第二王女なので人生イージーモードだと思ってたら放逐された(笑) 作:山羊次郎
「……何を言うかと思えば。……魔術は、この世界の真理を追究する学問よ。それは、人がより高次元の存在へと近づくための……」
「なんの役に立つんだそれ?」
普段の先生なら、適当に彼女の話を聞き流し、そんなものかね、と適当に相槌を返していただろう。
「役にって……だから、より高次元の存在に近づくために……!」
「世界の法則を追求したらどうなる?高次元の存在ってなんだよ。神様か?」
「そ、それは……」
システィが詰まっている。
まぁ、魔術が偉大で崇高とかいうのは、あくまで回りがそう勝手に言ってただけだし、私は別にそう言う風には思ってなかったけど。
「例えば医術は人を病から救うよな。農耕技術、建築技術。人の役に立つ技術は多い。『術』と付くものは、たいてい人の助けになってきた。だが魔術は?何の役にも立たないってのは俺の気のせいか?」
「…………」
魔術は基本的に、それを扱う魔術師しか、恩恵を受けることが出来ない。
だからこそ、一般的に人の役に立つことがないのだ。
「魔術は……、人の役に立つとか、そんな次元の低い話じゃないわ……」
「でも役に立たないなら、結局ただの趣味だろ?お前らはそんなただの趣味の為に、人生を費やすのか?」
「あ、貴方は……!」
「嘘だよ。冗談だ。魔術はちゃんと役に立ってるよ」
誰もが先制に言い返すことが出来ないでいると、なんと先生の方から手の平を返してきた。
……嫌な予感がする。
「あぁ、スゲー役に立つよ。……そう、
「な――ッ!?」
そう言った先生の顔は、何かを憎むような、そんなとてつもない悪意に満ちていた。
「剣が人を一人切り殺してる間に、魔術は一撃で何十人と灰にできる。武装した一つの軍隊を、魔術師は二、三人で消し炭に出来る。な?これほど人殺しに優れた『術』は、そうそうないぜ?」
「ふ、ふざけないで!魔術はそんなんじゃない!魔術は……!」
システィが必死に否定しようとするも、先生はそれを許さない。
「違わねぇよ。この国が他国から「魔導大国」と呼ばれる意味は何だ?二百年前の『魔道大戦』、四十年前の『奉神戦争』で、どれだけの犠牲が出た?未だにこの国で、帝国宮廷魔導士団なんて物騒な連中に、多額の資金が提供されてるのは?それ以前に、外道魔術師によって起こった凶悪の魔術事件の数々、上げるだけでキリがない。それに、お前らが習う魔術だって、殆どは攻撃用の呪文だろーが」
誰もが、先生の言葉を止めることが出来なかった。この話をする先生の剣幕が、普段と違いすぎるほど憎悪に満ちていて、全員が委縮しているのだ。
「今も昔も魔術と人殺しは切っても切れない腐れ縁だ」
「ち、違う……」
「魔術は人を殺すことで発展してきたロクでもない技術だからな」
「そ、そんなこと……な」
「全く、お前らの気が知れねぇよ。こんな人殺し以外、何の役にも立たんモンを勉強するなんてな!お前もこんなくだらんことに人生費やすならもっとましな――」
パチンッッッと。そんな音が、教室に響き渡った。
システィが、先生の頬に、平手打ちを放ったからだ。その一撃は、ただ、それ以上先を言って欲しくないという、僅かな思いが宿っていた。
「……て、テメェ、なにしやが……る」
先生がシスティのほうを見るが、それ以上言葉が続かなかった。
「大っキライ……!」
そう言ってシスティの瞳は、悲しみで涙で濡れていた。
彼女はそのまま、教室から出ていってしまう。
「ちょ、待ってシスティ!」
私はあわてて彼女の後を追うが
「……どこに行ったのシスティ?」
全く、学院で迷子になるなんて。
「……いつの間にか今日の授業も終わってる……はぁ」
全く、優等生が授業をすっぽかすとはいい度胸……まぁ、先生の授業じゃ参加しても一緒だろうけど。
「……あれ?実験室が開いてる?」
歩き回っていると、法陣の実験室が開いているのに気づいた。
確か、この実験室は生徒による個人使用が禁止されているので、勝手に使うことはできなかったはず。
「……そう言えば、私、法陣で分からないことがあったなぁ」
これは仕方がないのだ。開いているのだから。
それに、開けっ放しにしている方も悪い。折角なので、お邪魔させてもらおう。
「……え~っと、ここはこうなって、……あれ?なんで発動しないの?……あっ、ここの配列が違うのか……。あれ?まだ発動しない……あっ!水銀が足りない!」
