配信が開始されるのと同時に、私は再生ボタンをクリックした。
コメント
[!?!?!?]
[!?!?!?!?]
[ファッ!?]
いきなり流れ出した映像にリスナーさん達が動揺する。
私が機材トラブルでトップバッターからトリを務めることになったことは告知されている。
リスナーさん達はトラブル後であたふたしている子を優しく見守るくらいの気持ちでいたはずだ。
そこに突然凝った編集の動画を流されれば動揺もするはずだ。
そのままコメント欄の反応を窺っていると、動画はギャルゲーのオープニングのヒロイン紹介パートに当たる部分で私が四回出てくる場面に差し掛かった。
【英乃尋】
【英乃尋】
【英乃尋】
【英乃尋】
[めっちゃギャルゲっぽい]
[ヒロイン一人で草]
[絶対に推せという圧を感じるwww]
課題提出の際に差し込んだネタが良い方向に作用してくれた。
最後にバーチャル学園のロゴが表示されて画面が暗転する。
私は深呼吸をすると、画面を配信用のものに切り替えた。
「ヒーローは遅れてやってくるっていうよなぁ!」
精一杯声を張り、マイクに向かって叫ぶ。
「私がきちゃ! あなたのヒーローこと英乃尋、参上! 助けを呼ぶ声を聞いて駆けつけたよ!」
[きちゃ!]
[声が加工されてない!]
[声可愛いやんけ!]
[のっふぃも音圧やばくて草]
[かわいい!]
コメント欄は、私の挨拶のときの声の音圧で笑っている人と立ち絵のデザインの可愛さに言及する人の半々くらいの反応だった。
私の声が可愛く聞こえるのは、最初に配信に乗った声が加工された声だったことも大きいだろう。
「いやぁ、準備してる途中で画面真っ青になったときは終わったと思ったね」
[出だしから不憫]
[それであの動画出せるのはすごい]
[俺だったら泣いてる]
[トラブル対応○]
「飛乱さんが順番変わってくれなかったら終わってたよ。飛乱さんマジ天使」
飛乱さんへの感謝の気持ちも忘れずに伝える。みんなが渋る中、迷わずに順番を変わってくれたことで私の精神は落ち着いた。
「あと、鶫も配信で使う素材集が入ったUSBとか貸してくれたんだ。バーチャル学園あったけぇや」
[あったけぇ……]
[てぇてぇ]
[こーれてぇです]
予想通りコメント欄の反応は上々。
わざわざバーチャルタレント候補生というほぼ素人の配信を見にくるということは、所謂〝箱押し〟の人が多いと思っていた。
企業所属のVたれを運営事務所ごと推している人達は箱押しと呼ばれ、公式番組やコラボなど、Vたれ同士の絡みを好む人が多い。
何よりリンちゃんのリスナーさんは特にこれを待っていたのだろう。
でも、それだけで終わらせるつもりはない。これからはしっかりと〝英乃尋〟のファンにもなってもらう。
「それじゃあ、自己紹介いっくよー!」
私は鶫のおかげで間に合った自己紹介シートを画面上に表示する。
記載しているのは名前や趣味など、当たり障りのない内容だ。
それらの公式ページを見れば済む情報はさらっと触れ、一番アピールしたい特技の欄について話し始める。
「私の特技は動画編集! みんな、さっきの動画どうだった?」
上には上がいる。自分なんて大したことはない。
そうやって自分を否定してきたが、この場では自信満々に言い切る。
[すごかった!]
[最後にとんでもないバケモノがきたな]
[これをトップバッターでやろうとしてたってマ?]
