にじライブ剣盾杯の開催当日。
レオと夢美はいつものように二人で朝食をとっていた。
レオの作った味噌汁を飲み干すと、夢美は重いため息をついた。
「はぁ……今日の夜か」
「どうしたんだよ、ため息なんてついて」
「だってさー……結局対戦とかよくわかんなかったし」
夢美はストーリーをクリアするだけで、インターネット対戦は今までまったくやったことがなかった。
相性の把握すら怪しいのに、モンスターごとの対策や傾向などチンプンカンプンなのである。
案の定、配信では妖精達のラジコン状態で、慌てふためく始末。気合の入っているにじライブの社員達や、一番わくわくしているであろうレオに悪いから黙っていたが、本当のところはあまりノリ気ではなかったのだ。
「エンジョイ勢には敷居は高いよな」
「それに一回戦の相手レオじゃん! 勝てるわけないでしょ!」
「何か悪いな……」
レオとしても優勝は狙いたかったため、夢美が相手でも手を抜くつもりはなかった。
「別に好きに戦えばいいと思うぞ。夢美は夢美らしくやりたいようにやればいいさ」
「あたしらしく、か……なるほど」
レオの励ましの言葉にどこか納得したように頷くと、夢美は笑顔を浮かべた。
「ありがと。何か吹っ切れた」
朗らかに笑う夢美を見てレオは思う。
やっぱり夢美は笑っているのが一番だ、と。
それから剣盾杯の開催時間になるまでレオはパーティの調整を繰り返した。
にじライブ剣盾杯はスタジオ収録ではなくオンラインで行われる。これは全ライバー参加のイベントのため、スケジュール調整が困難だったためだ。
時刻は午後八時。
多くの視聴者達は、この時間に配信を見れるように時間を調整していた。
ある者は有給を使って早めに会社を退勤し、ある者は経営している店を閉店にし、ある者は寝過ごさないようにアラームをかけ、ある者はそのままパソコンの画面を凝視していた。
そして、今にじライブ所属の全ライバーの視聴者達待望のにじライブ剣盾杯が開催された。
[きちゃ!]
[このために今日まで俺は生きてきた!]
[死ぬほど待ってた]
視聴者はライブストリームが開始されたことで大いに盛り上がり始める。そこで、その盛り上がりに拍車をかける〝ピコーン!〟という音が鳴った。
『ねぇ、まだまだまだ急いで♪ 出かける準備はできたかい♪』
[!?]
[レオ君!?]
[えっ、何これOP!?]
レオが今回のにじライブ剣盾杯のオープニングを歌い始めたことで、コメント欄が一気に〝!?〟で埋め尽くされる。
しかし、驚きはそれだけでは済まされなかった。
『たとえ火の中、水の中~♪』
[バンチョーも歌ってるの!?]
[まさかの初コラボじゃん!]
[レオ君おめでとう!]
[バンチョーの歌唱力もエグイ]
[イラストがエモイ……]
かぐやが次に歌いだしたことで、以前からレオがかぐやを好きだということを把握している袁傪達がさらに盛り上がる。
表示されるボールマークの付いた帽子を被ったレオとかぐやのイラストにも視聴者達は釘付けだ。これはまひるが依頼して描いてもらったイラストを、彼女の編集技術で動画にしたものである。そのクオリティは言うまでもないほどに高かった。
『いち!』
『バトルをしたなら~……に!』
『笑うか泣いたって~♪』
『『3で~♪ 仲間になろうよ~♪』』
[試合始まる前に歌唱力で殴るのやめろ]
[歌唱力の暴力]
[どちらかというと歌唱力と暴力]
[草]
にじライブでも随一の歌唱力を持つレオとかぐやがオープニングを歌ったことで、まだ本編が始まっていないのにも関わらず視聴者達の盛り上がりはピークに達した。
そして、そのまま曲はラストへと差し掛かる。
『『キミにきめた!』』
[8888888]
[にじライブの歌唱力お化けコンビ爆誕]
[これ単品で動画化希望!]
アウトロが終わり、曲が完全に流れ終わった瞬間、画面には四人のライバーとゲストの姿が映し出された。
「というわけで始まりました! にじライブ剣盾杯! オープニングは竹取かぐやと獅子島レオで〝1・2・3〟でした!」
『うむ、最高のクオリティだったな!』
『イェェェェェイ! 盛り上がってるかお前らぁぁぁぁぁ!』
『盛り上がってるよねぇぇぇ!?』
『盛り上がってるに決まってますよねぇぇぇ!?』
[あれ、魔王様!?]
