来宮美晴の(非)日常   作:斎草

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いつもより超短い小話的な話
『動かない』、来宮が誰とも付き合ってない世界線
破産した岸辺と来宮が再会する話




動け岸辺露伴

 

「そういえば露伴先生、美晴ちゃんとはその後どうですー?」

泉京香はアイスコーヒーを飲みながら目の前にいる己の担当である漫画家、岸辺露伴を見た。

「どうです、とは?」

岸辺露伴。16歳の時に漫画家デビューした、天才漫画家。27歳になった今も漫画を描き続け、今日は読切の打ち合わせをしていたところだった。

「言葉通りです〜。先生、破産しちゃったんでしょう?美晴ちゃんも解雇しちゃったのかな〜?って。あたし、あの子とまたお話してみたかったから〜、残念だなぁ〜って」

「"解雇"だァ〜?するわけないだろ」

露伴もアイスティーを一口飲み、オホン!と咳払いして京香を見る。

そう、岸辺露伴はつい最近、"破産"した。取材途中だった妖怪伝説のある山がリゾート計画で切り崩されそうになっていたところを露伴がその山と周辺の山々を買い取る事で阻止したのだが、その後山がとんでもない値崩れを起こして彼は山6つを抱え、見事なまでの破産の道を辿ったのだ。

「あいつ、大学卒業して僕んところにそのまま就職したくらいだぜ?僕から離れられるわけないんだよ」

「でも今文無しですよね?お給料どうしてるんです?というか美晴ちゃんって今どこに?一緒に住んでるんですか〜?」

ずずい、と迫る京香。その問いかけに露伴は心底寂しそうに、深く大きな溜息を吐きながらテーブルに頬杖をついた。

「出てったよ。破産してから連絡取ってないから、今どーしてんのか知らない」

岸辺露伴の給仕係にして保護者のような存在の来宮美晴。彼女がいながら破産したのは、固くキツく彼女が縛った財布の紐を眠っている間に露伴が解いたからだ。そして破産の事実を知るや、彼女はコツコツ自分で貯めていた多額の貯金を持って「露伴先生なんて知らないッ!」と出て行ってしまった。美晴を雇って実に7年。漫画と同じくらい大切な彼女がここまで激怒した事は初めてかもしれない。

「嫁に夜逃げされた気分だ」

「あらァ〜、娶る気満々だったんですね〜」

あの岸辺露伴が結婚を考えていたなんて。京香はなぜかおかしく感じてクスクス笑う。

 

「だ・れ・が!嫁ですって?」

そこに突如女の声が聞こえて2人してそちらを振り向くと——、

「み、美晴ーーッ!!」

「わぁ〜!美晴ちゃんお久しぶり〜!元気ぃ?」

そこには今し方噂をしていた人物である来宮美晴、その人が立っていた。

「京香さん、お久しぶりです。この通り元気でやってますよ」

ニコ、と美晴は京香に微笑みかけるが、次いで露伴に視線を転じればその目は既に冷たいものになっていて思わず「ヒッ」と彼は息を呑む。

「で、露伴先生。その後どうですか?」

「ンン…!康一くんのところにお世話になっているよ……」

だらだらと冷や汗が流れる心地になる。そんな露伴の様子を京香は意外なものを見るような目で見ていた。

(あの"オレ様"な露伴先生があんなになってる……美晴ちゃんには頭上がらないんだァ)

前に話した時もしっかり者な印象を受けた。そんな彼女に内緒で山を買って破産したのだから、露伴に対する態度がこうなってしまっても無理はないし同情の余地もない。

アイスコーヒーを一口、京香が空いている椅子を勧めると美晴はそこに腰掛ける。

「美晴ちゃんは今どこに住んでるの?」

「ああ……少しの間仗助くんの家にお世話になってたんですけど、つい最近アパートに引っ越して。今は一人暮らしです」

「へぇ〜、しっかりしてるぅ」

京香が感心しながらも露伴を見ている。露伴より4つ下の美晴ですらこうしているのに、この人ときたら。そんな表情をしていたので、露伴は更にバツが悪そうに萎縮する。

「……というか、なぜそのまま仗助の家にいなかったんだ?君らの仲ならそうしたってイイだろ」

居心地の悪そうな露伴だったが、ふとした疑問が喉元に引っ掛かって堪らず美晴に問い掛ける。美晴と仗助は気心の知れた仲だ。しかも仗助の母親とも仲が良かったはず。

すると彼女は呆れたように溜息をひとつ吐いてから、彼を見つめた。

「康一くんからもう露伴先生の事は聞いてたんですよ、実を言うと。いつまでも康一くんに迷惑掛けてないで、露伴先生もこっちにいらしてください。これ、渡そうと思ってずっと探してたんですよ?」

そんな事を言いながら美晴が何かを握った手を差し出してくるのを、露伴は疑問符を浮かべながら手を出して受け取る。その手の中にあったのは何処かの鍵で、それが何を意味するのか分かると彼は目を大きく見張った。

「あらあら!まぁまぁ!良かったじゃあないですか、露伴先生!」

事情を飲み込んだ京香がパチパチと拍手している。それを聞いて見張った目からじわじわと涙が溢れ出す。

「美晴…!好きだ!だから君が大好きなんだ!もう一生離すものかッ!!」

「ちょ、恥ずかしいからやめてください…!それにいろいろな誤解を招きますから、」

「誤解されたっていいさ!そうだ、籍を入れよう!!」

「バカじゃあないのッ!?勝手に大金使って文無しになる人と結婚したくありませんッ!!」

ヒッシィィと彼女にしがみつく露伴と、そんな彼を力任せに剥がそうとする美晴。その後も何やら2人で喧嘩のようなじゃれあいをしていたが、京香の目にはその何もかもが微笑ましく見えていつのまにかアイスコーヒーのグラスは氷だけになっていた。





来宮が誰とも付き合ってなかったら、岸辺の独擅場だろうなーと。
しかし来宮の場合、岸辺の事をよく知っている分絶対に求婚されても頑なにお断りしそうです。岸辺からの愛情が重い。
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