Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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今回はレオの10万人記念枠のお話です。



【圧倒的感謝!】10万人記念配信!

「すみません、音声データの編集までやっていただいてしまって……」

『気にしないでください。獅子島さんが編集してしまうと、リアクションが薄くなってしまいますからね』

 

 今日はレオの登録者数10万人記念配信の日だ。

 この日に備えてレオはツウィッターで音声データの募集をしていた。

 集まった音声データはレオの新鮮な反応を見せた方がいいという飯田の提案もあり、音声のMIXなどは全て飯田が行っていた。

 本来マネージャーのする仕事ではないため、レオは飯田にかかる負担を心配していたが、現在飯田はレオの専属のため、慣れている音声データの編集ならば負担にはならなかったのだ。

 

「それにしても、飯田さんって動画編集やMIXまで出来るなんて凄いですよね」

『そんなことないですよ。動画編集はライバーの方に教えられる程度にと勉強していただけですし、MIXも学生時代に興味があって齧っていただけのものです。……もしかしたら、僕が獅子島さんの担当になったのは、こういった知識があったからかもしれませんね』

「やっぱり諸星さんって凄いんですね……」

 

 ライバーとしてにじライブに所属してから世話になりっぱなしだったこともあり、レオは改めて諸星の凄さを実感していた。

 

『一時的に白雪さんのマネージャーも担当できるくらいですからね……確か竹取かぐやさんの担当をされているのも諸星さんらしいですよ』

「えっ、諸星さんってかぐや先輩の担当だったんですか!?」

『ええ、直接本人に聞いたわけではありませんが、二期生の担当マネージャーの先輩が教えてくれました』

「はえー……やっぱり凄いなぁ」

 

 それから二、三、今日の配信について軽い確認をすると、レオは準備を整えて配信を開始した。

 

「袁傪のみなさん! こんばん山月!」

 

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

[こんばん山月!]

 

「登録者数10万人! 本当に、本っ当にありがとうございます! 俺の配信を見に来てくれる袁傪のみなさんがいるからここまで来れました……まだまだ突っ走ってくから、全力で付いてきてくれ!」

 

[当たり前だ! ¥50,000円]

[本当におめでとう! ¥50,000円]

[既に泣いた ¥50,000円]

 

 レオの挨拶と同時に最高額のスーパーチャットが飛び交い始める。五万円はU-tubeで設定されている月の上限額のため、この額を投げた場合はもう他の配信でスーパーチャットを投げられなくなる。別のアカウントを使うという裏ワザはあることにはあるが。

 あまりの事態にさすがのレオも焦り始めた。

 

「あ、ちょっと待って! 全力って金額のことじゃないから! 前にも言ったけど、自分の稼いだ金で投げてな!」

 

[自分で稼いだ金だぜ! ¥50,000円]

[このために就職したんだ ¥50,000円]

[お前に貢ぐために稼いできたんだよ ¥50,000円]

[学生なので高額は無理ですが、お年玉を捧げます ¥1,000円]

[ニート社会復帰させてて草]

 

 いつものようにピタリと止まると思いきや、レオの言葉を予測していたかのようにスーパーチャットが飛び続ける。

 実は袁傪の中には、挫折から立ち直り再び夢に向かって頑張るレオの姿を見て、社会復帰をした者やアルバイトを始めた学生がちらほらと存在していた。

 

「嘘だろ!? マジで待って! そこまでされたら返しきれないって! ただでさえ、配信見に来てくれるだけでもありがたいのに、これ以上何すればいいんだよ!」

 

[明日も笑顔で生きて ¥10,000円]

[袁傪達までぐう聖に変えるとは恐れ入った]

[新時代の空気清浄機]

 

「これ以上赤スパ投げるの禁止! マジで無理しないで!」

 

[了解! ¥9,999円]

 

「違う、そうじゃない!」

 

[赤スパ回避は草]

[袁傪ファーストな姿勢すこ]

[袁傪ファーストというパワーワード]

 

