Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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てぇてぇ ( 'д'⊂彡☆))Д´) パーン シリアス



【三期生】池袋で遊ぼう その3

 電気屋を後にした三人はサンシャイン通りから地下道に入り、目的地へと向かっていた。

 地下からエスカレーターに乗ったレオと夢美は早速興奮したようにはしゃぎ始めた。

 

「す、すげぇ! モンボが並んでる!」

「うわぁ! エスカレーターの終わりマスボになってるよ!」

「楽しそうだねー」

 

 エスカレーターの上を見上げてみれば、そこには照明の周りにゲームで登場する代表的なアイテムの装飾がされていて、レオと夢美は目を輝かせる。

 そして、エスカレーターを降りて二階に到着した二人は、目の前に広がる光景に満面の笑みを浮かべた。

 

「「何これ天国じゃん!」」

 

 そこには大人気ゲームシリーズから派生してできたコンテンツにまつわるショップがいくつも立ち並んでいた。

 現実の地図に対応してモンスターが出現してそれらを捕まえるスマホゲームに、携帯ゲーム機と同じように長い歴史を持つ同シリーズのカードゲーム、さらには代表的なモンスターがポップなイラストで描かれた看板が特徴的なカフェ。

 そのうえ、モンスター達がたくさん並んでいる展示スペースまであった。

 

「ポケゴーのコーナーなんて、できてたの!?」

「あっちはポケカのゾーンもあるぞ!」

「こっちはカフェもあるよ!」

「てか、ポケセンでっか!」

「ねえ見て! あっちには御三家がいっぱいいるよ!」

「マジだ! 写真撮ろう写真!」

 

 レオと夢美はスマートフォンのカメラを片手にフロア中を駆け回る。

 

「……完全にポケセンでよく見るカップルだ、これ」

 

 そんな二人を見て、林檎は呆れたように苦笑した。

 

「そういえば、二人は最初の三匹いつも何選んでるのー?」

 

 レオ達の好きなモンスター育成ゲームでは、旅立つ前に博士から三匹のモンスターの中から一匹だけをもらえる。

 ほのおタイプ、みずタイプ、くさタイプの三属性から選べるこのモンスター達は、ファンの間から御三家と呼ばれているのだ。

 そんな御三家の展示がされているエリアで、林檎は二人に最初に選んだモンスターを聞いた。

 

「俺は毎回くさタイプ選んでるな」

「ほのおっぽいのに意外だねー」

「……ほのおは姉さんと被るから嫌だったんだよ」

「あはは、確かにお姉さんはほのおっぽいね」

 

 静香のパワフルな様子を思い出した夢美は、納得したように笑顔を浮かべた。

 

「由美子は?」

「んー、あたしは世代ごとにバラバラかな。最初にやったのがサファイアだったけど、選んだのはほのおタイプだったよ。そのあとが、みずタイプ、くさタイプって感じかな?」

「あれ、XYやってないの?」

「就職してからはアニメ見るくらいで、ゲーム自体全然やってなかったんだよね。あの頃はしんどかったなぁ……十四連勤、うぅ頭が……」

 

 嫌なことを思い出したのか、夢美は頭を押さえてうめき声をあげた。

 

「おっ、みがわりエルフも展示されてる」

「これわかる人にはわかるトラウマだよねー」

「そうか、結構楽しかったぞ?」

「やってる側だったかー……」

 

 人によってはネット対戦でのトラウマを彷彿とさせる展示を見て、レオは楽しそうに笑って当時の思い出に浸る。

 

「五世代のレート戦を思い出すなぁ。あの頃はきせきモンジャで砂パ無限に止めてたっけ……」

「感慨深そうに呟いてるけど、クソみたいなことしてたのはわかるわー」

「そうか? 受けルで相手詰ませて切断されたときとか、勝負はつかなくても最高に楽しかったぞ。こっちが負けない限りレートは落ちないからな」

「アイドル引退してストレス溜まってたんだろうなー……」

 

