第二王女なので人生イージーモードだと思ってたら放逐された(笑) 作:山羊次郎
現在、私たちは、次の錬金術の授業の為に、着替えをしています。
「なんなのあいつ!やる気なさすぎよ!」
更衣室に、システィの絶叫が響き渡る。
「落ち着いてシスティ。ほらっ、ここに私の巨乳があるよ?」
「貴女のを揉んでも逆に虚しくなるからいい」
むっ、ダメだったか。人間はおっぱいに癒されるものだと思っていたが、どうやら、おっぱいにも限界があるらしい。
「次の錬金術の実験もあいつが監督するんでしょ?胃に穴が開きそう…」
「あ~めんどくせぇ!ったく錬金術ってのはなんで着替える必要が…」
凄まじい勢いで、更衣室のドアが蹴り開けられる。ドアの先には、我らがグレン先生がいた。
「ん?……これは……」
完全に停止しているみんなと違い、先生は冷静に一度部屋を出て
「あー、俺の時と更衣室の場所が入れ替わってるのか。ったく、セリカの奴、ちゃんと言えっての」
「……、」
すると、漸く再起動したらしい他の女子が、ゴゴゴと聞こえてきそうなほど怒りを露わにし、グレンを睨みつけている。
「あ~待て。俺は常日頃こんなお約束展開について物申したいことがある!どうして慌てて目を背けたり手を引っ込めようとしたりってな!たかが女の裸をちらっと一目見るのとボコられるのが等価交換なんて割に合わないだろどう考えても!」
右手で女子を制しつつ、左手で顔半分を覆いながら、そんなこと言うグレン先生。
確かに、正論だ。仕方ない。先生には私のヌードを見せてあげ――
「だからッ!俺はこの光景を、目に焼き付けるッッッ!!!」
グレン先生が魂の叫びをした瞬間、私とリン以外の全ての女子が、先生に殺到した。
錬金術の授業は、中止になったとだけ伝えておこう。理由?聞かない方が身のためだよ。
お昼休み。
私が注文を取り、システィの所に向かうと、空にある『メルガリウスの天空城』を見上げ、ため息をつくシスティの姿があった。
「結局、錬金術実験は休講だなんて。ちゃんと勉強したいのに……」
「はいはい。システィの言い分もわかるけど、ご飯の時は忘れてね。私のごはんが不味くなっちゃうもん」
「……はぁ」
システィが私を見て、またため息をついた。どこにため息をつく要素が?
「『メルガリウスの天空城』の謎を解くって。そのために、まだまだたくさんの魔術の勉強をしなくちゃいけないのに……」
「おじいさんとの夢?……まぁ、応援はしてるよ」
「はいはい。それはどうも」
「失礼」
すると、向かいの席に誰か来たようだ。まぁ、相席くらい別に
「あーっ!貴方――ッ!」
「違います人違いです」
「それはさっきも聞きました!」
グレン先生が、凄い量のご飯とともにやってきた。
「随分たくさん食べるんですね?」
「ん?……あぁ。メシは俺の数少ない娯楽の一つだからな」
「そうですか。システィとは大違いですね。この子全然食べないんですもん」
「ん?そういや……お前、そんなんで足りるのか?成長期だろ?栄養が行かないぞ。どこにとは言わないが」
システィのご飯は、イチゴタルト二つとパン一枚だ。あと紅茶。……よくそれで午後の授業出れるね?
グレンの物言いに、ピクピクと、額に青筋を浮かべながらも、努めて冷静に答えるシスティ。
「……先生にご飯の量で心配される謂われはありません。私は午後の授業が眠くなるから、そんなに食べないだけです。……けど、この後の先生の授業だったら、もう少し食べても支障はなさそうですけどね?」
システィがバカにしたような表情でグレン先生を見る。
「……回りくどいな。言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」
「……いいでしょう。この際はっきり言わせていただきます。私は――」
しかし、システィの言葉は続かなかった。先生が彼女の口に、突如自分の昼食の一つを突っ込んだからだ。
「わーってるって。お前も食いたかったんだろ。この卑しんぼめ」
「⁉⁉⁉……(ごっくん)違います!私が言いたいのは――」
「代わりにそっちもよこせ」
「あぁー!?」
「あっ、私こっち貰いますね。代わりにこれ上げる」
「ちょ、ルミアまで!?もーっ!どうした私の周りはこんな人ばっかりなの――ッ!」
怒り狂うシスティ。等価交換だよ。
「大体、生徒のご飯を勝手に取るなんて、貴方それでも講師なんですか⁉」
「ん?……あぁ、非常勤だけど」
あっ、ちょっとカッコイイ。
そして、そんな日々が、三日は続いた。
ある時
「……余り言いたくはありませんが」
「じゃー言わなくていいぞー」
グレン先生はまたしても教壇に突っ伏している。背後には、『じ』と、ミミズが這ったような何か。恐らく、自習と書くのも面倒になったのだろう。
「私はこの学院にそれなり影響力を持つ、魔術の名門、フィーベル家の娘です。私が父に進言すれば、あなたの進退を決することもできるんですよ!」
「……えっ、マジで?」
「ちょ、流石にそれは……」
流石に驚いたのか、グレン先生が机から顔を上げる。
いくらなんでも、伝家の宝刀を抜きすぎなのでは?
