Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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今回の話である程度まひるの人となりはわかっていただけると思います。


【白鳥まひる】まひるがライバーになった日

 潤佳が実況者〝まっちゃ〟として活動をしてから三年が経とうとしていた。

 人気者になっていく〝ゆなっしー〟とは違い、潤佳は地道に活動を続けていた。

 高校卒業も近づいていた潤佳は迷っていた。

 就職が決まりはしたものの、自分のような鈍くさい人間がまともに社会で生きていけるのだろうか。そんな不安を潤佳は常に抱えていた。

 実況者活動は好きだが、食べていけるほどではない。

 最近はU-tubeで広告収入を得て生活するユーチューバーという職業が活発化しているが、自分の知名度で生活できるだけの広告費用を稼ぐのは難しい。

 そんなときだった。

 

『まっちゃ様

 

 はじめまして。突然のご連絡失礼致します。

 

 株式会社First labにじライブプロジェクト採用担当の内海と申します。

 

 弊社のにじライブプロジェクトは、多くのバーチャルライバーのプロデュースを行っております。現在当プロジェクトでは、バーチャルライバー二期生のメンバーを募集しております。

 

 まっちゃ様の実況者としてのご活躍ぶりは大変興味深く、独特のトークセンス、動画編集技術など、当プロジェクトのバーチャルライバーとして必要なものを兼ね備えていると感じております。

 

 いかがでしょうか。

 

 興味がございましたら、是非ご連絡ください。

 

 何卒宜しくお願い致します。』

 

 株式会社First labのにじライブプロジェクトからのメールがきた。

 にじライブといえば、最近3Dモデルが当たり前と思われていたVtuber業界でも斬新な2Dの動くイラストを主体としたVtuberを多く輩出しているVtuber事務所だ。

 竹取かぐやを始めとして、竜宮乙姫、狸山勝輝など、あまりVtuber界隈に詳しくない潤佳でも知っている名前がズラリと並んでいるのだ。

 高校一年生の頃から始めた実況者まっちゃとしての三年の人生。

 

 それを捨てることに迷いはなかった。

 

 今まで積み上げてきたものをバネに更に上へいく。その覚悟が潤佳にはあったのだ。

 潤佳はメールでの文章の返し方を必死にネットで調べ、にじライブからのスカウトを受けた。

 

 こうして松本潤佳は〝まっちゃ〟から〝白鳥まひる〟になったのであった。

 

 そして、とんとん拍子でデビューが決まり、打ち合わせ当日。

 打ち合わせ前に軽く朝食をとろうと思って手ごろなカフェに入ろうとしたが、気になる光景を見たまひるは足を止めた。

 カフェの前でヘルメットをかぶり、ツナギを着た女性が傘を差して立っていたのだ。

 ヘルメットにはテプラで【……子 O型】と名前血液型とが貼ってあったが、めくれているせいか名前の部分は確認することができなかった。

 天気が気になって上を見てみても雨は降っていない。

 代わりにビルの屋上から吊るされて降りてきているゴンドラを見つけた。

 

「ただいまガラス清掃中です!」

 

 作業員らしき女性の声を聞き、まひるは理解した。今はビルの清掃中で、作業員の女性はカフェを利用する人が上から落ちてくる汚水で濡れないように傘を差しているのだと。

 目を凝らしてみてみれば、ゴンドラの作業員は慣れた手つきでガラスを清掃道具らしきもので清掃している。

 純粋に凄いと思った。

 高所で作業する作業員も、通行人が濡れないように配慮する地上の作業員も、ただただすごいと思ったのだ。

 気が付けば、そんな気持ちが口から零れ出ていた。

 

「すごいですね」

「………………え?」

 

 まひるの言葉を聞いた女性作業員は、最初こそ自分に言ったのではないと思っていたが、まひるの視線が自分を向いていることで、困惑した表情を浮かべた。

 

「あ! ごめんなさい。いきなりこんなこと言われても困りますよね」

「い、いえ……」

 

 まひると女性従業員の間に気まずい空気が流れるが、それも一瞬のこと。

 まひるは気にすることなく、女性作業員へと話しかけた。

 

「それにしても、わざわざ通行人のために傘差すなんてすごいですね!」

「ま、マニュアル通りにやってるだけなので……」

「えっ、そんなマニュアルあるんだ! すごい!」

「あはは……ありがとうございます」

 

 すごいしか言わないまひるに困惑しつつも、美少女から褒められることは嫌ではなかったのか女性作業員は口元を緩めた。

 それから、まひるは女性作業員が仕事中だということに気が付いて頭を下げた。

 

