第二王女なので人生イージーモードだと思ってたら放逐された(笑) 作:山羊次郎
二話:これが私たちの担任だ!
風に吹き飛ばされた男は、そのまま重力に従い噴水へと落ちていった。
「……やり過ぎじゃない?」
「元はと言えば、ルミアが私を突き飛ばしたからでしょう!?」
「吹き飛ばしたのはシスティじゃん。それに、魔術は学院の外では使用禁止でしょ?」
私たちがそんな風に責任の擦り付け合いをしていると、噴水の中から、先ほどの男性が、ずぶ濡れの状態で、口に入ったカエルを吐き出しながら現れた。
「怪我はないかい? 急に飛び出したら危ないから気を付けた方がいいよ」
特に怒っていないと言った感じでそんな風に諭す男性。
そんな男性に、システィはジト目で睨み言う。
「急に飛び出してきたのはそっちだったような……」
「駄目だよ。システィだっていきなり魔術撃ったじゃない」
「あれはこいつがセクハラしてきたからだし、もとはと言えばあなたが付き飛ばしたからでしょうが⁉」
「エー、ナンノコトカ、ルミアワカンナーイ」
ジトッ、と睨んでくるシスティの視線を、顔を逸らして避ける私。
やがて根負けした私は、仕方ないということでため息をついて言った。
「ほら、取りあえず謝って。仕方ないから私も超特別に慈悲をもって少しだけ頭を下げてあげるから」
「なんでそんな恩着せがましいのよ。……先ほどはすみませんでした」
「ホントこの子がすみません」
私たちが謝罪をした……その瞬間、男はカッ、と目を見開き
「まぁ、仕方ないなぁ!」
「えっ」
「俺は少ししか悪くなくて、お前らに非があるのは確定的に明らかだけど」
こっち下手に出た途端、調子に乗り出す男。だが、流石にセクハラへの非は認めているようだ。
「そこまで言うなら超特別に許してやらんでも……あれ?」
しかし、私の姿を見た途端、停止した。
すると、目にも止まらぬスピードで、私のほっぺをむにーっと引っ張り、腰を撫で、スカートを若干めくり、最後に紐を引っ張った後、いきなり離した。
パチン、と。とてもいい音が鳴った。
「……えっ、いきなりなんですか?超慈悲深くて、学院でも天使と呼び声の高い私でも、流石に許しませんよ?具体的には、金貨十枚ほど請求しますよ?」
「天使って言うより、駄天使とかって言われてるんだけどね……」
「いや……お前、どっかで……あっ」
何かに思い至ったように、声を漏らした男。
「……って!何いきなり他人の体をぶしつけに撫でまわしてるんですかぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「ギャアあああああああああああ!!」
いや、遅いよシスティ。
状況の理解が追い付いたシスティが、男に強烈な回し蹴りを叩き込み、男は再び噴水に吹き飛ばされた。
「流石に擁護のしようがないです!ルミア!こいつを警邏官に引き渡すわよ!」
「……いや、別にいいんじゃない?」
「えっ?」
今気づいたけど、この人あれだ。三年前に私たちを助けてくれた、魔導士だ。名前は……グレン、だっけ?
「それより、早く学院に行こ?どうせもう会うことはないんだし、この人もこんなことで人生終わらせるのは可哀そうだよ」
「貴女……誰?本当にルミア?実はそっくりの偽物なんじゃないの?」
「どういう意味?」
流石に言いすぎだと思うんだけど。……まぁ、命を救ってもらってるんだし、これくらいは別に……まっ、これで貸し借りなしでいいんじゃない?