しかし両親の権力を使うのを嫌うシスティが、その信条を捨ててまで脅すのだ。余程、先生に授業をしてほしいのだろう。
「マジです!ですから、貴方が今のまま授業に対する姿勢を改めないのであれば……」
「お父様に期待していますと、お伝えください」
「……えっ」
いつの間にかシスティのもとに来ていたグレン先生が、彼女の両手を取り、真摯に訴えていた。
「いや~よかったよかった。これで辞められる~」
「は……?」
「……まぁ、そうなるよね」
グレン先生が焦るどころか、喜びだしたことに、システィは呆気に取られている。
いや、クビになりたくないんだったら普通の授業するだろうし、どう考えてもいやいやだったし、普通にそういうのは逆効果だと思うんだけど。
「脅されてイヤイヤ引き受けてみたけど、やっぱ無理で……」
「……、」
グレン先生の言葉は続かなかった。システィが、自身の手袋を、彼の顔に投げつけたからだ。
己の左手の手袋を相手に投げる。それは、魔術同士の決闘の申し込み。手袋を拾ったら、必ず勝負を受けなくてはいけない。
もちろん、断りたいなら、手袋を拾わなければいいが、その場合、周囲からは腰抜け扱いされるだろう。
「貴方に、それが受けられますか?」
「お前、マジか……?」
「私は本気です!」
グレンが僅かに驚いたようにシスティに問うも、彼女の決意は固いようだ。
「……どうしよう?」
グレン先生はかつては帝国宮廷魔導士団の人間だった。何故こんなところにいるのかは不明だが、実力があるのは事実だろう。
無論、システィが戦って敵うはずがない。しかし、彼女を止めたいとは思えない。
「何が望みだ?」
「これまでの態度を改めて真面目に授業してください」
「辞表を書け、じゃないのか?」
「貴方が本当に講師をやめることを望んでいるなら、そんな要求に意味はありません」
「……はぁ、お前分かってるのか?俺が勝ったらこっちの要求を吞まなきゃならないんだぜ?」
「……承知の、上です」
システィの声が僅かに震えた。
「それでも私は…フィーベル家の次期当主として……あなたのような、魔術を貶める輩を、看過することはできません!」
まるで太陽のような、穢れを知らない宝石のような眩しさが、システィにはあった。
「ぐぉぉ、眩しい!俺にはその光は眩しすぎる……はぁ、やれやれ。こんなカビ臭い儀礼を吹っかけてくる骨董品が、未だに生き残ってるとはな。……いいぜ。その決闘受けてやる」
グレンが手袋を拾い、上空に投げた後、キャッチしようとし、落とした。
何とも言えない空気が、場を支配する。
「……こっちの要求は……そうだな。……お前、よく見ればかなりの上玉だな。よし、俺が勝ったら、俺の女になれ」
「!」
…………。
「……わ、分かりました!受けて立ちます――ッ!」
明らかに震えた声で、システィは勝負を受ける。もとより、要求は呑まなければならない。それを承知で、勝負を仕掛けたのはシスティなのだ。断る権利はない。
そんな彼女を見たグレン先生は――
「ぶっーっはっはっは――ッ!!」
――突如、腹を抱えて笑い出した。
「えっ?」
「そんなビクビクすんなって!冗談だよ冗談。お前みたいな説教女貰っても嬉しくないし……俺の要求は、一週間、俺への説教禁止だ」
……ふぅ。よかった。先生は意外と紳士だったようだ。
「ば、バカにして……ッ!」
しかし、揶揄われた本人は、逆上したようだ。
二人はそのまま、中庭に移動する。私たちも、勝負を見届けるために、移動を開始した。