そこは乱雑に散らかった机の上と、壁にかけられた様々な資料の数々。
こういうのしっかりしてそうなイメージがあっただけにちょっと意外だ。
「まあ、適当に座りな」
「へぶっ!」
思いっ切りクッションを投げつけられた。当たり前だが、歓迎はされていないようである。
それでも中に入れてくれたということは話を聞くつもりはあるということだ。
「そんで? わざわざ前世特定してまで何を言いにきたんや」
「私は大牙さんとも仲良くしたいと思ってる」
これは本心だ。せっかく同じ事務所に所属する同期なのだ。
一緒に頑張っていきたいと思うのは普通のことだ。
「私達はデビューの枠を取り合うライバルだけど、同じ夢を持ってる同士でもある」
「それはお前の考えやろ。ウチは一人でもやっていける」
「だったら、何で関係性オタクの多い箱を選んだの」
真っ直ぐに大牙さんの目を見て言い放つ。大牙さんはその言葉にピクッと反応する。
「個人で好きにやりたいなら個人勢になればいいし、個人主義の事務所だってある」
「4DLIVEは業界トップや。今後Vたれと活動するならここしかないやろ」
嘘だ。大牙さんの言葉には正当性こそあれど、心が籠っていない。
自分にそう言い聞かせようとしているだけだ。
「推しへの愛を誤魔化そうとしない方がいいよ」
その一言を聞いた瞬間、大牙さんの表情が変わった。
「知ったような口を利きな!」
苛立ったように立ち上がると私の胸ぐらを掴んだ。
大牙さんの鋭い眼光が私を射抜く。
しかし、ここで目を逸らすわけにはいかない。
「私だって推しに憧れたからわかる! 一度抱いた憧れは消えない! 推しが消えようと、推しに幻滅しようと……なりたい自分――大牙鶫はもう動き出してたんでしょ!」
掴まれた手を払いのけると、そのまま大牙さんを押し倒した。
「だったら、逃げるなよ! いつまでもうじうじと……亀梨先生に言いたいことあるなら言い訳作って逃げてないでさっさと気持ちぶつけてこい!」
「うっさいわボケ! 箱根タマ事件はもう当事者同士で和解しとるのに、ウチの出る幕なんてあるわけないやろ!」
大牙さんが感情を爆発させる。
彼女の言う通り、箱根タマが起こした事件に関しては既に決着がついている。
でも、それで仕方ないと飲み込み切れず、勝手にもやもやしているのはいただけない。
「応援してたファンだって事件に巻き込まれた被害者でしょうが!」
「そやから、謝罪の催促しろってか? んなこと言えるか!」
「違う! 自分のもやもやした気持ち全部ぶつけてスッキリしてこいって言ってんの!」
「何で他人のお前にそないなこと言われなあかんねん!」
「人の活動に自分のもやもやした気持ちぶつけてケチつけてきたからでしょうが!」
お互いに怒鳴り合いながらついに手が出始める。
「やんのか、おぉん!」
「上等だよ!」
結論から言うと、大牙さんは小柄の割にパンチ力があった。