんだっけか]

[だからってリアルで凸するか普通!?]

[三期生てぇてぇ…… ¥4,000円]

 

 先輩ライバーとの通話でも予想外の事態は発生していたが、レオと林檎が自分の部屋にやってきて祝ってくれるとは夢にも思っていなかった夢美は――泣き始めた。

 

 

「……ぐすっ……えぐっ……レ゛オ゛ぉ゛、林゛檎゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛……!」

 

 

「「ちょ!?」」

 

 これに焦ったのはレオと林檎の方だった。

 

「待て待て泣くな泣くな! ほら、これ! 10万人記念のお祝いにケーキ焼いてきたんだよ、シフォンケーキ! お前、生クリームとか甘いの苦手だから甘さ控え目に作ってあるぞ!」

「こ、紅茶もあるよー! ほらこれ、イギリス王室御用達のおいしい奴! 今日のために買ってきたから、これ飲んで落ち着いてよ!」

 

[これは泣くだろ……]

[レオ君、ケーキ作れるの!?]

[これで泣くなって方が無理]

[何気に白雪持ってきたの高級茶葉やんけ!]

[二人共めちゃくちゃ焦ってて草]

[ああ、てぇてぇ……てぇてぇだよ! ¥10,000円]

 

 レオは林檎から『通話ではなく実際に夢美の元へお祝いしにいくドッキリ』を聞かされたときから準備したシフォンケーキを、林檎は行きつけの紅茶専門店で購入してきた緑色の缶や箱が特徴的な高級ブランドの紅茶を、それぞれ夢美へと見せる。

 しかし、夢美は泣き止むことはなく、それからしばらく泣き続けていたため、レオと林檎が彼女に代わって配信上で場を繋ぐことにした。

 

「妖精のみなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」

「妖精のみんなー、おはっぽー。白雪林檎だよー」

 

「「せーの……ドッキリ大成功!」」

 

[かつてVの間でここまでてぇてぇドッキリがあっただろうか]

[ドッキリっていうより、海外のサプライズが近いかもな]

[まさか直接部屋に行くとは思わなんだ]

[これはいいものだ ¥6,000円]

 

 夢美の配信上でドッキリの成功を宣言するレオと林檎は予想外の展開に焦っていた。

 通話をせずに少し焦らしてからリアルで凸をするというこのドッキリ。

 二人は夢美が「めっちゃ焦ったじゃん!」と笑いながら怒るというリアクションをすると思っていたのだ。

 それがまさかの号泣。焦らないわけがなかった。

 そして、感極まった夢美は勢いのままに目の前にいる人物――レオに抱き着いた。

 

「うっ、ぐすっ……う゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!」

 

「ちょ、は、えっ!? おいおいおいおいおい、何抱き着いてんだ!?」

「ほ!?」

 

[ファッ!?]

[ガタッ]

[あ゛(絶命)]

 

 レオと白雪の様子や物音で何が起こったか察した妖精達は、一斉に盛り上がり始める。

 無理もない。普段は自然な男女のやり取りを楽しむ程度の彼らに、これは少々刺激が強すぎたのだ。

 

「待て待て待て! これはまずいから! マジで落ち着いてくれ! 白雪、フリーズしてないで助けてくれ!」

「ああ……私、今満たされてるわー……てぇてぇだよ……」

 

「白雪ィィィィィ!!!」

 

[レオ君大絶叫で草]

[白雪の放心状態も致し方なし……これはてぇてぇが過ぎる]

[うっ(心停止)]

[この尊さは、まだガンには効かないがそのうち効くようになる]

 

「なあ、夢美。頼むから落ち着いてくれ。何も泣くことはないだろ?」

「泣゛く゛に゛決゛ま゛っ゛て゛ん゛だ゛ろ゛! ふ゛っ゛飛゛ば゛す゛そ゛!」

 

[泣きながらキレてて草]

[抱き着きながら言っている台詞とは思えないwww]

[また一つここに名言が生まれたのであった]

[俺達だって泣いてるんだぞ!]

