「こんゆみー! お前らぁぁぁ! 今日はまひるちゃんとのコラボだぞゴルァァァ! ホア! ホホ、ホアホァァァァ!」
『こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうもー! 白鳥まひるです!』
[5000兆年待ってた]
[安定の開幕清楚死亡]
[清楚以前に言語忘れてて草]
[何気に正式なコラボは初めてという]
[そもそも三期生は突発的なコラボが多すぎる件について]
[咄嗟のコラボでも当たり前のように始めるくらいには仲良いからな]
今日は夢美が待ちに待ったまひるとのコラボ配信の日だった。
何ヶ月も叶わなかったコラボだったが、ついにそれが叶う日がやってきたのだ。
当然、夢美は喜びのあまり狂喜乱舞していた。
『今日はよろしくね、バラちゃん!』
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! ま゛ひ゛る゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!」
[限界化してて草]
[推しとのコラボは吐血レベルなので当然]
[初配信のときに言われていた〝ゆみまひてぇてぇ〟が現実になるとはなぁ]
夢美とまひるのコラボは妖精を含め、多くの視聴者達が望んでいた。
この二人のコラボがなかなか実現しなかったのにはわけがある。
にじライブの中でも、まひるはかぐやに次いで二番目に登録者数の多いライバーだ。
現在、登録者数六十七万人のまひるは毎日欠かさず配信を行っており、企業案件も多くこなしている。まひるはにじライブの中でも、多忙なライバーなのだ。
とはいえ、まったくコラボすることができないわけではない。
イラストレーターが同じという繋がりで、林檎とはコラボしているうえに、同期である下桐朱雀やハンプ亭ダンプとはそれなりの頻度でコラボしている。
それなのに、夢美とまひるがなかなかコラボできなかった理由。それは夢美があまりにも流行りに乗らないライバーだったからだ。
まひるは基本的に流行っているゲームは、すぐに配信上でプレイしている。それに対して夢美は流行りが収まった頃や、世間一般的には〝バカゲー〟や〝クソゲー〟と呼ばれるゲームをプレイしたり、ソーシャルゲームのガチャ配信を行ったりと、絶妙に配信内容が噛み合わなかったのだ。
今回の大人気モンスター育成ゲームもバスタオル事件がなければ配信するつもりはなかったのだ。
レオが咄嗟に〝夢美が今度剣盾配信する予定〟と言ったことで、配信せざるを得なくなったのである。ある意味、それがきっかけでまひるとコラボできたため、怪我の功名と言えるだろう。
「というわけで、今日はレイド周回やっていきます!」
『まひるとバラちゃんだけだと二枠余るから、妖精や雛鳥のみんなも手伝ってね!』
「パスワードは配信画面の下に出すからよろしくぅ! 一回入ってくれた人はきちんと抜けて次の人に回すんだぞ!」
[おっ、争奪戦の始まりだな]
[絶対入ってやる]
[剣盾買えばよかった……]
このゲームではレイドバトルという四人で協力して強いボスを倒すというモードがあり、その報酬もおいしいため、SNSなどでも〝レイド周回募集〟という投稿も多い。
今回の夢美とまひるのコラボは、二人の視聴者達も参加する形でこのレイドバトルを周回するという内容だった。
ちなみに、このレイドバトルはフレンド登録していないと表示がされないため、あらかじめ概要欄に貼ってあるフレンドコードに申請を送ってもらうシステムとなっている。
二枠という競争率の高い枠を狙い、多くの視聴者達が画面の向こうで待機する。そんな中、夢美は楽し気にパスワード設定の宣言をするのであった。
「それでは、最初のパスワードをまひるちゃんどうぞ!」
『んーとねぇ、8600 1010でお願いします!』
[バラレオてぇてぇで草]
[数字で無理矢理表してきたwww]
[何で推しが自分のCPの沼に落ちてるんですかねぇ……]
無理矢理語呂合わせで〝バラレオてぇてぇ〟を表現したまひるに、夢美は前から疑問に思っていたことを聞くことにした。
「前から言おうと思ってたけど、まひるちゃんってあたし達のどこがそんなにてぇてぇの?」
『え?』
「え?」
[お前は何を言っているんだ]
[これは宇宙猫案件]
[無自覚とは……]
「いや、マジでただの幼馴染だからね? 恋愛対象じゃないって!」
『バラちゃん。寝言は寝て言おうね? あっ、でも寝言だったんだっけ……』
「いや、そうだけども!」
[設定遵守してて草]
[魔女の呪いにより長い眠りに着いてしまったが、夢を見ている間は体を動かすことができる。いつか自分を起こしに来てくれる王子様を待っている]
「おい、公式怪文書やめろや!」
[怪文書言うなwww]
[公式設定を怪文書と言った女]
[バラギは王子様を待つタイプではないからなw]
[レオ君、はよ起こしてあげて]
[あのときは清楚枠だと思ったんだけどなぁ]
[このときから既ににじライブな気配はしていた]
デビュー当時のことを思い出し、夢美は嫌な汗をかき始めた。
夢美の中で、一度見返しただけでも悶絶ものだった初配信のアーカイブは二度と見ないと心に決めていたのだ。彼女の思いとは裏腹に未だに初配信のアーカイブの再生数は伸び続けているのだが。
そんな中、夢美は自分のフレンド一覧の中に〝ユキ〟という名前のプレイヤーが表示されたことで冷や汗をかいた。
「あ、やべっ……」
『んー? どしたの?』
「や、ちょっと妹がプレイしてるみたいでさ」
[出た妹バラギ]
[妹ちゃん、ライバーデビューまだ?]
