第二王女なので人生イージーモードだと思ってたら放逐された(笑)   作:山羊次郎

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五話:魔術

「……何を言うかと思えば。……魔術は、この世界の真理を追究する学問よ。それは、人がより高次元の存在へと近づくための……」

「なんの役に立つんだそれ?」

 

 普段の先生なら、適当に彼女の話を聞き流し、そんなものかね、と適当に相槌を返していただろう。

 

「役にって……だから、より高次元の存在に近づくために……!」

「世界の法則を追求したらどうなる?高次元の存在ってなんだよ。神様か?」

「そ、それは……」

 

 システィが詰まっている。

 まぁ、魔術が偉大で崇高とかいうのは、あくまで回りがそう勝手に言ってただけだし、私は別にそう言う風には思ってなかったけど。

 

「例えば医術は人を病から救うよな。農耕技術、建築技術。人の役に立つ技術は多い。『術』と付くものは、たいてい人の助けになってきた。だが魔術は?何の役にも立たないってのは俺の気のせいか?」

「…………」

 

 魔術は基本的に、それを扱う魔術師しか、恩恵を受けることが出来ない。

 だからこそ、一般的に人の役に立つことがないのだ。

 

「魔術は……、人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ……」

「でも役に立たないなら、結局ただの趣味だろ?お前らはそんなただの趣味の為に、人生を費やすのか?」

「あ、貴方は……!」

「嘘だよ。冗談だ。魔術はちゃんと役に立ってるよ」

 

 誰もが先制に言い返すことが出来ないでいると、なんと先生の方から手の平を返してきた。

 ……嫌な予感がする。

 

 

「あぁ、スゲー役に立つよ。……そう、()()()にな」

 

 

「な――ッ!?」

 

 そう言った先生の顔は、何かを憎むような、そんなとてつもない悪意に満ちていた。

 

「剣が人を一人切り殺してる間に、魔術は一撃で何十人と灰にできる。武装した一つの軍隊を、魔術師は二、三人で消し炭に出来る。な?これほど人殺しに優れた『術』は、そうそうないぜ?」

「ふ、ふざけないで!魔術はそんなんじゃない!魔術は……!」

 

 システィが必死に否定しようとするも、先生はそれを許さない。

 

「違わねぇよ。この国が他国から「魔導大国」と呼ばれる意味は何だ?二百年前の『魔道大戦』、四十年前の『奉神戦争』で、どれだけの犠牲が出た?未だにこの国で、帝国宮廷魔導士団なんて物騒な連中に、多額の資金が提供されてるのは?それ以前に、外道魔術師によって起こった凶悪の魔術事件の数々、上げるだけでキリがない。それに、お前らが習う魔術だって、殆どは攻撃用の呪文だろーが」

 

 誰もが、先生の言葉を止めることが出来なかった。この話をする先生の剣幕が、普段と違いすぎるほど憎悪に満ちていて、全員が委縮しているのだ。

 

「今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ」

「ち、違う……」

「魔術は人を殺すことで発展してきたロクでもない技術だからな」

「そ、そんなこと……な」

「全く、お前らの気が知れねぇよ。こんな人殺し以外、何の役にも立たんモンを勉強するなんてな!お前もこんなくだらんことに人生費やすならもっとましな――」

 

 

 パチンッッッと。そんな音が、教室に響き渡った。

 

 

 システィが、先生の頬に、平手打ちを放ったからだ。その一撃は、ただ、それ以上先を言って欲しくないという、僅かな思いが宿っていた。

 

「……て、テメェ、なにしやが……る」

 

 先生がシスティのほうを見るが、それ以上言葉が続かなかった。

 

「大っキライ……!」

 

 そう言ってシスティの瞳は、悲しみで涙で濡れていた。

 彼女はそのまま、教室から出ていってしまう。

 

「ちょ、待ってシスティ!」

 

 私はあわてて彼女の後を追うが

 

「……どこに行ったのシスティ?」

 

 全く、学院で迷子になるなんて。

 

「……いつの間にか今日の授業も終わってる……はぁ」

 

 全く、優等生が授業をすっぽかすとはいい度胸……まぁ、先生の授業じゃ参加しても一緒だろうけど。

 

「……あれ?実験室が開いてる?」

 

 歩き回っていると、法陣の実験室が開いているのに気づいた。

 確か、この実験室は生徒による個人使用が禁止されているので、勝手に使うことはできなかったはず。

 

「……そう言えば、私、法陣で分からないことがあったなぁ」

 

 これは仕方がないのだ。開いているのだから。

 それに、開けっ放しにしている方も悪い。折角なので、お邪魔させてもらおう。

 

