Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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【実家なう】オンライン会議と衝撃の事実

 夢美のアカウントを使用したレオの音声メッセージには多数のリプライが送られた。

 そのほとんどが[その声は、我が友、李徴子ではないか?]というネタよりのものだった。

 その他にも、最近夢美が体調を崩して配信を休みがちだったこともあり〝バラギ妊娠説〟という噂が瞬く間に拡散してトレンド入りしていた。

 これに関しては、夢美が[誰が妊婦じゃい!]というツウィートをして妖精や袁傪達と絡んでうまくいなした。レオのことを一番知っているであろう夢美に[お前ら、レオが結婚前にゴムも使わずセックスするような男だと思ってるんか?]というオブラートゼロの投稿をされてしまえば、レオを普段から良く知る者達は納得せざるを得なかった。

 

 問題だったのは、近所に住んでいるとはいえ終電が迫って急いでいる夢美がレオの元へ寄ったという事実から、二人が同棲しているのではないかという噂が拡散されたことだった。

 

 これには、過呼吸になっていたマネージャー二人もさすがに冷静になった。

 レオ、夢美、飯田、四谷の四人はパソコンのオンライン通話サービスを利用して緊急会議を行っていた。

 レオは現在、夢美と共に実家にある夢美の部屋にいる。

 そのため、画面を繋げたマネージャー二人が尊さのあまり卒倒するなどのハプニングはあったが、状況が状況だったために四人はすぐに本題に入った。

 

『これは、いっそのこと二人が同じマンションに住んでいることを公表した方がいいと思います』

「うーん……やるとしても公式からの発表の方が良さそうですけどねぇ」

『事務所側の手違いってことにします?』

「何か露骨に言い訳してる感ない? 普通にライバー向けの物件選んだら部屋隣だったーって言えばいいんじゃない?」

 

『『そんな偶然、普通信じますか?』』

 

「「事実なんだよなぁ……」」

 

 普通ならばあり得ない出来事故、事実を言ったところで信じてはもらえない。

 

「それなら、私の我儘で隣の部屋に住んでもらってるってことにすればいいと思う」

 

 そこで夢美は、〝自分がレオに隣の部屋に住んでくれるように頼んだ〟ということにすることを提案した。

 

「バンチョーも事実の中に真実を紛れ込ますことで信憑性が増すってよく言ってるじゃん。今回は信じられない事実を〝信じられるレベル〟に直せばいいんじゃないかなって」

『確かに夢美ちゃんの生活力が皆無なのは知れ渡ってるけど……』

「いいのか? それだと夢美が〝元アイドルの幼馴染に再会した途端言い寄った〟って言われる可能性があるぞ」

「そのくらいのボヤなら大丈夫だよ。あたしのキャラならむしろ解釈一致まであるし」

 

 夢美がレオに自然に甘えてしまう癖があるのは既に周知の事実だ。

 アイドル売りを欠片もしていない夢美とレオが同棲していたところで、炎上したとしても大した被害は出ないのだ。そもそも、妖精や袁傪達に毎日のように[とっとと結婚しろ!]と言われているくらいである。喜ぶ者の方が多いのは明らかだ。

 

『それでも、ここぞとばかりに燃やしにかかる連中はいるでしょうね』

『ホント、杞憂民にしろ、アンチにしろ、厄介コーンにしろ、余計なことしかしないんだから……』

「まあ、俺達についてたガチ恋勢はあの炎上騒動で消えましたけどね」

「あたし達のリスナーって、ほとんどカプ厨だもんね」

 

 夢美の炎上した収益化配信以前では、それぞれ過激なファンが付いていた。

 そういったファンはお金をつぎ込む代わりに独占欲が強く、周囲に迷惑をかける者が多い。

 ある意味、その手の人間達が消えたのは怪我の功名と言えるだろう。

 

『お二人には今まで積み上げてきた〝てぇてぇ〟の実績があります。これを燃やそうとしたところで火の手は広がりません』

『というか、むしろ怖いのは三期生のリスナーが暴走しないかどうかですよね』

 

「「あー……」」

 

 以前から卒業前の林檎を除き、三期生の炎上理由は理不尽なものが多かった。

 いい加減、三期生の視聴者達も腹に据えかねているところだった。

 

『砂漠のオアシスに油流し込んで放火してきた連中を攻撃したい気持ちはわかるけどねぇ』

『結局、そういった人達は炎上することも目的だったりしますからね』

 

 炎上マーケティング。

 炎上を意図的に起こし、注目を浴びることで知名度を上げるマーケティング方法である。

 もちろん、マイナスイメージが先行するため、意図的にこれを行って成功することは難しい。結局のところ長い目で見ればマイナスイメージはない方がいいからである。

 ただし、そのマイナスイメージを払拭できるようなことが出来るのならば話は別だ。

 林檎の配信がこれに当たる。

 林檎はいわゆる〝プチ炎上〟と呼ばれる小規模の炎上を定期的に起こすことで注目を集め、その後の行動でマイナスイメージを払拭していた。

 炎上した、と話題にこそなるものの、事実を確認しに来た人間が〝何だ大したことないじゃないか〟と思い、林檎の配信の面白さに目が行く。これが林檎が大幅に伸びている理由でもあった。

 最近の林檎は案件配信なども増えてきたため、ラインギリギリを攻めるような発言は控えているが、それでも隙あらば毒のある言葉を吐いているため、彼女特有のキレ味は落ちていなかった。

 