 

 それからひとしきり叫んだ夢美は、ある程度落ち着いたのか、真っ赤な目元をこすりながら、どこか拗ねたよう頬を膨らませていた。冷静になった途端、自分の行動が恥ずかしくなったのだ。

 

「……てか、そもそもレオが祝うのおかしくない? あんただって10万人突破したじゃん」

「おかしくないだろ。夢美がいなかったら俺はここまで伸びなかったし、夢美がいたからまた人前で歌うことができた。ただおめでとうって言うだけじゃ、気が済まなくてな」

「だから、このドッキリを企画したってわけだねー」

 

 林檎はレオの言葉に便乗して、企画者をレオということにしようとしていた。

 しかし、レオは呆けた顔で林檎に言った。

 

「何言ってんだ。企画したのは白雪だろ」

「そうなの林檎ちゃん?」

 

[嘘やろ?]

[あの白雪が?]

[んなバカな]

 

 レオの指摘に夢美は弾かれたように顔を上げて目を見開いた。人が戸惑っておろおろしている様子を楽しそうに眺める林檎が、こんなにも素敵なドッキリを思いつくとは思ってもみなかったからである。

 

「……何でバラすかなー」

 

 自分が企画者であることをバラされた林檎はバツが悪そうに頬を掻く。

 

「……これでも私だって感謝してるんだよ」

 

[これはいいクズデレ]

[ほっぺ林檎化不可避]

[まあ、いろいろなライバーとコラボしてるけど、三期生でコラボやってる時が一番楽しそうだったもんな]

 

 林檎は自分がまだU-tubeでの配信の方針を固めあぐねているときに、バズった夢美に便乗して登録者数を伸ばし、その後もレオと夢美の仲を邪魔しないようにしつつ、二人を応援するように立ち回って登録者数を稼いでいた。

 林檎も彼女なりの形で恩を返そうとしていたのだ。

 

「ていうかさー、バラギの部屋汚すぎじゃない?」

「えっ、これでも片付けた方なんだけど……」

「……マジ?」

 

 素直に褒められることが苦手な林檎はこの流れを断ち切るため、話題を夢美の部屋の汚さへと変えることにした。

 

「白雪、これが現実だ。これでもマネさんが片付けた方――らしい」

 

 自分が当たり前のように夢美の部屋に出入りしていることを隠すため、レオは表現を濁した。

 

「片付けてこれってやばくない? どうやったら、片付けた後にエナドリの缶や空のペットボトルが散乱することになるの? 私の部屋なんてゴミは私くらいしかないのに」

 

[解 釈 一 致]

[ナチュラルに自分をゴミ扱いしてて草]

[「ゴミは私くらいしかない」というパワーワード]

[足の踏み場があるだけいいだろ]

[マネちゃんが片付けにくるってどんだけだよwww]

 

「飲んだら床にとりあえず置くじゃん。それで後で片付けようと思って捨てるの忘れちゃうんだよね」

「はぁ………………」

 

[マリアナ海溝よりも深いため息]

[レオ君のため息の深さから苦労が窺える]

[強く生きろ]

 

「……とりあえず、ケーキ食べるか。夢美、台所借りるぞ」

「じゃ、私は紅茶いれるねー」

 

 ひとまず夢美も落ち着いて話も纏まったことで、レオと林檎はケーキと紅茶の準備をすることにした。

 

「いや、あたしがやるって」

 

「「いいから、お前は座ってろ」」

 

「……我、この部屋の主ぞ?」

 

[部屋の主だからだよ]

[キッチン自由に使われてて笑う]

[本当、仲良いなこの三人]

 

 さすがに、これ以上何かしてもらうのは悪いと思った夢美は立ち上がろうとしたが、レオと林檎に制された。

 それからレオがケーキを切り分け、林檎が紅茶を入れている間に、ある知らせを告げるコメントが書き込まれた。

 

[白雪も登録者数10万人突破したぞ ¥10,000円]

 

「ちょっ、林檎ちゃん! 林檎ちゃんも10万人突破だって!」

「…………ほ?」

 

 予想外の知らせに紅茶を入れていた林檎は硬直した。

 

「……マジだ」

 