「そう言うことだ」
突如、閉めていたはずの実験室の入り口が開き、そんな声が聞こえた。
「って、グレン先生!?どうしてここに……」
「いや、屋上からお前がここに居るのが見えてな。ったく、実験室の個人使用は禁止されてるはずだろ?」
「実験室の扉が開けっ放しになってたので、つい。鍵を掛けていない方が悪いんですよ」
「確かに、そりゃそうだな」
「あっ、もう片付けますね!」
「いいよ。最後までやれ。折角、自分で間違ってるところに気づけたんだ」
「……えっ、いいんですか?やっちゃいますよ?」
先生は特に反応しなかったので、やってしまうか。
取りあえず、魔法陣の間違っている部分を直していくと
「ったく、お前らは目に見えないものには神経質なくせに、そう言う当たり前のものを疎かにしがちだ。魔術を必要以上に神聖視してる証拠だ」
「へぇ。凄いですね、これだけでそこまで分かるなんて」
「……この学院の講師なら、誰にだって分かるだろ。……よし、そこの部分をもう少しこう……」
「えっ……あ、ありがとうございます!」
「これでよし、っと。ほら、詠唱してみろ。教科書通り、五節だ。省略すんなよ?」
省略できないこと、まだ根に持ってるんですね。……でも、ちょっと楽しそう。
「《廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・道を為せ》」
すると、法陣が、今まで見た事ないような、鮮やかな輝きを示す。
それは、とても幻想的で、美しかった。
「ふぅ、ホント助かりました。マジサンキューです先生」
「……そっちが素か。普段は猫被ってんだなお前」
あの後、法陣を片づけ、そのまま実験室を出て、帰り道が途中まで同じということで、勝手に同行させてもらっている。
「まぁ、そんなところですね。ぶっちゃけ私の素を知ってるのは、システィくらいです」
「ふ~ん、まっ、どうでもいいや」
ですよね。
「先生は、教師になる前は何をしてたんですか?」
「引きこもりの、ごく潰しだ」
「ふふっ、先生らしいですね」
「だろ?学院にセリカって偉そうな女がいるだろ?ここ一年はアイツのスネをかじってたんだぜ?」
ふーん。
「一年、ですか」
「おう、すげぇだろ?」
「ですね。でも、それより前は?」
その問いに関し、先生は無言を貫いた。これは、答えてもらえそうにないな。
「じゃあ、話変えますけど、先生実は、魔術が好きだったりします?」
「……、ねーよ。言っただろ?魔術はロクでもないもんだって」
「あっ、それに関しては、今度システィに謝ってあげて。あの子にとって魔術は、死んでしまったおじいさんとの、絆みたいなものなので、悪く言われたらそりゃ泣いちゃいますし」
「……………そりゃ、確かに悪いことしたな」
流石にバツが悪いのか、ぼそぼそとそんなことを呟く先生。
「システィは、おじいさんの夢である『メルガリウスの天空城』の謎を解くっていう夢を継ぐために、魔術の勉強をしてるんです」
「ふーん、そりゃ大層立派なこって。……じゃあ、お前は?」
「えっ?」
「お前は、何の為に魔術を習ってるんだ?」
考えた事なかった。システィが学院に通うから、私も必然的に同行して入学したみたいな感じだったし……。
「……まぁ、特に考えてはないですが……うん」
「?」
「……魔術で悲しむ人を作らない。それが、私の第一目標、かな?」
「……」
「システィみたいに、魔術を自分の希望に感じている人もいるけど、先生みたいに、絶望に感じている人もいる」
何があったのかは知らない。私には、知る権利もない。
だが、少なくとも、彼は魔術に絶望していた。そう思えるほど、彼の言葉には、その
「だから、魔術が人を幸せに出来る……、笑顔に出来る。そんな未来が、いつかやってくることを信じて、私は、魔術を勉強していきたいです」
「…………ふーん。まっ、即興で考えたにしてはいいんじゃねぇの?」
「はい。まだ、最終目標は見えてないけど……きっと、悪いようにはならない。そう信じてます」
そして、私たちは十字路に差し掛かった。
「あっ、私こっちですので。それじゃあ、また明日……辞めたらダメですよ?」
「まっ、それは俺の気分次第だがな」
だと思いました。
ルミアちゃんがちょっといい子してるの草。