「……え~っと、ここはこうなって、……あれ?なんで発動しないの?……あっ、ここの配列が違うのか……。あれ?まだ発動しない……あっ!水銀が足りない!」

「そう言うことだ」

 

 突如、閉めていたはずの実験室の入り口が開き、そんな声が聞こえた。

 

「って、グレン先生!?どうしてここに……」

「いや、屋上からお前がここに居るのが見えてな。ったく、実験室の個人使用は禁止されてるはずだろ?」

「実験室の扉が開けっ放しになってたので、つい。鍵を掛けていない方が悪いんですよ」

「確かに、そりゃそうだな」

「あっ、もう片付けますね!」

「いいよ。最後までやれ。折角、自分で間違ってるところに気づけたんだ」

「……えっ、いいんですか?やっちゃいますよ?」

 

 先生は特に反応しなかったので、やってしまうか。

 取りあえず、魔法陣の間違っている部分を直していくと

 

「ったく、お前らは目に見えないものには神経質なくせに、そう言う当たり前のものを疎かにしがちだ。魔術を必要以上に神聖視してる証拠だ」

「へぇ。凄いですね、これだけでそこまで分かるなんて」

「……この学院の講師なら、誰にだって分かるだろ。……よし、そこの部分をもう少しこう……」

「えっ……あ、ありがとうございます!」

「これでよし、っと。ほら、詠唱してみろ。教科書通り、五節だ。省略すんなよ?」

 

 省略できないこと、まだ根に持ってるんですね。……でも、ちょっと楽しそう。

 

「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・道を為せ》」

 

 すると、法陣が、今まで見た事ないような、鮮やかな輝きを示す。

 それは、とても幻想的で、美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ホント助かりました。マジサンキューです先生」

「……そっちが素か。普段は猫被ってんだなお前」

 

 あの後、法陣を片づけ、そのまま実験室を出て、帰り道が途中まで同じということで、勝手に同行させてもらっている。

 

「まぁ、そんなところですね。ぶっちゃけ私の素を知ってるのは、システィくらいです」

「ふ~ん、まっ、どうでもいいや」

 

 ですよね。

 

「先生は、教師になる前は何をしてたんですか?」

「引きこもりの、ごく潰しだ」

「ふふっ、先生らしいですね」

「だろ?学院にセリカって偉そうな女がいるだろ?ここ一年はアイツのスネをかじってたんだぜ?」

 

 ふーん。

 

「一年、ですか」

「おう、すげぇだろ?」

「ですね。でも、それより前は?」

 

 その問いに関し、先生は無言を貫いた。これは、答えてもらえそうにないな。

 

「じゃあ、話変えますけど、先生実は、魔術が好きだったりします?」

「……、ねーよ。言っただろ?魔術はロクでもないもんだって」

「あっ、それに関しては、今度システィに謝ってあげて。あの子にとって魔術は、死んでしまったおじいさんとの、絆みたいなものなので、悪く言われたらそりゃ泣いちゃいますし」

「……………そりゃ、確かに悪いことしたな」

 

 流石にバツが悪いのか、ぼそぼそとそんなことを呟く先生。

 

「システィは、おじいさんの夢である『メルガリウスの天空城』の謎を解くっていう夢を継ぐために、魔術の勉強をしてるんです」

「ふーん、そりゃ大層立派なこって。……じゃあ、お前は?」

「えっ?」

「お前は、何の為に魔術を習ってるんだ?」

 

 考えた事なかった。システィが学院に通うから、私も必然的に同行して入学したみたいな感じだったし……。

 

「……まぁ、特に考えてはないですが……うん」

「?」

 

 

「……魔術で悲しむ人を作らない。それが、私の第一目標、かな?」

 

 

「……」

「システィみたいに、魔術を自分の希望に感じている人もいるけど、先生みたいに、絶望に感じている人もいる」

 

 何があったのかは知らない。私には、知る権利もない。

 だが、少なくとも、彼は魔術に絶望していた。そう思えるほど、彼の言葉には、その絶望(おもい)が籠もっていた。

 

「だから、魔術が人を幸せに出来る……、笑顔に出来る。そんな未来が、いつかやってくることを信じて、私は、魔術を勉強していきたいです」

「…………ふーん。まっ、即興で考えたにしてはいいんじゃねぇの?」

「はい。まだ、最終目標は見えてないけど……きっと、悪いようにはならない。そう信じてます」

 

 そして、私たちは十字路に差し掛かった。

 

「あっ、私こっちですので。それじゃあ、また明日……辞めたらダメですよ?」

「まっ、それは俺の気分次第だがな」

 

 だと思いました。

 

 

 




 ルミアちゃんがちょっといい子してるの草。
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