[一人にじライブじゃない奴混ざってて草]
[馴染み方が異常で笑う]
今回のにじライブ剣盾杯の開催にあたって、解説役としてサタンがゲストとして呼ばれていた。これは視聴者へのサプライズのため直前まで伏せられていた。
彼の出演条件として、主催者であるまひるが出演する際は出ないということが条件ではあったが、まひるはそれでもサタンに出来るだけ出演してもらいたかったのだ。
「みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!」
『こんゆみー! 茨木夢美です!』
『みんな、おはしゅっしゅー! 下桐朱雀ですゅ!』
『こんばんないたー、どうも名板赤哉です』
『そして、このAブロックの司会に呼ばれた特別ゲスト……サタン・ルシファナだ! 特別に今回は降臨してやったぞ! 感謝するがいい!』
[相変わらずしゅっしゅのクソザコ滑舌]
[逆に発音難しいレベル]
[あかやんキタ――――!]
[バラレオしょっぱなから同じブロックかよw]
[魔王様すっかりにじライブに馴染んだな]
[おいたわしや魔王様……]
[憐れまれてて草]
レオと夢美はともかく、赤哉と朱雀がこの二人に加えて他企業のVtuberであるサタンと一緒にいる光景は滅多に見れないため、珍しい画面の並びに視聴者は大いに沸いていた。
『いやぁ、お二人の歌最高でしたね。かぐやさんと獅子島君、声の相性いいんじゃないですか?』
『相性で言えばバラギっちには負けるけどねぇ』
『あはは、それほどでもー』
「本当にそれほどでもないんだけどなぁ」
[はい、宇宙猫]
[そうやってすぐ意味わかんないこと言いだす]
[レオ君、ダウト!]
『さて、今回のルールを説明しておこう。ルールはランクマッチの今シーズンと同じルールで行ってもらう。詳細としては――』
サタンが述べたルールを簡単にまとめると次の通りだ。
・同じどうぐを持たせることは禁止。
・伝説のモンスターなど一部のモンスターの使用禁止。
・同じモンスターの使用禁止。
・レベルはLv50に統一される。
『――さて、ルール説明も終わったことだし、さっそくAブロック一回戦を行っていくぞ。第一試合は獅子島レオと茨木夢美だ! あっ、二人共準備お願いします』
「はーい」
「了解です」
[マイクが音を拾っております魔王様]
[急に素を出すなwww]
[どんなに尊大に振舞っても滲み出るお人好し感]
サタンの素の声が聞こえたことで、視聴者達は画面の向こうで笑いながらレオと夢美の試合の開戦を待った。
それからレオと夢美の準備が整ったことで、サタンが第一試合開始の宣言をした。
『では、第一試合開始だ!』
【レオはゆみをくりだした!】
【ゆみはレオをくりだした!】
レオは色孵化厳選枠で出したツル状のモンスターを、夢美は交換枠でもらったトラのようでライオンのようなでんきタイプのモンスターを繰り出した。ちなみに、どちらも色違いである。
[お互いがお互いを繰り出してて草]
[しかもどっちも色違いwww]
[今頃白雪が切り抜いてるんだろうなw]
お互いにイメージが合うということで、つけたニックネームがまさか初手で被るとは思わず、観戦側であるサタン、赤哉、朱雀は腹が捩れるほどに笑っていた。
『くくくっ……さて、いきなりっ、面白いことに、なっているなっ……!』
[魔王様笑い堪えられてなくて草]
[これは笑う]
[あかやんとしゅっしゅ爆笑してしゃべれなくなってるwww]
レオは予想外の展開に混乱しつつも的確に技を選択する。
いきなり相手を眠らせて行動不能にする〝ねむりごな〟は配信映えしないため、相手の耐力を奪う補助技である〝やどりぎのタネ〟をレオは選択した。
対する夢美は――
【レオのメロメロこうげき!】
【ゆみはメロメロになった!】
【ゆみはレオにメロメロだ!】
【ゆみはメロメロでわざがだせなかった!】
「はぁ!? メロメロ!?」
『これがあたしの戦術じゃゴルァァァ!』
[一試合目から伝説を作るな]