[さすが初配信前にコラボ配信した女]
ちょうどいいコメントが目に付いたので拾う。
「あー、実はね。最初この動画は出す予定じゃなかったんだよね」
トラブルがなければ、この動画を使うこともなかっただろう。
でも、こうして失敗作を活かせるのだからある意味ラッキーだったのかもしれない。
「パソコンのデータ飛んじゃって、初配信の準備も全部パーになっちゃったから、慌てて課題で作った動画流したんだよね」
[課題のクオリティが高い件]
[絶望的なトラブルがあったとは思えない落ち着き]
[新人とは思えない安定感を感じる]
[リンリンのときといい、アドリブ力エグイな]
それから随時事前に予想していたコメントを拾ってトークを繋いでいく。
リスナーさん達は温かく、優しいコメントが多かった。
それから自己紹介もかねて昔のエピソードなどをしばらく話した。
苦労話に同情する人、夢を応援してくれる人、いろんな人がコメント欄には存在した。
当然、その中には心ないコメントを書き込む人もいた。
[でも、結局登録者数伸びなきゃ退学じゃん]
[声が残念]
[お疲れ様でした]
[てぇてぇとかデスゲームにないだろ]
[こっちは醜い潰し合いを見に来てんだよ]
バーチャルタレント候補生は素人の新人ということもあり、基本的に私達を応援したい優しい人が集まる。
もちろん、そんな人達ばかりではなく、コンテンツの最古参になりたいがために、自分の推しになり得る者を探している人やVコンテンツ自体のアンチもいる。
一番多いのは、私達バーチャルタレント候補生が潰し合う様を眺めに来た野次馬達だろう。
本来ならば、拾ってはいけない部類に当たるコメント。それを私は待っていたんだ。
「あのさ、バーチャル蟲毒だのデスゲームだのさんざん言われてるけど、この学園って別におかしなことしてないと思うんだよね」
[拾うな拾うな]
[ちょ、大丈夫なん?]
[気にしちゃダメだよ]
コメント欄が心配するのと同時に、側にいた亀梨先生やスタッフの人までぎょっとした表情になる。
「みんなは、さ。推しがいつ卒業するかと思うと、重大発表って書いてあるだけで怖くなった経験はない?」
[めっちゃわかる]
[喜ぶ前に一回心臓が痛くなるわ]
[あるある過ぎる]
「推しはメジャーデビューしてるから、3D化しているから、そんなの何の保証にもならない。そんなのみんなが一番わかってると思う」
絶対にVたれを続けるって覚悟があっても、環境的な問題とかで続けられなくなって消えていったVたれはたくさんいる。
Vたれに限定せず、個人活動を行っているVだって、今この瞬間にだって消えているかもしれない。
「結局、バーチャル学園のシステムってV業界の縮図だと思うんだ」
いつ卒業するかわからないVたれと、退学のリスクを背負って活動する私達バーチャルタレント候補生。永遠なんてものはどちらにも存在していないのだ。
「推しが明日も元気に活動している保証なんてどこにもない。だから、みんな。推しは推せるときに推せ!」
[これは真理]
[文字通り命懸けだから言葉の重みがすごい]
[V業界の名言をこんな形で聞くことになるとは……]
[デスゲームだとわかって参加した奴だ、面構えが違う]
「私はまだまだ未熟者だけど、みんなの応援があれば生きていける。生き残ってこの学園で学んでいけば、みんなが気がついたら推しているようなVたれになれる。何が言いたいかっていうと――」
そこで言葉を区切り、精一杯虚勢を張って宣言する。
「絶対に消えてなんてやらないから、私を信じて黙って投資しろってことだよ!」
[うおおおおおお!]
[めっちゃイキるやんけwww]
[自分でハードル爆上げしよった]
[あのリンリンと波長が合うわけだ]
現実の自分に自信がなくたって、ここはバーチャル。
成りたい自分になれるのがVたれの良いところなのだ。
「というわけで、ピッタリ三十分! 今後も私達バーチャルタレント候補生の応援をよろしくお願いします!」
[タイムキープ完璧じゃん]
[とんでもない子がきたな……]
[これからも応援してるよー]
[お疲れ様!]
最後にSNSでの私達への応援投稿用のハッシュタグなどの説明が描かれた画面を表示して配信を終える。
配信を終了するのと同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。
イスから立ち上がった瞬間、立ちくらみがして体がふらつく。
「英さん、大丈夫ですか?」
そんな私を支えてくれたのは、笑顔を浮かべた亀梨先生だった。
「先生、私どうでした?」
「最高の初配信でした」
「良かった……」
先生に支えてもらいながら教室へと戻る。
すると、教室にいたみんなが一斉にこっちに駆け寄ってきた。
「……全部もってかれたわ」
「本当にブチかましてましたね!」
飛乱さんを筆頭にみんなが私を囲って褒めてくれる。
正直、こういうノリは苦手だったけど、今は悪くない気分だ。
こうして私達の初配信は好評のままに終了した。