「仕事中に邪魔しちゃってごめんなさい! 私はこれで!」

「……何か、見た目よりも子供っぽい子だったなー」

 

 女性作業員は、朝から良い物を見たような満足気な表情を浮かべて傘を握り直した。

 

「よし、今日も一日頑張ろっかな……!」

 

 そんな純粋な言葉が一人の作業員を元気づけていたことなど露知らず。

 まひるはカフェで食事を済ませ、にじライブがある株式会社First labの本社ビルへと向かった。

 打ち合わせには、今回同期としてデビューする〝ハンプ亭ダンプ〟と〝下桐朱雀〟が来ると聞いている。

 その他にも大勢のライバーが二期生としてデビューしているが、一期生が三人だったことを考えると、二期生が既に()()()()いるのはにじライブが勢いづいている証拠だった。

 

「こんにちは! おはようございます! 初めまして! 白鳥まひるです!」

 

 会議室に案内されたまひるは、既に到着していた同期らしき二人の人物へと元気に挨拶をした。

 

「やあ、まひるちゃん。俺はハンプ亭ダンプだ。よろしくね」

「あちしは下桐朱雀ですゅ! よろしくなぇ!」

 

 ハンプ亭ダンプと名乗った目の下のクマが目立つ青年と、下桐朱雀と名乗った舌足らずな口調で挨拶をする少女はまひるの登場に笑顔を浮かべた。

 イラストは手足の生えた卵なのに紳士的なハンプと、舌足らずなしゃべり方が目立つ朱雀。

 予想以上にキャラの濃い同期二人にまひるは心を躍らせた。

 

「あ、ちなみに俺は配信中はふざけたしゃべり方するからよろしくね」

「ん、どうして?」

 

 ハンプの謎の宣言にまひるが首を傾げていると、ハンプは苦笑しながら理由を説明する。

 

「……男性ライバーが女性ライバーとコラボすると、いろいろうるさい層がいるからね。手足の生えた卵でしゃべり方までふざけてれば一応自衛はできるかなって思ってね」

 

「あー、みゃんどくさいよねー」

 

 苦笑するハンプに同調するように、朱雀は活舌悪く面倒臭いと言う。まひるには二人が何を危惧しているかはよくわからなかった。

 

「ま、その分同期の二人とはガンガンコラボしていきたいからよろしくね?」

「うん、わかった!」

「よろしくなぇ!」

 

 それから顔合わせを兼ねた打ち合わせが終わると、ハンプと朱雀に別れを告げてまひるはトイレへと向かった。

 用を足してトイレから出ると、まひるは何か言い争っているような会話を聞いた。

 片方は小柄な女性社員、もう片方は採用の際に世話になった内海だった。

 

「何度も言ってるでしょう。もうコラボはしないわ。その方がお互いのためよ」

「何でや! 言わせたい奴には言わせとけばええやろ! あんたが気にすることは――」

「気にするに決まってるでしょ! 私はあなたみたいに神経が図太くないの! かっちゃんといい、あなたといい、みんな気にするな気にするなって……無茶言わないでよ!」

 

 そう言って走り去る内海を追いかけることもせず、小柄な女性はただただ茫然と立ち尽くしていた。

 

 普通ならば声をかけるのをためらうような場面。

 そんな状況でも、潤佳は躊躇わずに声をかけた。

 

「あのー……」

「誰や――あ、ああ、白鳥まひるさんでしたよね?」

 

 慌てて関西弁を引っ込めた小柄な女性社員だったが、まひるはそんなことは気にしていなかった。

 

「よしよし……泣かないで」

「……は?」

 

 初対面の人間の頭を撫でる。何でそんな非常識なことをするのか。そう思っていた小柄な女性社員は自分の足元が濡れていることに気がついて納得した。

 

「何、で………………ぐすっ…………う、うぅ……!」

 

 泣いていることを自覚した小柄な女性社員――かぐやは、そのまま堰を切ったように泣き出し、泣き止むまでまひるに頭を撫でられることになるのであった。

 

 これがのちにJKコンビと呼ばれるようになる竹取かぐやと白鳥まひるの出会いだった。

 




まひるは距離感がバグっているというかなんというか……ある意味、しゃべるタイプのコミュ障ですね。

過去編はこれでいったん締めます。
魔王様とのことは、彼の視点でしかわかりませんが、彼視点の過去話を出すのはもうちょっと先になる予定です。
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