[姉妹コラボ待ってます]
夢美の妹である由紀は、夢美の雑談枠でそこそこの頻度で話題に上がるため、さりげなく人気だった。
以前、夢美の十万人記念配信で由紀の話を聞いたまひるは、思い出したように言った。
『そういえば、妹ちゃんって三期生のリスナーだっけ』
「初対面でも、カラオケ組の声は一発でわかるくらいだからね。にじライブだけじゃなくて、元々あたしの影響でガッツリVは見てるんだ」
『えっ、じゃあまひるの配信も!?』
「もちろん、英才教育してやったよ!」
[布教してて草]
[妹ちゃんV好きで姉がバラギなら鼻が高いだろうな]
[ゴミカス死ねの人を姉に持った妹ちゃんの心境やいかに]
由紀はにじライブのライバーは一通り見ているが、三期生以外にはまひるの放送を見ていることが多かった。
夢美のことを慕っている由紀にとって、まひるの配信は共通の話題という面でも視聴しない選択肢は存在していなかった。
『ゲームとかも一緒にやるの?』
「実家に帰ったときはよくやってるよ。最近は両親に頼んでオンラインもやらせてもらえるようになったみたい」
由紀の家出事件以来、彼女の両親は夢美と一緒に遊べなくて寂しくないように、由紀のゲームアカウントを定額のオンラインサービスに加入させていた。
こうして毎日のように夢美とゲームで遊べるようになった由紀は、以前よりも笑顔が増えたのであった。
『……何か仲良さそうで羨ましいなぁ』
「別にまひるちゃんも姉弟いるなら遊べばいいと思うよ? まひるちゃんと一緒に遊べて嫌な人なんていないだろうし」
『でも、まひるって基本ゲーム下手だから、みんなイライラしちゃうんだよねぇ』
[そういえば、初期の頃は指示厨沸いてたな]
[今でも結構いるぞ]
[初期に比べればかなり落ち着いた方ではある]
まひるはゲームを基本的に初見でプレイして、大幅に回り道してゲームを進めることが多い。
そのため、察しの悪い彼女のプレイに苛立つ視聴者達も大勢おり、当初は〝その選択肢はダメなのわかるでしょ〟〝何でわからないの?〟〝こっちのルートじゃないと効率悪いよ〟などと指示や批判のコメントが多く書き込まれていた。
そんなまひるの配信も、最近ではそれが彼女の持ち味として浸透したこともあって、初めて見た視聴者達以外は基本的に、頓珍漢な行動をするまひるの様子を温かく見守っていた。
「いやいや、その後の成長はエグイって。前に〝にじライブスマブラ大会〟で優勝してたじゃん」
『うーん、パターンやコンボとかが覚えられて、指さばきが生かせればワンチャンあるんだけどねぇ』
[まひるちゃんの弟に生まれたかった]
[来世では弟になれるように今のうちに徳を積んでおくか……]
[一人っ子かつボッチだった俺は……]
[通信進化……うっ、頭が……]
[や め ろ]
お互いに姉弟のいる夢美とまひるは家族の話題で盛り上がりながらも淡々とレイドバトルを周回していくのであった。