ワンナイトにおいて二人人狼で初手身内切りはマジで悪手なので、おすすめはしません……。
仲間の人狼からの占い師を偽装した人狼宣言。
ワンナイト人狼という一回の処刑で終わるゲームにおいて、その行動は悪手でしかない。
人狼側は一人でも処刑されれば負けなのだ。
友世が信用されればレオが処刑され、レオが信用されれば友世が処刑される。はっきり言って、両者の首を絞める行為なのだ。
[まさかの初手身内切りで草]
[ワンナイトで切っちゃダメなんだよなぁ]
[レオ君かわいそすぎるwww]
「えっと、獅子島さんは人狼なんですか?」
「いえ、俺は怪盗ですよ。サタン君と交換して村人でした」
「えっ、僕ですか?」
[さすがの切り替えし]
[息をするように嘘つきやがったw]
[魔王様、素が出てて草]
レオは咄嗟にポーカーフェイスを作って嘘をついた。
「サタンさんは村人なんですか?」
「もちろん、吾輩は村人だ。レオの言っていることは正しいぞ」
サタンの引いた役職は吊人。いきなり疑われるような行動をすれば吊人だと疑われる可能性があるため、村人と言うしかなかった。
「となると、俺とサタン君視点では友世さんの言っていることは嘘になりますね。ちなみに、他に占い師はいますか?」
「わたくしが占い師でしたわ。和音さんを占って村人でしたわ」
「あ、はい。私、村人です」
レオは現時点である情報で、冷静に状況を整理する。
友世と自分が人狼。
サタンは自称村人だが、役職持の可能性はある。
イルカは本当に占い師で和音も村人の可能性が高い。
「今のところ噛み合ってないのは友世さんだけですね」
「えー! レオ君は人狼だったよ!」
「などと供述しており……」
[済ました顔をしているが、このライオン必死である]
[でも、これ人狼同士でバトってもキツイだろ]
[どうする気だ?]
レオはとにかく現状、怪盗に成りすますしかなかった。一番怖いのは怪盗に自分か友世の人狼を交換されていることだったからだ。
「何か動きが吊人っぽいんですよね。初手でいきなり占い師偽装して役職当てにいくってリスク高いですよ」
「友世さんは経験者。吊人があてずっぽうで適当な役職を言い当てて、疑いの目を向けるというセオリーも知っているはずですわ」
レオはとにかく流れを友世が吊人である方へと持っていきたかったのだ。友世が吊人だと思われれば、処刑される可能性は低くなるからだ。
「あの、但野さんと獅子島さんが人狼って可能性はないんですか?」
和音のした発言によって、レオと友世は心の中で動揺する。
「さすがにそれはないと思いますけど……だって――」
イルカは片方が処刑されれば負けの状況で、友世の動きがいかに高リスクかを和音に説明した。
「なるほど……ですが、経験者故にそれを逆手にとったということもあり得ますよね?」
「うーん……なくはないですが、現実的ではありませんわね。リスクが高すぎて経験者なら尚更やろうと思いませんもの」
[それをやってのけるのが友ちんなんだよなぁ]
[名探偵和音ちゃん、惜しくも真実にたどり着けず]
[友ちんとレオ君、絶対心臓バクバクだったろwww]
事実、レオと友世は気が気じゃなかった。
「サタン君は何か気になることとかあるかな?」
話し合いの時間も減ってきたため、レオは先程から考え込んでいるサタンへと話を振った。
「……レオは本当に吾輩と交換したのか?」
「ああ、交換したよ」
「ほう、随分と友世を吊人にしたがっていたようだが……本当は友世と交換したのではないか」
「そう思う根拠は?」
「本当に交換したのなら断定はしやすいだろう。それに交換先が村人と言うのは一番無難な嘘ではないか?」
やたらとレオが自分と交換したかを確認したがるサタン。
それを見たレオは理解した。サタンは吊人だと。
「確かにそうとも言えるね。でも、その理論だと、後から名乗り出て村人を当てたイルカさんも信用しづらくなっちゃうけど?」
「む、確かに」
「役職持ちは基本的に村人を主張するものだからね。まあ、七色さんは本当に村人だと思いますけど」
[レオ君の舌が回る回る]
[ここまでしゃべると人狼っぽいけどなw]
[これキツくね?]