「ほらっ、行こう?」
「……まぁ、ルミアが良いって言うなら。……とにかく、次はありませんからね!」
グレンさんはずっと噴水で気絶しているから、何も聞こえてないと思うけど……まぁいいや。
そして、学院に無事ついた私たち。今は、新しくやってくる非常勤講師を待っているのだが……
「遅い」
隣に座るシスティが、苛立ったように呟いた。いや、実際に苛立っている。
「もう半分以上授業時間過ぎてるじゃない……何やってるのよ!」
――今日からこのクラスに非常勤講師が来るのは、みんな知っていると思う。
――まぁ、なかなか優秀な奴だよ。
これは、朝方、このクラスにやってきた学院の教授、セリカ=アルフォネアの言葉だ。
彼女は魔術師の階梯……所謂、ランク的な奴で、最高位である
そんな彼女が、なかなか優秀と言った講師、システィも、クラスのみんなも、どんな人物なのか楽しみにしていたのだが……まさか初日から遅刻とは。
この学院は、アルザーノ帝国で最も地位のある魔術学院、アルザーノ帝国魔術学院だ。
ここに入学している生徒は、全員ここの学生であることを誇りに思っているし(ルミア以外)、教師も全員、意識の高い者ばかりだ。
学生の遅刻などないし(ルミア以外)、教師が遅刻してくるなど前代未聞である。
「大物みたいだね?」
「そうね。まるで入学初日に遅刻したどこかの誰かみたいね」
システィがこちらを見ながらそう言う。
……そう言えば、そんなこともあったような……なかったような、あったような。
「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわ」
すると、ガチャリと教室のドアが開いた。どうやら、
「やっと来たわね!貴方、この学院の講師としての自覚は……えっ?」
「違います人違いです」
こちらの姿を確認した瞬間、全力で目を逸らしてそんなことを言ってのけるグレンさん……というより、グレン先生。
「いや、そんな訳ないじゃない!貴方みたいな人が早々居て堪るもの……そう言えば、私の隣に一人いたわね」
「こっち見んな」
先生以外の全員が、システィの言葉に共感しながらこっちを見た。解せぬ。
「あー。このたび非常勤講師となり、このクラスを受け持つことになった、グレン=レーダスです。これから一ヶ月間、みなさんの勉学のお手伝いをさせていただきまーす」
それはもう、まるでやる気が感じられなかった。ここまで人にやる気を感じさせない挨拶というのも珍しい。
「特技と趣味は――」
「挨拶はいいから、早く授業を始めてくれませんか?」
初回に授業があるはずないだろ、とか思ってはいけない。ウチの学院では、初回に授業があるのは当たり前なのだ。
「……それもそうだな」
すると、グレン先生はめんどくさそうに頭を掻きながら、チョークを手に持ち、黒板に文字を書いた。
自習、と。
「へっ?」
システィが思わず間抜けな声を漏らす。
「えー、本日の一限目の授業は自習にしまーす。……眠いから」
最後のロクでもない理由を告げて、宣言通りグレン先生は教壇に突っ伏してしまった。
「……じゃあ、私も」
「させるか!……っていうか、ちょっと待てやゴラァァァァァアアアアアアア!!!」
私の頭をチョップしつつ、グレン先生には怒りの鉄槌と言わんばかりに、教科書を叩きつけるのだった。
その後、ド突かれた先生は仕方なく授業を行ったのだが
「えーっと、ここは―多分こうなってー、こっちは多分こんな感じでー?」
すごかった。何が凄いって、書いてる文字が、まるでミミズが這ったかのように汚い。何一つ読めなかった。しかも、断片的に聞き取った限りじゃ、教科書の内容を丸写してるだけのようだ。
「……どうやったらあんな字が書けるのかな?ちょっと質問してみ――」
「させないわよ」
私の動きを察知したのか、全力で止めにかかるシスティ。
「……はー、めんどくせぇ」
「凄いね。本当に目が死んでる人っているんだ」
私が感心したように声を漏らすと、システィがキッ、と睨みつけてきた。怖い。生理でもきてるの?
「あの……質問が。先程紹介してくれた連語の呪文ですが、その共通語への翻訳がよくわからなくて……」
小動物を思わせる少女、リンが、グレン先生に質問した。
質問を受けたグレンが、少し教科書を見た後、何やら納得したように頷いた後言った。
「あー……うん。俺もわからん。すまんな、辞書とかで自分で調べてくれ」
「ぶッ!」
思わず吹いた。
「待ってください!リンの質問に対してその回答、講師としてどうなんですか⁉」
そして、我らが生真面目優等生、システィ様は大変お怒りだった。
「だーかーらー。俺も分からないんだってば」
「分からないのなら、後日自分で調べて、また生徒に教えるとか……」
「それならお前らが自分で調べたほうが早いじゃん」
「そうじゃありません!私が言いたいのは……」
「あっ!ひょっとしてお前らって辞書の引き方まだ教わってねーの?それじゃあしょうがねー。俺が調べてきておいてやるよ。あーめんどくせぇ」
しかし、グレン先生が口八丁に言い訳を並べ、のらりくらりとシスティの説教を躱す。
すると、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「おっ、それじゃあ、今日の授業はここまで―!」
「あっ、ちょっと!まだ話は終わっていない……」
システィが引き留める間もなく、グレン先生は教室を出ていった。
こうしてみると、グレンって相当やばいな。