 すぐにスマートフォンで確認してみれば、そこには登録者数10万人の文字が。

 元々も夢美と同様、林檎もカラオケ企画で流れ込んだ視聴者がいたため、登録者数10万人は目前だった。そこに普段白雪のチャンネルを見ない夢美の視聴者である妖精達が流れ込み、10万人を達成したのであった。

 

「おー、おめでとう! ちょうど良かったな。これで全員仲良く登録者数10万人だ」

 

[全員化け物で草]

[ちょうど良いってレベルじゃないだろwww]

[まーた伝説作りやがったよこいつら]

 

 ちなみに登録者数10万人の後押しになったのは、先ほど感謝されてバツの悪そうにしている林檎の態度だったのは言うまでもないことだろう。

 

「それじゃ改めて――」

 

「「「三期生全員登録者数10万人達成おめでとう!」」」

 

[おめでとう! ¥50,000円]

[おめでとう! ¥10,000円]

[おめでとう! ¥40,000円]

[おめでとう! ¥20,000円]

 

 それからレオ達は飛び交う高額なスーパーチャットに戦慄しながらも、それぞれの快挙を祝い合った。

 この夢美の登録者数10万人記念配信では高額なスーパーチャットが飛び交ったこともあり、その総額は一晩で七桁にまで跳ね上がった。

 のちに合計額を見た夢美があまりの額に吐きかけたのはまた別の話である。

 

「名残惜しいけどそろそろお開きの時間だね。林檎ちゃんも帰らないといけないし。あ、あとレオも」

「そうだな。女の子一人で夜道は危ないからな」

「レオ、ちゃんと林檎ちゃんのこと送ってきなよ」

「もちろん」

「いやー、悪いねー」

 

[たまにバラギってバブみあるよな]

[ごく稀にだがな]

 

「それじゃ、今日はみんな祝ってくれて本当にありがとう! 本日来てくださった先輩方も本当にありがとうございました! それでは――」

 

「「「おつゆみ!」」」

 

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

[おつゆみ!]

 

 こうして、夢美の登録者数10万人記念枠は最高潮の盛り上がりのまま終わった。

 

「さて、帰るかー」

 

 片づけを終えた林檎は上着を着て、足早に立ち去ろうとする。

 

「今日はありがとね、林檎ちゃん!」

「さっきも聞いたっての。またコラボしようねー」

 

 短くそう言うと、林檎は夢美の部屋を後にした。

 

「下まで送る」

「サンキュー」

 

 それから玄関のセキュリティがある場所に着くまで二人は無言だった。林檎がそれとなく話しかけるなオーラを放っていたからである。

 

「ここまででいいよ。タクシー呼んであるし」

 

 既に終電の時間は終わっている。金に頓着しない林檎にとって、タクシーを使うことには何の躊躇いもなかった。

 

「今日はありがとな。きっと夢美にとっても最高の記念配信になったと思う」

「……だからそれはもう聞いたって」

 

 どこかうんざりとした様子で林檎が返答する。

 

「それでも礼を言いたいんだって」

 

 どこまでも純粋な気持ちで感謝をしてくるレオに、痺れを切らしたように叫んだ。

 

「っ! 言っとくけど!」

 

 普段飄々としていて大声など出さない林檎が叫んだことで、レオは驚いたように目を見開いた。

 そんな彼の様子など気にも留めずに林檎はレオを睨みつけながら憎まれ口を叩いた。

 

「私はただ自分が伸びるためにあんたらを利用してるだけ。それ以上でもそれ以下でもないから! 私はあんた達の思っているような人間じゃない……お人好しは美徳だけど、人を疑うことを覚えた方がいいよ」

 

 一方的にそれだけ言うと、林檎はちょうどやってきたタクシーへと乗り込んだ。

 

「あいつ嘘下手だなー……」

 

 レオは呆れた様子で、林檎を乗せて走るタクシーを見えなくなるまで見送るのであった。

 





ここで林檎についてちょっとだけ解説を。
彼女は素直に褒められたり、感謝されることが苦手です。
自分がクズという自覚があるため、自分のことをわかっていないと認識してしまうためです。
これが、まだそこいらの有象無象の言葉ならば何とも思わなかったんですけどね。
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