 いつものようにスーパーチャットを止められなかったレオは次なる手段でスーパーチャットを止めることにした。

 

「あーあ、せっかくみんなと一緒に楽しもうと思って企画考えてきたのに、これ以上スパチャばっかり飛ぶと企画できないなぁ!」

 

[スパチャピタリと止まったwww]

[スパチャを止める天才]

[スパチャ止め芸という新境地]

[スパチャを投げると真っ先に袁傪を心配する聖獣]

 

「そりゃ心配するだろ袁傪のみんなは友達だぞ」

 

[どれだけ俺達のこと大切にすれば気が済むんだ!]

[配信見ただけで友達になれるってマ?]

[レオ君が友達第一号という奇跡。このために俺はボッチだった]

 

 コメント欄も落ち着いてきたことで、レオは早速今日のために考えてきた企画を始めることにした。

 

「さて、事前に音声データの方を募集してるから何をやるか大体予想はついているだろうけど、今日はこれをやっていきます!」

 

 レオはそう言うと、林檎に教えてもらいながら作成した画像を表示した。

 表示された画像にはポップな書体で〝その声は我が友李徴子ではないかコンテスト〟という文字が書かれていた。

 

「最優秀袁傪は誰だ!? その声は我が友李徴子ではないかコンテスト、開幕します!」

 

[もう草]

[予想できるわけないだろwww]

[相変わらずアクセル全開だなぁ]

 

 表示された画像に、袁傪達は予想を超えてくるレオの企画に笑いを堪えられなかった。

 

「ちなみに今回の企画、どの音声を流すかはマネさんに選んできてもらいました。そのため、みんなの送ってくれた音声を聞くのが今から楽しみです」

 

 レオ自身もわくわくしながら、飯田が編集してくれた音声データをクリックすると、渋い男性の声が流れた。

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

「おっ、一発目から良い声の人が来ましたね」

 

[本職の朗読の人みたいな声だ]

[こんなイケおじがレオ君の配信見てると思うと笑う]

[ライバーやってたら人気出そう]

 

「確かにこれはイケおじ枠でデビューとかありですよね……応募した方ライバーに興味ありませんか?」

 

[いきなりスカウトしてて草]

[袁傪をライバーにスカウトする李徴]

 

[興味あるので次にライバー募集してたら応募してみます!]

 

[本人いて草]

 

「もしデビュー出来たら一緒に配信できる日を楽しみにしていますね! これはいきなり高得点ですよ。点数は……97点!」

 

[ハードル爆上がりwww]

[どうして最初にこの音声を選んだんだマネさん]

「さて、どんどん行きましょう。次はこの方!」

 

 レオは先程のイケおじ袁傪が次のライバー応募に申し込むことを楽しみにしながら、次の音声データを再生した。

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

「今度は女性の方ですね」

[かわいい]

[舌足らずな感じがいいな]

[こんな可愛い袁傪もいたんだな]

 

「大変可愛らしいですね。ただちょっとあざといかなーって感じがするので、89点!」

 

[意外と厳しい採点]

[思ったよりきちんと採点してて草]

 

「あざとすぎるのは、アイドル時代のときに共演者に多かったから苦手なんですよね。ささ、次行きましょう」

 

 夢美のあざとい声は嫌いじゃないんだけど、と心の中で独り言ちると、レオは次の音声を再生した。

 

『あ゛、あ゛あ゛……その声は、ふひひっ……我が友、李徴子ではないかぁ?』

 

[限界オタクwww]

[しかも女性やん]

[また凄いのがきたな]

 

「何か夢美みたいな限界具合ですね。うん、いいですね。98点!」

 

[採点基準急にガバガバになったwww]

[嫁の面影を感じた瞬間採点がバグるライオン]

[てぇてぇ……のか?]

 

 それからしばらく袁傪達から届いた音声を流しては点数をつけていたレオだったが――

 

『ふはははははっ! その声は我が盟友、李徴子ではないか?』

 

「はえ……?」

 

[レギュレーションガン無視なのが来てワロタ]

[ちょっと待てこの声……]

[魔王様!?]