 当時の思い出を語るレオは、夢美とは別の方向で闇を感じさせ始めていた。

 

「一度も切断してないのに、切断厨晒しスレに晒されたこともあるぞ。あそこまで負けた奴が顔真っ赤にして報復しようとしてると思うと一周回って面白かったよ」

「えっ、何それ、めっちゃ面白いじゃん」

「サイト見れば、切断したかどうか表示でわかるのにバカな奴らだなーって思ってたよ」

「あっはは、メンタルやられちゃってるじゃん! うわー、見たかったなそれ!」

 

 元々人を煽ることが好きな林檎は、レオの話を聞いて楽しそうに笑った。

 

「ねえ、二人共。一緒に写真撮ろうよ」

「おっと、そうだったな」

 

 ブラックな思い出から立ち直った夢美は、静香に送るための三人の記念写真を撮ることを提案する。

 

「うーん、自撮りだと後ろがちゃんと入らない……」

 

 スマートフォンを自撮りモードにして写真を撮ろうとするが、なかなかうまく画角が決まらずに夢美は顔を顰める。

 そんな夢美にレオは当たり前のように提案した。

 

「人に頼めばいいだろ」

「人に……頼む……?」

「初めて火を発見した原始人みたいなのやめろ」

 

 見ず知らずの人間に話しかけるという行為が苦手な夢美に代わって、レオは近くを通りがかった人に写真を撮ってもらえるか聞きにいった。

 

「すみません、写真撮影をお願いしてもいいですか?」

「ええ、いいですよ」

 

 微笑みながらレオに写真撮影を頼まれた女性は、笑顔でレオの頼みを快諾した。

 

「いやー、コミュ力あるイケメンがいると助かるねー」

「別に写真頼むくらい普通だろ?」

「さらっと女の子に頼む辺りそこいらのオタクくんとはレベルが違うよー」

「写真……頼む……普通……ホァ?」

「おい、そこの霊長類。言語を忘れるな」

 

 三人は歴代の御三家がたくさん並んでいる場所へ移動し、林檎を挟むような形で並んで立った。

 

「じゃあ、撮りますよー」

 

 写真撮影を引き受けた女性は仲の良さそうな三人を微笑ましそうに見ながら、合図を出した。

 

「はい、チーズ!」

 

「にひっ」

「うわっ!」

「ちょっ!」

 

 シャッターを切る瞬間、林檎は悪戯っぽく笑うと、レオと夢美の腕を引いて二人の距離を一気に近づけた。

 レオと夢美はバランスを崩して顔がくっつくほどの至近距離で困惑した表情を浮かべ、二人の頭の上から顔を出した林檎は満面の笑みを浮かべていた。

 

「イエーイ、ドッキリ大成功ー」

「もう、優菜ちゃん! 危ないじゃん!」

「び、びっくりしたー……」

 

 単純にバランスを崩して危なかったことに対して林檎に怒っている夢美とは対照的に、夢美と少しだけ頬が触れたことでレオは照れたように明後日の方向を向いていた。

 

「あ、写真ありがとうございました!」

「………………はっ! い、いえ、こちらこそ大変いいものを――じゃなくて、気にしないでください」

 

 スマートフォンを構えたまま呆けた表情を浮かべていた女性は、慌てたようにレオにスマートフォンを返却した。

 

「それでは、俺達はこれで。本当にありがとうございました」

 

 女性に礼を告げると、レオは林檎に対して怒っている夢美を窘めながら専門店の方へと向かった。

 そんな仲の良さそうな三人の後姿を見ながら、写真撮影を行った女性は興奮した様子で呟いた。

 

「何あの三人……! てぇてぇ……てぇてぇよー……!」

 

 このときの様子を語った彼女のツウィッターでの呟きは、のちにポケ勢達の間でバズることになるのだが、それはまた別のお話。

 

 それから専門店に到着した三人は――というより、レオと夢美は今までで一番興奮したように声を上げた。

 

