「乙姫先輩。どんなに時が経とうと過去は変わらない。罪は消えないんですよ」
タマは乙姫先輩の真剣な表情に向き合い、覚悟を決めた。
「ここのリスナーさんはあなたが好きです。そんな人達があなたを嫌いになりかねない。これ以上、アタシを乙姫先輩の配信に出すのは良くないと思うんです。だから、そろそろ終わりにしましょう」
「……言いたいことはよくわかったわ」
乙姫先輩は静かに頷くと、ふと微笑みを浮かべた。その穏やかな表情にタマは息を呑む。
「じゃあ、話も聞き終わったし、気合い入れて〝フィナーレソード〟を引き続きプレイしていきましょうか」
「嫌だぁぁぁぁぁ!」
[草]
[拷問なんだよなぁ]
[スマホ版なのが妥協のない地獄で素晴らしい]
フィナーレソード。
夢美がプレイして伝説のにじライブミーム「ゴミカス、死ね」を生み出した迷作だ。
有名RPGである〝ルミナの聖剣シリーズ〟の要素が散見されるこのゲームは、コンシューマー版が再度販売されており、そちらは多少難易度が改善されている。
しかし、スマホ版はそうではない。
要するに、クリア耐久はただの拷問である。
「でも、タマちゃんもう中盤まではサクッといけるようになったじゃない」
「もう半日経ってますけど……」
[これ事務所のスタジオに呼んでやってるんだよな……]
[スタッフの気が狂うわ!]
[この状況でずっと楽しそうな姫ちんはやっぱりにじライブ]
「ちょっと私もやってみようかしら」
「あなたは一体この半日、何を見てたんですか!?」
[イカレてて草]
[拷問されてた人が拷問官を心配する稀有な例]
[さすが一期生、頭にじライブだぜ!]
コメント欄が再び爆笑の渦に包まれる中、英乃尋たちバーチャル学園の教え子たちも応援コメントを送ってきた。
[英乃尋:タマ先生負けるな!]
[燐林凜:タマ先生ファイト!]
[大牙鶫:タマ先生ならできる!]
「ほら、教え子達も見てるわ」
「こんなの見てないで課題やりなさいよ!?」
[草]
[それはそう]
[炎上先生での絆てぇてぇ]
かつて炎上先生として引きずり出されたタマが、今では教え子たちと絆を深め、こうして応援される立場になっている。
誰もが思い出すのは、伝説的な炎上先生の配信だった。
それは乃尋達が初配信を終えてから少し経ったときの出来事だった。
バーチャル学園では、長時間配信を行う場合は事前申請が必要で、その他大型の企画なども申請が必要。
つまり、事前に大量の企画を作らなければ断続的にインパクトのある配信がしにくくなる。
そう思った乃尋は、リンと鶫に声をかけてある企画を考えて申請に出した。
「企画書ね……どれどれ――はぁ!?」
炎上先生。
過去に炎上を経験した人をゲストに呼んで教えを請う企画。
話題性も十分な上に、タマなら〝箱根タマ〟としては契約解除されているため、規約上にある〝にじライブ所属のバーチャルタレント〟扱いにならない。
つまり、にじライブと絡んではいけないという規約に引っかからないのだ。
「「「次の企画のゲスト出演、よろしくお願いします、タマ先生!」」」
「いいわけないでしょうがぁぁぁ!」
本来ならば、ここで担任としてタマが許可を出さずに終わるはずだった。
この配信企画は一度は却下されたものだったはず。それが後に実現したことには、それほど深いわけがあるわけでもなかった。
「今度は私の所へ燐林さんが企画書を持ってきたので、許可を出しておきました」
「原先生、正気ですか!?」
「積極的に挑戦する姿勢まで潰すのは好ましくないのでは?」
「これは明らかに度を超えてるでしょ!」
いつかの意趣返しとばかりに告げる原にタマは悲鳴のような声を上げる。
「大丈夫です。本当にまずければ上が止めます」
「絶対許可されるから止めてたの!」
タマの脳裏に、一期生の三人がニヤニヤしながらハンコを捺す様子が過ぎる。
結局、この企画は許可が下りて強行されることになり、V界隈で大きな話題となった。
不可能を可能にしていくバーチャル学園の生徒達。その知名度は瞬く間に広がり、ついには案件まで来るようにまでなった。
もはやデスゲームの体を保つのは不可能な状況に近かった。
そして、最終的ににじライブとの絡みも解禁されることになるのであった。