 

 自分の良く知る人間の声が聞こえてきたことで、間抜けな声を零した。

 

「ちょっ、何してるんですかサタンさん!?」

 

[まさかの応募で草]

[採点はどうなるんだ]

 

「いや、レギュレーション守ってないんで0点ですけど……」

 

[辛辣で草]

[残当なんだよなぁ]

 

「それでもサタンさん。わざわざ応募してくれてありがとうございます! 特別賞受賞ということでどうかご勘弁を!」

 

 レオとしてはわざわざ企画に参加してくれたこと自体は嬉しいが、同業者を贔屓して袁傪達を蔑ろにはしたくなかったのだ。

 嬉しさを噛み締めながら次のデータを再生しようとしたとき、ファイル名に注意書きが含まれていたことでレオは手を止めた。

 

「次の音声データ、ファイル名に音量注意って書いてあるんだけど……」

 

[あ(察し)]

[まさか……!]

[お前ら、急いで音量を下げろ! 鼓膜がなくなっても知らんぞ!]

 

 案の定、再生した途端に耳を劈くような大声が轟いた。

 

 

 

 

『その声はぁぁぁ! 我が友ぉぉぉ! 李徴子ではないかぁぁぁ!?』

 

 

 

 

[うるせぇwwwww]

[やっぱり友ちんか!w]

[予測可能回避不可能]

[最小ボリュームでこの声量とかどうなってんだwww]

 

「うぅ……友世さん、ありがとうございます。声量で言えば優勝間違いなしですね」

 

[ダメージ受けてるw]

[唐突な音量テロ]

 

 まさかこの企画をするにあたってアドバイスをくれた友世まで参加しているとは思っていなかったレオは、恐る恐る次の音声を再生した。

 

『ホントにホントにホン――』

 

 明らかにおかしな音声が再生されたことでレオはいったん再生を止めた。

 

「スゥッ――――…………」

 

[もはや山月記要素の欠片もないの来てて草]

[バーチャル四天王に目をつけられたライオン]

[畜生イルカwww]

 

 次に音声を送ってきたのはイルカだった。しかも、音声はカラオケ企画でレオが100点をとったあの曲だった。

 

「も、もう一回。今度はちゃんと聞こう……」

 

『ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪』

 

「ただのサファリパークじゃん! イルカさん何してるんですか! 0点ですよ!」

 

[レギュレーションどこいった]

[これは酷いwww]

[この前のカラオケ大会で味を占めたなwww]

[バーチャル四天王に容赦なく0点を突きつけていくスタイル]

 

 本当にサビの部分を歌っただけの音声データにさすがのレオも困惑を隠しきれなかった。そして、レオは今まで音声データを送ってきたメンバーから最後に誰が送ってきているか予想ができていた。

 

「これもしかして最後、七色さんの流れ?」

 

[和音ちゃんに期待]

[さすがに和音ちゃんはまともなの送ってくるだろ]

[この企画に参加してる時点でまともじゃないだろ……]

 

 緊張で震える手で音声データを再生すると、壮大なBGMが流れ出して、力強い歌声が聞こえてきた。

 

『ah~その声は~♪ 我が友~♪ 李徴子~ではないか~LaLaLa~♪』

 

「何してんの七色さん!?」

 

[オリジナルソングにしやがったwww]

[これは予想外www]

[作曲までするとは恐れ入った]

[和音ちゃんがこんなにネタに全力なの初めて見た]

 

「七色さん、とても素敵な歌声ありがとうございました。何か悪い影響を与えた気がして罪悪感が……」

 

[これは間違いなくガチライオンのせい]

[他企業Vをにじライブに染めるなw]

[あーあ、これは責任取らないといけませんねぇ]

 

 

[板東イルカ:登録者数10万人おめでとうございます! ¥10,000円]

 

[但野友世:登録者数10万人おめでと!!! ¥10,000円]

 

