「ん、もうこんな時間か……」
コントローラーを持ったまま寝落ちしたレオは、悲鳴を上げる体に鞭をうって起き上がった。
「はぁぁぁ!? 今のはズルいでしょ!」
「あれあれー? 天下のゲーマーである魔王様が言い訳ですかー?」
「くっ、もう一回!」
レオが目を覚ますと、いつの間にか目を覚ました林檎とサタンが対戦ゲームで火花を散らしていた。
「そうだ、朝食の支度しなきゃ……」
レオと同様に寝落ちしている友世にタオルケットをかけると、レオは寝ぼけている頭に喝を入れて朝食を作り始めた。
しばらくすると、レオの部屋のドアが開いて夢美がやってきた。
「ふあぁぁぁ……レオ、おはよぉ……」
「おっ、夢美。自分で起きれたのか」
「ううん……由紀に起こしてもらったぁ……」
呂律の回っていない夢美は挨拶をすると、サンダルを脱いでレオの部屋に上がった。さすがにレオ以外の人間がいるため、メイクも着替えもした状態である。
そんな寝ぼけ眼の夢美の後ろから、ひょっこりと由紀が顔を出す。
「お義兄ちゃん、おはよう!」
「おはよう、由紀ちゃん。昨日はよく眠れたか?」
「お姉ちゃんの部屋汚かったけど、大丈夫だった!」
「そ、そうか」
また散らかしたのか。
夢美の散らかすスピードに片付けのスピードが追い付いていないという事実に、レオは憂鬱な気分になった。
「ほら、二人共! 朝食の時間だ! 友世さんも起きてください!」
レオは憂鬱な気分を無理矢理かき消すように大きな声を出すと、友世を起こして林檎とサタンに手を止めるように促した。
それから目を覚ました夢美が朝食の配膳を手伝い、全員で朝食をとることになった。
「ねえ、気になってたんだけどさ……」
友世は聞いて良いものか迷いながらもレオに尋ねる。
「どうしてバラギちゃんがここに?」
「というか、昨日も自然に部屋に入ってきましたよね。どういうことなんですか?」
サタンも友世に便乗するように、気になっていたことを尋ねた。
「まさか、二人は本当に……?」
「違いますよ。ただの幼馴染ってだけです」
「そうそう、あたしとレオが付き合うなんて、ねぇ?」
「などと供述しており……」
むしゃむしゃとレオの作ったサラダを頬張りながら林檎が茶化す。
そこで追い打ちをかけるように由紀がレオへと尋ねた。
「でも、お義兄ちゃんはお姉ちゃんのこと好きでしょ?」
「ごふっ!?」
味噌汁を飲んでいたレオは由紀の発言で激しく咽た。
「ちょっと由紀! 変なこと言わないの! レオ、大丈夫?」
「悪い夢美……」
レオが味噌汁で咽たことで、夢美は由紀を注意しながら味噌汁が零れた箇所を拭いていた。
「くぅー! これだよこれ……!」
「興奮してないで手伝いましょうよ……」
レオと夢美のやり取りを見て口角を上げる林檎にサタンは呆れていた。
「というか、アタシが寝てる間に林檎ちゃんと魔王様は随分と仲良くなったね!」
「ま、強者を自称してる奴を叩きのめすのは楽しいからねー」
「うぐっ」
「あっははー! その顔やっぱ最高だわー!」
悔し気に顔を歪めるサタンに対して、ひたすら煽る林檎。穏やかな朝には似つかわしくない光景だが、レオは二人のやり取りにどこか微笑ましいものを感じていた。
「……配信上でリベンジマッチといきましょう!」
「ほ?」
「覚悟の準備をしておいてください! 近いうちにコラボの許可を取ります!」
「ぶふっ!?」
サタンの威勢のいい一言で、今度は紅茶を飲んでいた夢美が吹き出した。
「おい、夢美大丈夫か」
「くっ、くくく……何でっ、何でワザップジョルノ……!」
今度はレオが夢美の吹き出した箇所をタオルで拭いた。ちなみに、林檎も同様に吹き出したため、友世が林檎の周辺を拭いていた。
「案外、この二人って相性いいのか?」
レオは新たなコラボの可能性に思いを馳せる。
他企業のVtuberとのコラボは事務所やマネージャーを通して行うため、同じ事務所同士でのコラボほど頻繁には行えない。
しかし、お互いの事務所に利があるとなれば、定期的にコラボ配信を行える可能性があるのだ。
これからのライバーとしての自分の売り方にもっと勢いが欲しかったレオは、そのまま思考に没頭しようとしたが、由紀の放った一言で我に返ることとなった。