[お互いの分身使っていちゃついてるだけwww]
[てぇてぇは突然にやってくる]
夢美が選択した〝メロメロ〟は性別が違うモンスターを50%の確率で行動不能にする技である。完全に運任せだが、これも立派な戦術の一つである。
【ゆみはメロメロでわざがだせなかった!】
【ゆみはメロメロでわざがだせなかった!】
「おい、いつまで俺にメロメロになってんだよ!」
『ねえ! あたしが固すぎて突破できないんだけど!?』
『これは一試合目から大変なことになっているな……』
『ねえ! 笑いすぎてあちし、お腹痛いんだけど!』
『さすがはバラレオ。こんなてぇてぇ見たことないですよ』
[神 回 確 定]
[二人の心境が知りたい]
[バラギの方はダイマ枯らされて草]
[きせきモジャ固すぎだろ……]
動けない耐久型と微妙に火力の足りないアタッカー同士の戦いは、一向に進まなかった。
夢美の使用しているモンスターのとくせいが異性相手だと攻撃の下がる〝とうそうしん〟ということも影響しているだろう。
「仕方ないな……交代だ!」
レオは〝ゆみ〟を引っ込めてモンスターを入れ替えると、カバがモチーフのモンスターを繰り出した。
「ステロ撒いてあくび連打で流すか」
レオは交換するたびにダメージを受ける〝ステルスロック〟を撒いた後に、一ターン後にねむり状態になる〝あくび〟を選択した。
これをやられると交換を余儀なくされるうえに、交換のたびに定数ダメージが入ってしまうのだ。
『あぁぁぁ!? あくび連打はやめろォ!』
インターネット対戦でさんざん同じ目にあっていた夢美は、容赦のないレオの戦術に悲鳴のような声を上げた。
「さて、いい感じに削れてきたし――エースの登場といくか!」
【レオはバンチョーをくりだした!】
レオは今作の最初の三匹の一匹の最終進化系であるウサギがモチーフの炎タイプのモンスターを繰り出した。
このモンスターは対戦環境では使用率一位を誇る破格の強さを持つモンスターなのである。
『おっと、ここでレオはエース投入だな! バラギは既にダイマを使い切っているから防ぐことも厳しいだろうな』
『メロメロをうつ暇もないですしね』
『えー、バンチョーがレオっちにメロメロになるとこ見たかったのにぃ』
[試合中に浮気は草]
[いや、メロメロになってるだけだからただの修羅場だ]
[地獄絵図じゃないかw]
レオはモンスターが巨大化する〝ダイマックス〟を選択し、専用化した炎技を容赦なく放った。
「悪いな夢美! ダイマックスだぁぁぁ!」
『ぎゃぁぁぁ! やめ、やめろォ!』
結果、体力の削れた夢美の三匹は為す術もなく、倒れていった。
『試合終了! 勝者、獅子島レオ!』
「ありがとうございました!」
『ちくしょうガチで叩き潰しやがって……レオなんて嫌い!』
「えっ……」
[試合に負けたからって精神攻撃するなw]
[効いてて草]
[こうかはばつぐんだ!]
夢美の悔し紛れに放った言葉に、レオはショックを受けて固まる。
まさか、本気にするとは思わなかったため、夢美は慌てて自分の言葉を訂正した。
『ごめんごめん、嘘嘘! 次も頑張ってよ! 優勝しなきゃ許さないから!』
「あ、ああ、何だ良かった……わかった、絶対優勝するよ!」
『さて、てぇてぇ時間も終わりだ。次の対戦準備と行こうか!』
『うぃっす!』
『さて、頑張りましょうかね』
赤哉と朱雀は対戦準備を整えて試合を開始する。
結局、この後の試合では朱雀が何とか赤哉に勝利するが、レオの耐久型で疲弊させてエースで全抜きするという戦術の前に敗れることになるのであった。
今回の話でレオが初手カバルドンを出さなかったのは、色違いのモンジャラをどうしても初陣で出したかったからです。
お互いの手持ちは
レオ:モンジャラ カバルドン エースバーン
夢美:レントラー ニンフィア ブラッキー
でした!
ちなみに、文中の戦闘メッセージですが、片方の視点ではなく両方のゲーム画面を映しているイメージで書いております。