[七色和音:登録者数10万人おめでとうございます! ¥10,000円]

 

[サタン・ルシファナ:登録者数10万人はめでたいな! ¥10,000円]

 

 

[カラオケ組が一斉に赤スパ送ってきたwww]

[唐突に他企業のVとコラボするな]

[カラオケ組てぇてぇ]

 

 和音の音声が流れ終わったところで、以前カラオケ企画でコラボしたVtuber達が一斉にスーパーチャットを送ってきた。

 実はこれ、レオから相談を受けていた友世がマネージャーを通して、イルカ、サタン、和音と連絡を取り合って企画したレオへのサプライズだったのだ。

 飯田もこの話を二つ返事で了承して音声データの編集を引き受けたのだった。

 そのことを察すると、レオは目頭を押さえ、改めて礼を述べた。

 

「……みなさん、本当にありがとうございます。この音声データは宝物にしますね」

 

[レオ君泣きそうじゃん]

[まさか他企業Vにここまで愛されるとはなぁ]

[切り抜き不可避]

 

 改めてこの縁を大事にしていくことを決めたレオは〝その声は我が友李徴子ではないかコンテスト〟の優勝者を発表した。

 

「えー、それでは優勝者を発表したいと思います。優勝者は限界化をしながらも送ってくださった〝雌袁傪(28)〟さんです!」

 

[おめでとう!]

 

[やったぁぁぁぁぁ!]

 

[よう雌袁傪ネキ]

[これは嬉しいだろうな]

 

「では、最後に山月記の朗読をして終わりたいと思います」

 

[さらっと、とんでもないこと言っててワロタ]

[ナチュラルに次の企画始めるなwww]

 

 レオは軽く咳払いをすると、静かに山月記を朗読し始めた。

 

「隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年――――」

 

[約束された勝利のイケボ]

[普通に朗読パート動画で出してほしい]

[永遠に聞いてられる]

 

 そして、レオは詰まることなく山月記を読み進めていくと、有名な一文の箇所で朗読用の音声データを流した。

 

「その声に袁傪は聞き憶えがあった。驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ」

 

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ふひっ……その声は、デュフッ……我が友、李徴子ではないかぁ?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ふはははははっ! その声は我が盟友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声はぁぁぁ! 我が友ぉぉぉ! 李徴子ではないかぁぁぁ!?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『ah~その声は~♪ 我が友~♪ 李徴子~ではないか~LaLaLa~♪』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

『その声は、我が友、李徴子ではないか?』

 

[突然の袁傪大量発生で大草原]

[袁傪多すぎwww]

[どこからこんなに袁傪沸いたんだよwww]

[カオスwwwww]

[これはズルイ]

[異物混入で草]

[ダメだ、サファリパークで耐えられなかった]

 

 わざと微妙にタイミングをズラして流れる「その声は、我が友、李徴子ではないか?」という音声にコメント欄は爆笑の渦に飲み込まれた。

 かくいうレオも必死に笑いを堪えて朗読を続けていた。

 

「――二声三声咆哮したかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった」

 

[まるで何事もなかったかのように朗読し終わってて草]

[よく笑わないで最後まで朗読できたなwww]

 

「ふっ……くくくっ……あっはっはっは! やばいってこれ! マジで耐えるの大変だったよ!」

 

[レオ君が爆笑するの初めて聞いたw]

[レオ君の笑い声助かる]

[楽しそうで何よりだ]

 

 無事最後まで朗読を終えたレオは限界を迎えて爆笑した。その様子に袁傪達も喜ばしい様子だった。

 

「…………ふぅ、それではみなさん! 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました! 今後も歌と並行していろいろと企画をやっていくので、よろしくお願いします! それでは、おつ山月!」

 

[おつ山月]

[おつ山月]

[おつ山月]

 

 こうしてレオの10万人企画も夢美と同様大好評のまま終了した。

 




今回は山月記の本文の一部を抜粋しているので、出典を載せておきますね。

出典:青空文庫様

山月記 著者:中島敦

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