レオはとにかく露骨に場を回した。そして、サタンに告げる。
「もしかしてサタン君、交換されると困る役職だったりする?」
「ちょっと待ってください! 獅子島さんはサタンさんと交換したのなら今の発言はおかしいですよね?」
[あ……]
[レオ君、勢い余ったか]
[痛恨のミス]
目ざとくレオの失言に和音が気づいた。
その指摘を受け、レオはかかったと内心ほくそ笑んだ。
「うふふっ、どうやら勝負あったようですわね。友世さんは吊人、彼女と交換したレオ君が現在の吊人、そして魔王様の様子から彼が人狼というところですわね」
「いえ、もしかしたらその逆って可能性もありますよ。友世さんが人狼でサタンさんが吊人ってパターンもありかと」
「しまった、その可能性がありましたわ!」
本来、同じ村人サイドであるイルカと和音。その二人は碌に連携をとれないままタイマーが切れようとしていた。
レオはタイマーが切れる瞬間、イルカの方をチラッと見た後に大きな声で言った。
「――俺は友世さんに投票しまーす!」
「「「「はぁ!?」」」」
[滅茶苦茶で草]
[そうか、どの道キツイなら村人サイドに連携させないように場を乗っ取ればいいのか]
[結構博打だぞそれwww]
[どの道魔王様に票が集中したら負けだし、しゃーない]
レオの目的はイルカと和音の票を一点に集中させないことだった。
吊人であるサタンが投票するとしたら、一番票が入らなそうな友世だ。
最後の発言の際、友世は声を上げながらも同じようにイルカの方を見ていたので、人狼の票を集中させるのは問題ない。
問題はイルカと和音の票をばらけさせること。それもレオとサタンそれぞれ一票ずつという形で、だ。
はっきり言ってしまえば、勝ち筋が少なすぎる。
いかに、友世の作戦が悪手かがわかるだろう。
幸運だったのは、イルカと和音の意見が常に割れていたことだ。
あとは二人の意見が一致しないことを祈るばかりである。
投票が終わり、イルカが投票結果を表示させる。処刑画面が表示されると、そこにはイルカが表示されていた。
「投票結果は――わたくし!?」
「「しゃあぁぁぁぁぁ!!!」」
[勝利の雄たけび過去一うるさくて草]
[あんな状況から勝ったら嬉しいだろうなw]
[マジでよく勝てたなこれ……]
恐る恐るイルカが処刑ボタンをタップすると〝Werewolf Team win〟の文字が表示された。
「ちょっと! 二人共人狼でしたの!?」
「獅子島さん、怪盗じゃなかったんですか!?」
「よくあの状況からここまで持っていけましたね!?」
[だから魔王様、素がwww]
[生放送だとちょくちょく出てるから問題なし]
[これは予想外過ぎるw]
イルカはサタンに、和音はレオに、サタンは友世に投票していた。もちろん、レオと友世はイルカに票を集中させたことで、処刑されるのはイルカという結果になったのであった。
勝敗も出たことで緊張の糸が切れたレオは力を抜いて床に倒れ込んだ。
「いや、マジでキツかったですよ……」
「あっははー! ごめんねー!」
「勘弁してくださいよ、もう……」
[レオ君配信始まったときよりゲンナリしてて草]
[誰か! レオ君に胃薬を!]
[どうしてぐう聖ライオンは不憫な目に合うのか]
それから、五人はどんどん試合を重ねていった。
基本的にレオは人狼を引くことが多かったが、持ち前の演技力で勝利数は多かった。
サタンはやたらと吊人を引いてしまい、うまく立ち回れない場面が目立った。
友世に至っては村人でも場を引っ掻き回すせいで、平和村で勝利の場面で全員を疑心暗鬼に陥らせた。
イルカは占い師や怪盗を引くことが多かったが、概ねうまく立ち回っていた。レオと人狼で組んだときは、過去最悪レベルに全員が手玉に取られた。
そして、最終的な勝利数のポイントでの優勝者は――
「あ、私の勝ちですね」
[まさかの和音ちゃん優勝w]
[村人多かったけど推理当たってる場面多かったからな]
[地道に勝ってるイメージだった]
和音だった。
和音は状況を整理する能力が高かったため、ことごとく人狼や吊人を当て、周囲を納得させる説明をしていた。人狼サイドではポンコツそのものだったのだが。
「というわけで、今回の突発的コラボはお開きになります! みなさん、急な告知だったのに来てくださりありがとうございました! おつ山月!」
「「「「おつ山月!」」」」
[おつ山月!]
[おつ山月!]
[おつ山月!]
[またコラボしてな]
[最高に面白かった]
[定期的に人狼やってほしい]
[次はバラギと白雪も混ぜて普通の人狼やろう]
こうしてカラオケ組の突発的なコラボは終了した。
食べ物や飲み物を片付けていると、レオはあることに気がついた。
「しまった! 白雪が俺のベッドで寝たままだ!」
「あちゃー……」
このまま全員が帰ると眠っている林檎と二人きりになってしまう。
レオの背中に冷や汗が流れる。
――夢美ならともかく、白雪はまずい。
どうしたものかと考え込んでいると、サタンと友世が笑顔を浮かべて言った。
「僕、今夜は泊まっていきますよ」
「アタシも泊まる! 大学のときのサークル活動で雑魚寝は慣れてるし、一人は女がいた方がいいっしょ!」
「二人共……! ありがとうございます!」
レオはサタンと友世に礼を述べると、帰り支度を始めているイルカと和音に向き合った。
「ごめんなさい。私は帰らないと……」
「申し訳ありませんが私もお暇させていただきます。レオ君、今日は無茶を言ってごめんなさい。とても楽しかったです」
「いえ、こちらこそありがとうございました。またコラボしましょう!」
「「もちろん!」」
イルカと和音をエントランスまで見送ると、レオは部屋に戻って最近買ったばかりのゲーム機の電源をつけた。
「さて、せっかくですし――スマブラでもやります?」
「おっ、いいですね!」
「負けないよ!」
挑発的な表情を浮かべるレオに対して、サタンと友世は好戦的な笑みを浮かべて答えたのであった。
林檎「( ˘ω˘ )スヤァ…」