『とりあえず、こちらから詳しい事情は公表しておきますので、今日はゆっくり休んでください』

「わかりました。お手数をおかけしてすみませんでした」

『いいんですよ! こんなてぇてぇの補給が出来るなんてマネージャー冥利に尽きますから!』

『そうそう! バラレオてぇてぇ!』

「こいつら……」

「厄介カプ厨だぁ……」

 

 興奮するマネージャー陣に対して、レオと夢美は呆れたようにため息をついた。

 オンライン会議を終了すると、夢美はレオに告げる。

 

「拓哉、お風呂先に入っちゃって。駅までダッシュして汗かいたでしょ?」

「悪いな」

 

 真夏に全力疾走したこともあり、レオの服は汗で濡れていた。

 由美子の父である正紀はレオの存在に驚きはしたものの、複雑な表情で自身のスウェットを貸し出した。あまり家に帰省しない娘が帰ってきたと思ったら男を連れてきたのだ。複雑にもなるだろう。

 レオが夢美の部屋を出て一階に下りると、そこには紅茶を飲んでくつろいでいる由美子の母、由里子がいた。

 

「あら拓哉君。ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます。由里子さん」

「うふふ、お義母さんって呼んでもいいのよ?」

「あ、あはは……」

 

 すっかり由里子に気に入られていたレオは曖昧な笑みを浮かべる。

 まるで昔から自分を知っているかのような由里子の反応に、レオは困惑していたのだ。

 

「まさか由美子が拓哉君を連れて帰省するなんて思ってもみなかったわ」

「その、本当にいろいろありまして……」

「わかってるわ。あの子かなり抜けてるところがあるから、そのフォローをしてくれたんでしょう」

 

 由里子は楽しそうに笑うと、感慨深そうに呟いた。

 

「それにしても久しぶりねぇ。最後に会ったのは五年生の保護者会のときだったかしら?」

「はえ?」

「あら、小学校のときだったから覚えてなかったかしら」

 

 間抜けな表情を浮かべるレオに、由里子は昔を懐かしみながら語る。

 

「学校でいじめられていた由美子にとって、拓哉君との時間は何よりも救いになっていたと思うの。家に帰っても由美子ったら拓哉君の話ばかりしてたのよ? 憎まれ口ばっかりだったけど、あの子が楽しそうにあなたの話をしていたのは今でも思い出せるわ。それで保護者会で学校に行ったときにお礼を言わなくちゃって思ってね。拓哉君に声を掛けたらあなたなんて言ったと思う?」

「えっ、いや……はえ?」

「うふふ……覚えてないみたいね。『森のお母さん。どうしたら森は笑ってくれますか?』って言ったのよ。それから、あの子の好きなものとか凄く真剣に聞いてきてね――」

 

 そこから先、由里子が何と言っていたのかをレオはよく覚えていない。頭が混乱してそれどころではなかったからだ。

 

「スゥッ――――――――……………………」

 

「あら、どうかしたの?」

「いえ、お風呂いただきます……」

 

 レオは放心状態でそれだけ言うと、由里子との会話を切り上げた。

 夢美の実家の風呂場でシャワーを浴びながら、レオはひたすら今までのことを整理していた。

 

「えっ、何? 夢美は中居由美子で、由美子は実は森由美子で、森は俺の初恋の人で、つまり由美子が森で、森が由美子で、由美子が森で、森が由美子で…………はえ?」

 

 思考が迷路のようにぐるぐると回る中、レオはようやくある事実に辿り着いた。

 

「待てよ、つまり俺は初恋の相手に初恋の思い出を語ってたってことか?」

 

 レオが夢美とにじライブ剣盾杯の打ち上げに行った際、レオは夢美に対して初恋の思い出を語っていた。

 

『別に大した話じゃない。俺がアイドルになったきっかけになった女子がいたんだよ。まあ、それが俺の初恋ってやつだ』

 

『その子、クラスで孤立してるみたいだったから、出来るだけ優しくしてあげようと思って話しかけたんだけど、めっちゃ無視されてさ。女の子にそんな反応されたの初めてだったもんだから、こっちも悔しくなっちゃってな。しばらくは付き纏ってたよ』

 

『ウサギの世話をしてるときのその子は笑顔で凄く楽しそうでさ。その頃の俺はウサギに負けたのか、って勝手にショック受けててな。今思えば、あの頃から無駄にプライド高かったよなー』

 

『気が付けば俺はいつもその子のことを考えてた。どうやったら笑ってもらえるのかって』

 

『テレビに出るくらいの人気アイドルになれば、さすがに振り向いてくれるかと思って』

 

 思い出そうとしなくても自然と蘇る自分の発言。

 思えば、夢美の様子がおかしくなり始めたのも、そのとき以降である。

 気が付けばレオは自分の手の甲に噛みついていた。ライオンのような叫び声をあげるのを我慢するためである。

 

「そりゃ避けられもするわ……マジかよ……」

 

 レオは湯船に浸かりながら途方にくれる。

 この後、どんな顔をして夢美に会えばいいのか。

 レオは押し寄せる羞恥心を自分の両頬を思いっきり叩くことで、無理矢理振り払った。

 

「うだうだ考えてても仕方ない。由美子はそれを乗り越えて俺と一緒にいてくれるんだ。俺が気まずくて離れるなんて冗談じゃない」

 

 せっかく()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ここで攻めねば男が廃る。

 

 レオは臆病な自尊心も、尊大な羞恥心も既に振り払う覚悟はできていた。

 




そういえば、まひるのライバーとしての見た目ですがモデルの方のイメージに引っ張られ過ぎたので、少々変更を加えることにしました。まあ、髪の色くらいですが……。

オレンジ→白

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