「すげぇポケセンだ! ゲームと同じだよこれ!」

「てんてんてけてん♪ って音、脳内再生余裕なんだが? えっ、ヤバないこれ?」

「あ、うるさくてすみません」

 

 あまりにもハイテンションで二人が声を上げているため、林檎は近くにいた女性スタッフへと謝罪した。

 

「いえ、構いませんよ。見ていて微笑ましいです」

 

 専門店の女性スタッフはニコニコしながら、子供のようにはしゃぐレオと夢美を眺めていた。

 

「ほら、二人共落ち着き――」

「見ろよ由美子! 初代全種のぬいぐるみあるぞ!」

「ひゃー、金銀世代のもあるじゃん!」

「はぁ……ダメだこりゃ」

 

 額に手を当ててため息をついた林檎は、二人が静かになる魔法の言葉を唱えた。

 

「あんまり騒ぐと身バレするよ?」

 

「「ごめんなさい、静かにします」」

 

 林檎の言葉を聞いた二人はピタリと静かになった。

 

「はしゃぐのもわかるけど、本当に気を付けなよ? 由美子はともかく拓哉は元有名人なんだから」

「はい、すみません……」

 

 まさか、一番常識のなさそうな林檎に注意されるとは思っていなかった二人はしゅんとした様子で反省していた。

 

「ていうか、よく拓哉は身バレしないよね」

「昔と印象が違いすぎるのと、俺の全盛期はもっと地声が高かったからな」

「そっか、活動時期は中学生から高校生までだったもんね」

「たぶん、同一人物の歌って言われて同じ曲を聞かされないとわからないと思うよ」

「でも、あの界隈のファンって結構どこからでも見つけてきそうじゃない?」

「その点は大丈夫だ。俺はアンチの方が多かったからな。当時のアンチは今頃違う奴のアンチやってるだろうし」

 

 ま、厄介なファンもいたけどな、とレオはしみじみと呟く。

 

「現場近くで出待ちしてるファンがいたけど、怒鳴りながら塩持ってきてぶちまけた記憶があるな。思い返してもあれは酷い……」

「それはもうファンじゃなくてただの迷惑な野次馬でしょ……いや、あんたも大概だけど」

「ホント、現役時代の拓哉は過激だねー……」

 

 それから三人は各々ぬいぐるみやスマホケースなどのグッズを購入した。

 

「拓哉は何買ったの?」

「五世代のときの相棒のぬいぐるみやスイッチとかだな」

「ヴェッ!? スイッチ買ったの!?」

「いや、このモデルのやつ見つけてついな……こんどピカブイも実況するか」

 

 レオはシリーズの中でも看板モンスターの印刷されたモデルのゲーム機を勢いのままに購入していた。そのうえ、このモデルのセットには、シリーズ初代のリメイク作品であるゲームソフトも付いてくるため、そのまま実況することにしたのだ。

 

「そういう由美子は何買ったんだ?」

「ん、あたしはぬいぐるみ系いっぱい買っちゃった。ほら」

「おお、ブイズのぬいぐるみ全部買ったのか。他にもアクセサリー系も結構買ったんだな」

 

 夢美は様々な属性のモンスターに進化するモンスターの進化系の全てのぬいぐるみを買っていた。

 二人共使った合計額は軽く三万円を超えていた。

 この二人、収益化からのスーパーチャットと広告収入のおかげでそこそこの収入を得ていたため、若干金銭感覚が麻痺しはじめていた。

 レオの場合はバイトと並行しているため、夢美の場合は会社員時代に使わずに貯め続けた貯金があるため、今すぐお金に困ることもなかったということも原因の一つである。

 

「……何かヤバいスイッチ入れちゃったかなー?」

 

 すっかり買い物を満喫してほくほく顔の二人を見て、林檎は呆れたように苦笑するのだった。

 





この三人が仲良くしているの好きすぎて話が進まない……。

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