「乃尋さん、それって……」
「……終わったな」
何事かと覗き込んできた飛乱さんと鶫もあまりの状況に絶句していた。
画面は真っ青、私の頭は真っ白。お先真っ暗である。
「先生のところに行きましょう!」
即座に飛乱さんが私の手を取って立ち上がった。
「う、うん!」
幸い今日は亀梨先生に加えてスタッフさんも来てくれている。
ノートパソコンを渡せば何とかなるだろう。
そう思っていた時期が私にもありました。
「これはウィルスに感染していますね……」
無情にも診断結果は即時の復旧は無理というものだった。
「予備のパソコンは渡せますが、大丈夫ですか?」
大丈夫なわけがない。
配信ソフトの設定も、配信の台本も、コメント返しのフローチャートも全て今の今まで使っていたパソコンに入っていたのだ。
真っ新な機材を渡されたところで、それらを再現することなど到底不可能である。
「な、何とかやってみます……」
そう答える以外に選択肢はなかった。
事情を説明して一人だけ別日というわけにもいかないだろう。
つまり、このままだと私は退学になる。そんなの絶対に嫌だ。
「みんな聞いて! 機材トラブルで配信できそうにないの。誰か順番を変わってくれる人はいない!?」
即座に教室に戻って声がけをしてみるが、クラスのみんなは気まずそうに顔を逸らした。
そりゃそうだ。
配信の順番が発表されてから、みんなはトップバッターでやることを想定していない配信の流れを考えていた。
いきなりトップバッターなんてやって躓き、退学になんてなりたくないだろう。
もうダメだ。そう思ったとき、希望の光が差し込んだ。
「私が変わります!」
静寂を破り、飛乱さんが手を上げて高らかに告げた。
「で、でも、飛乱さん……いいの?」
「大丈夫です。そのくらいのトラブルで躓くような準備はしていませんから」
それに、と続けると飛乱さんは軽くウィンクをして告げた。
「乃尋さんにはいつも助けていただいてますから」
「飛乱さん……」
その真っ直ぐな言葉に目頭が熱くなった。
「それより、乃尋さんは大丈夫そうですか?」
「思い出しながら作るから間に合うかはギリギリになるかもだけど……」
正直、どの素材がどこにあったか探し直すのにも時間はかかる。
既にダウンロードしている子からもらえれば早いが、そんな都合良く渡す用のデータを持っている子なんているわけが――
「乃尋」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。
「ネットで素材探すよりこっちのが早いやろ」
すると、鶫がUSBメモリをこちらに差し出してきていた。
「どう、して」
「前に言うたやろ。お前が張ってくれたサイトからウチも素材もろうとったってな。万一に備えて、使うてる素材やバックアップはとっといたんや」
そこで言葉を切ると、鶫はバツが悪そうに目を逸らして呟いた。
「……あと、順番変われんくてごめん」
ぶっきらぼうに謝罪の言葉を口にするその姿に胸の奥がきゅっと締め付けられた。
「ううん、ありがとね」
自分だって初配信で不安なのに、どんな形であれ私のために動いてくれたことが嬉しかったのだ。
胸に巣食う不安はどんどん薄れていく。
そんな中、マナーモードにしているスマートフォンが静かに震えた。
「っ……!」
スマートフォンに表示されていた〝高望みナウ〟のアカウントに来た新着コメントを見て、不安は完全に晴れた。
[イシュリー・エル・シュメル:高望みナウさん! 今までずっと素敵な切り抜き動画をありがとうございました! 新天地でも頑張ってね!]
何を不安がっていたんだ私は。
デビューすればこんなトラブルはつきものだ。
それでもトラブルをエンタメに消化してこそのVたれじゃないか!
やってやる、やってやる……やってやる!
「みんなも私のことは大丈夫だから! お互い初配信ぶちかましてやろうね!」
拳を突き上げて力一杯に叫ぶと、クラスの雰囲気が明るくなった気がした。
そうだ、せっかくの機会なんだ。トラブルだって楽しまなきゃ損だ。
酸いも甘いもしゃぶり尽くして、味がしなくなっても噛み続ける。それでこそVたれというものだ。