「こら! ごはんは行儀よく食べなきゃダメでしょ!」
「「「「「ごめんなさい……」」」」」
いい大人達が一斉に小学生に謝罪する。しかも全員が最低でも登録者数十万人を超えるVtuberという異様な光景。
後日、夢美が雑談枠でところどころぼかしながら話したこの出来事の切り抜き動画は、そこそこ伸びるのであった。
それから夢美と由紀が自室に戻り、のんびりしていた四人だったが、出かける準備を終えた夢美がレオの部屋にやってきた。
「レオ、ごめん。これから由紀を実家まで送ってくから今日はご飯いいや」
「了解。気をつけてな?」
「うん、ありがとね。ほら、由紀もみんなに挨拶して」
「みなさん、いろいろとご迷惑をおかけして申し訳ございません! これからもどうぞ姉をよろしくお願い致します!」
「「「「礼儀正しい……」」」」
深々とお辞儀をする由紀を見て、四人は感嘆のため息を漏らした。
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい」
夢美と由紀を見送るレオの背中を見て、林檎は両手を合わせて呟いた。
「完全に娘を送るビジネスウーマンと専業主夫だよねー……てぇてぇ……」
「僕も同じこと考えてました……てぇてぇ……」
「やっぱバラレオはてぇてぇだね!」
「しょうもないこと言ってないで、全員帰り支度してくださいよ……」
全員が帰った後、レオは久方ぶりに惰眠を貪ることにした。
レオが昼過ぎに起床すると、ちょうどスマートフォンが鳴った。相手はマネージャーである飯田だった。
『お疲れ様です。飯田です』
「お疲れ様です。どうしたんですか?」
『実はサタンさんと但野さんからコラボの打診がありまして。今夜コラボ配信できますか?』
飯田の用件は、友世やサタンのマネージャーから来たコラボ配信についての確認だった。
今朝決めたばかりの内容だったため、レオはあまりのスピード感に驚いていた。
「早っ、昨日も思いましたけど、その対応力どうなってるんですか?」
『あはは、獅子島さんにそう言っていただけるのは最高の誉め言葉ですね。基本的ににじライブではコラボの判断はマネージャーに一任されているんですよ。もちろん、諸星部長からは少しでも引っかかるところがあれば確認するように言われていますけどね』
「えっ、それ責任重大じゃないですか」
にじライブでは、放任主義というわけではないが、基本的にライバー同士のコラボは自由に行ってよい。事務所側から介入が必要だと感じた場合のみ、マネージャーからストップがかかるのだ。初期の頃のレオと夢美がいい例だろう。
さすがに、他企業のVtuberとコラボする際はある程度慎重にもなるが、基本的にはマネージャー個人で判断してよいことになっているのだ。
『ええ、ですから基本的に僕達マネージャー陣は諸星部長に確認をとるようにしてますが、昨日のは僕の判断でオッケーしちゃいました』
「かぐ――諸星さんはなんて?」
『ようやった、って褒められました。改めて思うんですけど、あの人があの〝竹取かぐや〟さんなんですよね……』
「とうとう社内で関西弁隠さなくなったんですね……」
レオは面接時に諸星――改めかぐやに対して〝竹取かぐや〟の魅力を二時間もノンストップで語った。まさか、本人の前で本人の魅力について二時間も語ったと思わなかったレオだったが、後から段々とその事実が精神を蝕んでいた。
夜な夜な枕に顔を埋めてうめき声を上げるレオのことを誰が責められようか。
「はぁ……とりあえず今夜の配信の件、承知しました。サタン君や友世さんにもよろしくお伝えください。あと、亀戸さんにも」
『ええ、かしこまりました。僕も今夜のコラボ配信楽しみにしてますよ。それでは失礼します』
「失礼します」
飯田との通話を切ると、レオは盛大にため息をついた。
「……伸びるのは嬉しいけど、癒しが欲しいなぁ」
疲れた様子で一人呟くと、レオはツウィッターでコラボの告知をしてそのままベッドに倒れ込んだ。
週末はいろいろ予定があるので、金土日は更新できるかわからないと思います。
DLC来るの早いよぉ……月曜からは通常通り毎日投稿に戻ります。